第10話 修学旅行②


「え?!楓くんも京都に帰るの?!」


「ああ、ちょいと本家に呼ばれてな...」


もちろん嘘である。コタローからの頼みを任されたから。結菜はとても喜んでいる。


「じゃあさ、京都観光手伝ってよ!」


「...いいぜ」


笑顔で溢れた空間。待ち侘びる京都にていったい何が起きようとはこの時は誰もわからなかった。


▪︎


担任、佐々木先生が点呼を取る。朝7時半、いつもより早い時間に彼らは学校に集合していた。


「ひぃ〜めちゃくちゃ楽しみだぜ〜」


「ねえねえ、みんなでどこ行く〜?」


浮かれた気分の生徒たち。先生も例外ではなく。


「さあて、みんな〜楽しみな気持ちはありますが、まだここは京都ではありませんよ〜」


学校に止まっている高速バス。学校の名前が付いたバス。


「さて、皆さん、これからこのバスに乗って京都に行きますよ〜バスの運転手さんにご挨拶をして中に入りましょうね〜」


元気よく彼らは挨拶をしていた。少し結菜はその運転手に見覚えがあったが、気のせいだと考え、そのままバスの中に入って行った。


さて、バスの汽笛が鳴り響く。2泊3日の京都の冒険が始まる。


「ねえねえ、結菜ちゃん、なんか京都のお兄ちゃんも来てくれるの?」


「うん、私たちとは別だけど京都に来てくれるみたいよ」


「京都の人に観光してもらうの嬉しいね〜」


「そうね〜」


一方、楓は...

「はあはあ...どこにバス停があるんだよ...」


迷っていた。


▪︎


城守家の家。


コタローは城守元と対峙していた。空気感は緊張しており、畏れが乱れる。


「城守元、なんで戻ってきた?」


「.......」


「何、黙ってんだ!お前は零との約束を?!」


そっと口を塞がれた。


「...すまない、コタローくん、君は結菜を護っていて欲しい...」


真剣な眼差しでそう言う。


『今の城守家はを作ろうとしてるわ、お願いコタロー、...』


一瞬思い出してしまった。あの時と同じだ。


「元...」


「........」


無言で目を合わせている。コタローは押さえられていた手をどかし、外に出る。彼が向かうところはいったい・・・


「...私はもう駄目だ」


▪︎


学校を出て、3時間程度...ついに見えてきた京の景色。バスがたどり着くのは中心地、京都駅。ちなみに楓は途中で京都への瞬間転送術式があるのを忘れていて、朱鳥村からなぜか徒歩で山を登り降りして2山目に差し掛かる頃にそれを思い出した。だから、すぐに京都に辿り着いた。あと、こいつ、クマと戦ってきたな。


服がボロボロである。


「妖とは無関係のクマと出くわして少々汚れてしまったな。動物は管轄外なんだよ...」


そう言って、近くの服屋さんに入って、アロハシャツ・薄茶色の半パン・黒いサングラス、明らかに京都のイメージとは全く違う雰囲気を醸し出した。なんならこいつ、本当に陰陽師かとさえ疑問に思うようになってくるほどである。


朱鳥村随一の小学校の看板を提げた高速バスが彼の目の前に停まる。そして、すぐにバスのドアが開き、そこから元気がよい少年少女らが出てきた。


「着いた〜!京都だ〜!!」


「あ、楓くん!」


結菜とも再会できた。


「へえ〜これが結菜の家で居候している京都のお兄ちゃんか〜...」


友梨奈ちゃんがまるで見定めするように楓の全身を見た。


「結菜ちゃん、待ってたよ」


「あれ?でも、私より遅くに出なかった?」


「ああ、少しな、陰陽師の術式を使った」


こそこそと結菜に耳打ちをする。他の生徒はその様子をじっと見るだけで特に聞き耳を立たずにしていた。


「ねえ、あなたは?」


そうか、担任の先生は彼のことを聞いていない。結菜の友達には修学旅行の計画の際にちょろっと言ったが、運悪くその場面には佐々木先生は職員室へ書類を取りに行っていた。


「私は灯篭院楓です。京都出身、現在結菜ちゃんの家で居候させてもらってます。」


社交辞令だ。


「あら、そうだったの」


「本旅行にて京都観光の助太刀として存分に扱ってください」


「あら、わかったわ。じゃあ、これから...」


「え?あの、ちょっと〜〜」


すぐに手を取られ、どこかに連れて行かれた。


「ああ、あの人、めちゃくちゃ仕事させられるね」


「そうね、なんか佐々木先生しか修学旅行に来なかったしね」


「楓くん...」


すうっとバスから降りてくる男性。


「お嬢ちゃんたち、私も忘れないでください。」


「あ、バスの運転手さん!!」


「フォッフォッ、ありがとね...とりあえずしおりによればまず京都駅から電車で行くんだね、すまんなバスで行けなくて」


「ううん、楽しいから」


「別にバスでも電車でもどっちも思い出になれるからいいぜ」


「フォッフォ、ありがとね...」


そう言って、彼はバスに戻り、発車した。なんだか妖のような人だったなと感じた結菜だった。

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