§029 ビスケ
(ジュージュー)
ハルトは私のリクエストに応えて、串に刺したシイタケを焼いてくれています。
一方の私はというと、
【シイタケ】品質:高
【マツタケ】品質:高
【エノキタケ】品質:高
【ベニテングタケ】特徴:毒、品質:高
【カエンタケ】特徴:猛毒、品質:高
【カミナリタケ】特徴:麻痺、品質:高
視界に映し出されるステータスに従い、毒があるものとそうでないものをより分けていきます。
見た目からして毒のありそうなもの、毒がなさそうなのに毒があるもの。
これは専門家が必要というのは納得ですね。
もし私も
「もう少しで焼けるぞ!」
「は~い。私ももう少しで終わります」
ハルトが声をかけてくれたので、私は残りの仕分けを一気に終わらせると、ハルトの横に腰を下ろしました。
「わくわく」
「お前、本当に食い物のことになるとキャラ変わるよな」
「ハルトの料理が美味しすぎるのが悪いのです。反省してください」
「まあ、俺も久々にキノコが食えるし全然いいけどよ」
そう言ってハルトは地面に突き刺していたキノコ串を1本抜くと、私に手渡してきました。
薄らと焦げ目がついたシイタケ。
それがほんのりと香ばしく、ただ焼いただけなのに、旨味がジュワーッと染み出ているのがわかります。
「ほら、いい具合だ。軽く醤油をかけるともっとうまくなるぞ」
「まさか醤油も持参しているとは先見の明がありすぎです。それでは遠慮なく」
そうしてまたしても涎がこぼれるのを押さえつつ、串を受け取ろうとしたその瞬間――
「きゅぃ!」
――突如、私のシイタケが何者かに搔っ攫われました。
「あっ! 私のシイタケ!」
「うわっ! なんだ!」
私の悲痛な叫びとハルトの驚きの叫びが交錯します。
ただ、私はすぐにシイタケ泥棒の正体がわかりました。
というか、私としたことがすっかり忘れていましたね。
――ローブのポケットにすっぽりと収まっていた彼女(確認済み)のことを。
「きゅいきゅい!」
そう私が先ほどファングウルフから助けた小動物さんです。
私のポケットから自力で這い出した小動物さんは、焼きたてのシイタケを美味しそうに啄んでいます。
どうやらこいつも相当食いしん坊のようです。
「ラフィーネ、なんだそいつは?! 魔物か?」
どうやらハルトもこの小動物さんの正体はわからないみたいで、訝しみながら見つめています。
「先ほどのファングウルフに襲われて足を怪我をしていたので治してあげたんです。そうしたら懐かれてしまいまして……。ハルトもこの小動物が何かはわからないんですか?」
「俺は見たことないな。でも魔物って感じでもないし……っていうかお前の
「確かに」
私はポンと手を叩きます。
この子に出会った時は気が動転していましたし、魔法を使うことに後ろ向きだったこともあり、そのような発想に至りませんでしたが、確かに
私はコホンと咳払いすると、軽く詠唱をして
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【ステータス】
名前:カラドリウス(雛) レベル:1
HP:30/30 MP:10/10
筋力:10 体力:10 敏捷:50 魔力:5 知力:5 幸運:5
説明:神の化身とも称される神聖な鳥。深い森の奥に住むと言われているが、目撃例はほとんどなく、見た者を幸せにするとも言われている。体長は3メートルほど。羽は退化しており飛ぶことはできないが、音速を超える速さで走ることができると言われている。鶏冠からはチョコレートのような甘い香りがする。
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「だそうです。なんか想像してたよりもレアな生物っぽくて私が一番驚いてます。それでこの子の名前の件ですが……」
「ちょっと待て待て待て」
私がこの子に付ける名前の解説を始めようとしたところ、ハルトからストップが入ります。
「何勝手に飼う前提で話を進めてるんだよ。俺達は冒険をしてるんだぞ? そこにペットを連れて行くってどういう了見だ」
「荷物を運んでくれる大きな鳥は旅に付きものじゃないですか! それに私の
私は目を輝かせながら小動物さんの有用性を熱弁します。
「どこのセールスマンだよ。まあ……移動手段になってくれるのはありがたいけど……俺はどうもペットは……」
ハルトはどうにも後ろ向きのようです。
特に理由があるわけではないようですが、紡がれる言葉は非常に歯切れの悪いものばかり。
その言葉の意味がわかったのか、小動物さんは啄んでいたシイタケからハルトに視線を移すと、悲しそうな声で泣きます。
「きゅ~ん、きゅ~ん」
そして、円らな瞳をハルトに向ける小動物さん。
どうやらこの子は人たらしの才能があるようです。
「…………」
「ハルト……飼ってもいいですか?」
「あ~もうわかったよ! そんな目で見つめられて断ったらさすがに目覚めが悪いだろうが!その代わりちゃんと世話するんだぞ! ご飯は1日3回までだぞ!」
まるでお母さんみたいなことを言うハルトですが、渋々ながらもこの子を飼うことを認めてくれたみたいです。
私は嬉しさのあまり小動物さんを抱きかかえて頭に乗せます。
「小動物さん! ハルトの許可が出ましたのでこれからも一緒にいられますよ! 早く大きくなっていつか私達を背中に乗せてくださいね!」
「きゅい! きゅい!」
私がそう言うとやはりこの子は言葉がわかるのか、踊るように羽をバタバタさせると、嬉しそうな声で鳴きます。
「それで、こいつの名前はどうするんだ? もう決めてあるんだろ?」
「ええ。出会った時からこの子に相応しい名前はなんだろうとずっと考えていたんです」
私は頭の上の小動物さんを手に取ると、ゆっくりと黄色いもふもふの羽を撫ぜます。
「――ビスケちゃんというのはどうでしょうか?」
私は小動物さんに小首を傾げながら問いかけてみます。
「きゅいきゅい!」
すると、どうやら名前を気に入ってくれたみたいで、またも嬉しそうに翼をバタバタさせてみます。どうやらこれが彼女なりの親愛のポーズのようです。
「ビスケか。ラフィーネにしては可愛いネーミングセンスだな。こいつも気に入ったみたいだし、いいんじゃないかな。んでどういう意味なんだ?」
「意味……ですか?」
私はハルトの言葉の意味がわからずに小首を傾げます。
「いや、ずっと考えてたって言うから何か願いが込められているとかそういう意味があるのかなと思って」
「あーなるほど。そういうことですか。私が最初にこの子にあげたお菓子がビスケットだったからですけど短絡的ですか? っていうかシイタケ美味ぁぁあ」
私はそう答えながらも、焚き火で炙られていた焼きシイタケに手を伸ばし、口一杯に頬張ります。
「お前はマジで食べ物のことしか頭にないんだな……。なんか真面目に聞いた俺が馬鹿らしくなってきたわ。ほら、バターもあるから醤油と一緒に垂らしてみろ」
「ハルト、貴方は本当に天才です」
「きゅいきゅい!」
こうして、私達は新たな仲間――ビスケをお迎えました。
二人と一羽。
そんな変則パーティの歓迎会は、備蓄のシイタケが尽きるまで続いたのでした。
この日はハルトも「歓迎会だー」とか言って調子乗って食べまくっていたので、無礼講ということで私のお咎めはありませんでした。
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カクヨムコンも残すところあと5日です。
出来れば中間選考は突破したいなと思っておりますので、もし、本作をお楽しみ頂けたという方は、このページの下の方にあるレビュー投稿ボタン(「+」ボタン)から★1~3の三段階で評価をいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
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