§031 とある魔導士の冒険譚
――私は冒険者をしていました。
リーダーである槍術使いのランス・ウォーカー(age.28)
錬金術師のエドリック・クラウド(age.34)
回復術士のティアラ・セレスティン(age.26)
そして、魔導士の私、ラフィーネ・アメストリア(age.16)
この四人で『終焉の夜明け』を名乗り、世界の各地を旅していたのです。
それぞれの出会いについては割愛しますが、元々パーティを組んでいたというわけではなく、縁が重なって偶々気の合ったこのメンバーで旅をしていこうということになったのだと記憶しています。
そんな同好会みたいな緩いパーティですが、実力は折り紙付きで、当時の冒険者ランクですと『Sランク』の冒険者に分類されるほど、それなりに名の通った冒険者パーティでした。
そんな『終焉の夜明け』が最も大切にしていたこと。
それは――楽しく旅をすること――でした。
こう言うと他の冒険者に申し訳ない気もしますが、私達は特に大きな志というものを持ち合わせていなかったのです。
冒険者は大抵の場合、志というものを持ち合わせています。
例えば、魔物から世界を救うとか、世界最強の冒険者になるとか。
でも、私達にはそういうものは特にありませんでした。
行ったことのない待ちで、未だに目にしたことにない物に出会う。
そんな何にも縛られない自由気ままな旅が『終焉の夜明け』には合っていたのだと思います。
私もそんな『終焉の夜明け』がとても心地よく、いつの間にか居着いてしまった口と言えるかもしれません。
そんな私達に転機が訪れたのが、『終焉の夜明け』を結成して2年ほどの歳月が過ぎた時でしょうか。
王国から『特別クエスト』の依頼が来たのです。
依頼内容は、特級指定魔物の討伐でした。
ただ、いくら特級指定魔物と言っても、当時の私達にとってはそこまで難しいクエストではありませんでした。
もしこれが単なる魔物討伐であれば、私達は特に魅力を感じることなく、クエストをお断りしていたものと思います。
しかし、このクエストには、私達がクエストを受けなければならない理由がありました。
それは、この特級指定魔物がとある魔導具をドロップする可能性があるという情報に接したからです。
その魔導具の名は――『終焉の魔女の涙』。
『終焉の魔女の涙』は、一説によると、使用者は不老不死になるとか、圧倒的な魔女の力を得られるという伝説級の魔導具。
もちろんこんな魔導具を手にした者は過去を見つかりませんでしたので、あくまで噂レベルでしかなかったのですが、そんな魔導具を私達が見逃すわけがありません。
あ、誤解しないでもらいたいのは、私達『終焉の夜明け』はこの魔導具を使うつもりは一切なかったということです。
ただ、不老不死であろうと、圧倒的な魔女の力であろうと、世界の秩序を変えてしまう力があることは明白。
仮に悪しき心を持つ者に渡れば、世界は滅びの一途を辿るでしょう。
そう考えた私達は、この素敵な世界を決して滅びさせないよう、人知れず『終焉の魔女の涙』を封印することを画策したのです。
そうして、私達が向かったダンジョン。
討伐対象である特級指定魔物は、人型の魔物が一体のみ。
正直、楽勝だと思った記憶があります。
私の
もちろん私一人では厳しい相手ですが、特に目立った特性もなかったので、四人がかりであれば、時々放たれる範囲攻撃にさえ気をつけていれば造作も無い相手でした。
そうして、私が最後の一撃を魔物に叩き込んだ瞬間――それは発動してしまいました。
通称――『黄泉の導き』。
自身の死を条件として発動し、最終攻撃者を黄泉の世界へと引きずり込む闇魔法です。
回避や解除は不可。
『黄泉の導き』が発動したら最後、対象者は7日の時をかけて次第に衰弱し、最終的には命を落とします。
そんな最低最悪の魔法に――私がかかってしまったのです……。
魔物は倒すことは出来ましたがあと7日の命。
あと1週間でこの世界からお別れしなければいけないと思うと、涙が止まりませんでしたね。
もう皆と旅ができない。
もっと世界を見て回りたかった。
他にもやりたいことだっていっぱいあった
まだ16歳なのに……こんな惨い最期なんてひどすぎる。
これならいっそのことひと思いに殺された方がよかった。
そう。私は自分が死ぬという現実を受け止めるには、まだ幼すぎたのです。
笑っちゃうでしょう? 世界を股にかけるSランク冒険者が死ぬ覚悟すらできていなかったのですから。
私は荒れに荒れました。
部屋の家具を壊しまくり、壁に風穴を空け、慣れないお酒を一気飲みしたりもしました。
でも、ふと冷静になったときに込みあげてくる喪失感と、死を待つ者に向けられる憐憫の視線がどうにも耐えられずに、私はパーティメンバーの下から何度も逃げ出しました。
まあ、全て連れ戻されたわけですけど……。
そんな状況の中、パーティメンバーの一人からある提案がなされました。
それは――『終焉の魔女の涙』を使ってみないか――というものでした。
そう。私は『黄泉の導き』に侵されましたが、それと引き換えにドロップアイテムである『終焉の魔女の涙』は手に入っていたのです。
ただ、私はすぐさま首を横に振りました。
私達は『終焉の魔女の涙』を使わないために、クエストに挑んだのです。
その意義を無碍にはしたくなかった。
それによくよく調べると『終焉の魔女の涙』には、大きな副作用があることがわかったのです。
それは、発動には一定数の人の命を贄として捧げなければならないというもの。
それを知って『終焉の魔女の涙』を使う馬鹿はいませんよ。
私が生き長らえる代わりに、誰かが死ぬ。
そんなこと……私は決して望んでいなかったのです。
私はパーティメンバーに伝えました。
世界の理に反してまで生きたくない……と。
そんなことよりも私は皆と一緒に旅ができて幸せだった……と。
だから、私の最期を皆で看取ってほしい……と。
この時、私は笑っていることに気付きました。
そうです。この状況になって、私はやっと自身の人生がどれほど幸せなものだったかを理解し、同時に、自身の死を受け入れたのです。
そこからの時間はとても安らかなものでした。
死ぬのが怖くないと言ったら嘘になりますが、かけがえのない仲間が最期までずっと寄り添ってくれている。
いつもと変わらない馬鹿話をして、一緒に笑ってくれている。
たったそれだけで、私の心は多幸感に溢れたのでした。
そうして、私の命の灯火が消えるその日――私は……『魔女』になりました。
ここまで話せばいくら鈍感なハルトでもわかりますよね。
そうです。仲間達は自身の命と引き換えに、私に『終焉の魔女の涙』を使ったのです。
……私が魔女として目覚めた時にはもう仲間の姿はありませんでした。
最初は何が起きたのかわかりませんでしたよ。
なんで自分が生きているのだろうと、皆はどこに行ってしまったのだろうと。
でも、私が生きていることこそが何よりの証拠なのです。
この時の私はもはや抜け殻でした。
悔恨、憤怒、絶望、悲嘆、虚無感。
全ての感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、もう自分の感情が何なのかもわからなくなりました。
皆にもっと生きてほしかった。
ちゃんと相談してほしかった。
別れの言葉だってまだ言えてないのに、私が先に逝くはずだったのに、私はそれで納得していたのに。
魔女は言いました。
「私だけ残されたこの世界で……私はこれからどう生きればいいのですか……」
そうして、魔女となって膨大な力と永遠の命を手に入れた代わりに大切なものを失った私は、いつしか世界を終焉に導くことに救いを求めるようになったのです。
――これが魔女・ラフィーネの誕生の物語。
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