第15話 魔王との手合わせ(三人称)

  二つの巨大な炎の球がぶつかり合う。

 どちらも優に直径五mは超えている。

 しかしぶつかった瞬間にお互いの魔法がお互いの力に耐えきれずに爆発。

 空間を揺るがすほどの爆風が起きた時には既に二人共新たな魔法を発動させていた。


「【ファイアーランス】【ウィンドスピア】――ッ!! 俺よりレベル低いのに何で同格なのかね!?」

「【ロックラスピア】【ウォーターランス】――ッ!! お母さんの才能を受け継いでいるからじゃないかしら!?」


 二人が放つ様々な属性の槍がまるで雨の様にお互いに目掛けて降り注ぐも、お互いの魔法が打ち消し合ってどちらの体にも届かずに消滅する。

 しかし二人は止まらない。

 

 優斗がパンッと一度手を叩くと、その瞬間に六属性全ての上位魔法が発動し、炎が舞い、水が迸り、嵐が渦巻き、地面が揺れ、雷が轟き、光輝き、闇が訪れる。

 それと同時に、優斗の手には全ての上位魔法の魔力総量よりも遥かに多くの魔力が集まった小さな小さな球状の何かが神々しく渦巻いていた。


 その魔法の名は―――【神炎】。


 原初の神が創ったとされる原初の炎。

 その輝きは全てを照らし、全てを跡形もなく消し飛ばす。

 炎魔法の最上位に君臨する最強の魔法である。


 しかしそれに対抗するようにアリシアも六属性の上位魔法を発動し、更には水で出来た体を持つ美しい女性を召喚し言葉を紡ぐ。


「《精霊王ウンディーネよ―――我が魔力を糧とし始まりの水を》」


 その魔法の名は―――【神水】。


 これは水と生涯共にある精霊の王が出す号令。

 世界が生まれる遥か昔に存在していたとされる伝説の海。

 かつて世界を一度呑み込んだとされるその海は、精霊たちの神――精霊神より預かりし神の水。


 神の炎と神の水――その二つが今放たれようとしていた。


「ふぅ……この魔法は相変わらず燃費が悪いなぁ……魔力が一気に一〇分の一以上無くなったぞ」

「優斗は私よりも魔力があるんだからいいじゃない」

「それとこれとは……まぁいいや。それじゃあ撃つぞ? しっかり耐えろよな」

「貴方もね」


 二人は最後とばかりに更に魔力を魔法に注ぎ込んで遂に発動させる。



「————【神炎】————」


「————【神水】————」



 何よりも明るく何よりも神々しい神の炎と、何よりも強大で何よりも美しい神の水が激突した。

 





***







 二人の魔法の威力は異次元そのものだった。

 世界をも焼き尽くそうとする灼熱の炎が、世界をも呑み込もうとする暴食の水を跡形もなく焼き尽くし、逆に灼熱の炎を暴食の水が一気に跡形もなく呑み込む。

 それが何度も繰り返されたが、何事にも終わりは来る。

 最後にお互いの魔法が水蒸気爆発を起こしどちらも面影すら残さないほどに爆散した。


 その二人の魔法の圧に、本来であれば無風なはずの亜空間内で自然と風が吹く。

 その風を感じながらゲルブがため息を吐く。


「……これが最強達の戦いか……俺にはまだ早かったみてぇだな」

「……私達はまだ弱い。もっと強くなる」


 一番初めに気絶から覚めたゲルブと、元々気絶していないテスラがしみじみと言った感じで呟く。

 しかし二人の目には、いつかあの領域に到達してみせると言う闘志がギラギラと宿っていた。

 魔族は良くも悪くも強者が絶対なのだ。


 しかしそんな二人に気付かず、優斗とアリシアは楽しそうに笑っていた。


「凄いわ……本当に凄いわね優斗! 私の魔法を止めるなんてっ!!」

「こんなのでも元勇者なんでね。いくら少しブランクがあるとは言え、これ程のレベル差があるのに互角とは……こりゃあ本当にそのうちあっさりと抜かされそうだな」

「でもまだ貴方本気出してないじゃない」


 そう言って喜びの笑顔から一転して優斗にジト目を送るアリシア。

 アリシアは優斗が全力で戦えば直ぐに自分など倒されてしまうことを感じていたため、手を抜かれていることが不満なのだ。

 すぐ近くでアリシアの言葉に絶句している者たちもいるが、二人にその姿は映っていない。


 アリシアのジト目に耐えきれなくなった優斗がバリバリと頭をかいて言う。


「分かったよ……なら自分の得意な戦闘スタイルで行くから、それで許してな?」

「……しょうが無いわね。許してあげるわ。なら早速やりましょう?」


 そう言ってアリシアが魔力を開放すると同時に魔闘気をその身に纏った。

 たったそれだけで先程を遥かに上回る力の奔流が生まれる。

 その威圧感を直に受けている優斗は苦笑いをすると……


「【魔剣グラム】【聖魔闘気】【闘気】【神眼】」


 四つのスキルを発動させる。

 手には長剣となった魔剣グラムを。

 体には真紅のオーラと漆黒のオーラ、更には白銀のオーラを纏い、眼は金色に光っている。

 そして体から溢れ出る力はアリシアを遥に凌駕していた。

 

「それが貴方の戦闘スタイルなのね」

「まぁ大体この四つで大抵の敵には勝っていたな。唯一勝てなかったのは大魔王と邪神くらいだ」

「なら私が三人目になってあげるっ!! 《―――ッ―――ッッ!!》【ファイアーボール】」


 アリシアが理解できない何らかの言葉を発した後、ファイアーボールを唱えると、そこに出てきたのはもはやファイアーボールとは呼べないほど強大で凄まじい熱気の篭った炎の塊だった。

 直径は一〇〇mあるのではないかと感じるほどにデカく、その威力は先程の【神炎】には劣るものの、上級魔法よりも確実に高いだろう。

 この魔法を優斗はよく知っていた。


「遂に出たか……龍言魔法――ッ!」

「正解よ優斗。私は逃げることをおすすめするわ……よっ!!」


 アリシアが腕を下に振ると、それに連動してファイアーボールが落ちてくる。

 その光景を見ながらも、優斗は冷静だった。


(確かにアリシアが逃げると言うのを推奨する事も分からないことではないが、勇者を舐めてもらっては困る)


 優斗は神眼を使って直様この世界の魔力の流れを把握し、魔法の最も崩れやすい所を直様見つけ、そこ目掛けて闘気の篭ったグラムを振るう。

 すると一見最強に見えたファイアーボールが一瞬にして消滅してしまった。

 その出来事に一瞬アリシアの動きが止まるも直様次の魔法が放たれる。


「ま、まだまだよ!! 《――――――ッ――ッ―――ッッ!!》【炎雷】ッッ!!」


 優斗の上空より雷と炎が降り注ぐも、優斗は時に消し飛ばし時に避けて無傷の状態を維持する。

 その姿に更に魔法を行使していくアリシアだったが……


「マズいわね……もう魔力が殆どないわ……龍言魔法は魔力消費が凄まじいのよね……」


 もう既に魔力が底をつきかけていた。

 しかしそれもそのはず。


 本来龍言魔法は魔力をほぼ無限に持っている龍の魔法であって、それをドラゴンですらない魔族が使うには魔力を消費し過ぎるのだ。

 シンシアも昔はこの魔法を習得していたが、本当に勝てない以外の時は使っておらず、謂わば切り札のようにして使っていた。

 

「それを乱発しまくったんだから直ぐに魔力はなくなるさ」

「そんな事分かっているわよ……次で決めるわ。私の全力受けてみなさい!! ―――【深淵アビス】―――」


 アリシアがそう言った瞬間に、ドス黒く先の見えないモノに優斗は逃げる間もなく取り込まれてしまった。

 その中で優斗は辺りを見回して首を傾げる。

 

「……ここは異次元みたいな所なのか? 何故か神眼でも視えないし、体も何かに纏わり付かれているかの様に重たいし」


 優斗は知らないが、この魔法は歴代の魔王が神と戦うために開発した魔法で、神の力を封じ込める牢獄のような所だ。

 普通の神なら脱出不可能な程に完璧で精錬された魔法だが、それは上級神となれば話は変わってくる。

 幾らデバフや神の力を封じ込めようと、力ずくで出られてしまうからだ。

 しかしそれには強大で異常なステータスが必要になってくるのだが……


「うん、コレくらいなら破壊して帰れるな」


 優斗はその全てを所持していた。

 人間ではありえないほどの強大なステータス。

 神の力とは違う人間の力である【闘気】を三種類も極め、魔剣と言う素晴らしい切れ味の剣。


 優斗は再び三種類の闘気を発動。

 それに伴い魔剣を人間五人分程の大きさまで巨大化させ―――



「―――究極の一振り―――」



 完璧な構えから振り下ろす。

 その瞬間に体に纏わり付いていたものそのものである深淵が真っ二つに切り裂かれ、跡形もなく消滅する。


 そうして何事もなく帰還した優斗が呆然としているアリシアに剣を向けて一言。


「―――俺の勝ちだ」


 その言葉にアリシアは言葉すらも失ってその場にへたり込んでしまった。


 


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 お試し投稿なので、5万字程書いた時点で、人気であれば続けます。

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