旅で起こった面白い出来事

沈黙は金?

第1話

 僕が大学生の時、オートバイで旅に出たことがあるのだが、その時に2度面白い出来事に出逢った。

 1度目は、大学2年生の夏休みに群馬県桐生市から四国一周するためにオートバイを走らせ旅をしている時に起きた出来事である。が、四国に到達するにはかなりの距離があったので非常に苦労した。

 国道50号で前橋まで出て、国道17号を北上して新潟まで行き日本海の海岸沿いの美しい景観と潮風を満喫しながら富山県に入った。そこから、北陸自動車道を走ることにした。既に深夜に突入していて辺りは漆黒の闇に包まれていた。かなり疲労を感じていたのだが、トラックの間を縫うように走り、滋賀県を通過して京都駅まで出た。夜明け間近という感じだった。

 煙草を一服して、近くのコンビニで弁当と缶コーヒーを買って、京都駅の待合室みたいなところで食べて、少し仮眠を取った。暫くして駅員に注意されたので、京都駅を出発することにし、岡山県を目指した。国道1号で大阪まで出て、国道2号を西へ走って、何とか岡山県に入ることが出来た。そして、倉敷から瀬戸大橋を渡って香川県坂出市に到着することに成功した。初めて四国の土を踏んだ時は感無量だった。その時も、夜だった。よって、夜、瀬戸大橋を渡ったわけだが灯りが織り成す情景はとても美しかったと記憶している。

 高松市を抜けて海岸沿いを走り、徳島県の小松島という所に到着した。そこからフェリーが出ているのだけれども、そこの待合室で暫く休んでいた。朝になるまで、動けなかったことを覚えている。

 小松島を後にし、海岸沿いを再び走り高知県に突入した。室戸岬を目指して一気に走った。ここでオートバイをとめて、海の方を眺め自分の人生などを考えながら物思いに耽っていた。感慨深い気持ちになり、将来に対する不安を感じていた。

 そんなことを、吹っ切る勢いで再び高知駅まで走った。疲れがピークに達していたので、駅の宿泊案内所で宿を探すことにした。キャンセル待ちで見つかったのが、はりまや橋近くのビジネスホテルだった。ここの土地に全く不案内だった僕は、迷った挙句漸くホテルを見つけることに成功した。そして、チェックインを済ませ部屋に入りほっと息をついた。まず、シャワーを浴び旅の疲れを癒やした。そして、汚れた衣類を近くのコインランドリーで洗濯した。洗った衣類を持って戻ってくると、ビジネスホテルの入口で女性が一人立っていた。

 唐突に「Y君ですか?」と僕は聞かれたので、咄嗟に返事をすることが出来なかった。すると「Hの母です」と言われたのだが、僕は少しの間パニックに陥った。

 暫くして頭の中が整理され、同じ大学の同じ学部の同じ学科の友達のH君のお母さんらしいことが分かった。「夕食どうするんですか?」と聞かれたので、「近くのお店でカップラーメンを買って食べようかと思ってます」と正直に僕は答えた。すると「ご一緒しませんか」と言われたのだが、こんな見知らぬ場所で変な事件に巻き込まれるのも厭なので、とりあえず「洗濯したものを部屋に置いてきます」と言って、部屋に戻った。

 僕は、ハッキリ言ってこの出来事に恐怖を感じていた。見知らぬストーカーが、僕を新興宗教に誘い込もうとしているのではないのだろうかと考えたりもした。

 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けるとH君が入ってきた。申し合わせもしていないのに、「こんなことが本当に起きるんだ」と2人でこの出来事の偶然に驚いていた。H君は、両親と車で四国旅行をしていて、このビジネスホテルはかなり前に予約していたらしい。僕の方は、高知駅の宿泊案内所でキャンセル待ちをしていて、たまたまこのビジネスホテルのキャンセルが出たのでここへ来た。駅に着く日にちがずれたり、あの時間よりもし早かったり遅かったりしたら、僕の泊まる所は違っていただろう。凄い偶然もあるものだ。

 ということで、夕食はH君の両親に料亭に連れて行ってもらった。こんなところに行くのは、生まれて初めてのことだったし、カップラーメンの予定だった夕食が高級料理になったということは奇跡的な衝撃を僕に与えた。お座敷で優雅な一時を過ごさせていただいた。という噓のような本当の話が1つ。


 

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