シュラバーラーバンバ

小鳩かもめ

プロローグ 姫の憂鬱

 一人の少女がいた。

 少女はだだっ広い部屋にただ一人、空間と時間を持て余していた。

「鏡よ鏡よ、鏡さん。世界で一番かわいいのはだ~れ?」

 一人、姿見の前で呟く。

「それは僕のことだよ。そんなこと、聞かなくても君は知っているはずだろ?」

 鏡に映る自分と同じ姿の少女が、自分とは違う口調で自分のことを褒めてくれた。

「君はかわいい。そして、これからもかわいくなければいけない。姿形だけでなく、性格や趣味でさえも。その代わり、気を抜くときは僕に任せてくれ」

 鏡の中の少女だけが、自分に優しくしてくれる。自分に厳しくしてくれる。

 そして、なにより自分を見てくれる。

「………」

「………」

 再び、部屋の中は静かになる。一日の大半はこんな状況だが、少女はそれに慣れていた。

「お嬢様、お食事のご用意ができました」

 友だちではなくなった少女が癇に障る話し方で用件を伝えにくる。

「わかりました。すぐいきますね」

 少女は鏡の前で目一杯の笑顔を確認してから、部屋を出て行く。

 部屋の中には静寂だけが漂った。

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