第9話 現状把握

 さて……総大将にしてもらったはいいが……まずは現在の状況を把握しないとな。

 じゃないと今後俺が何をすれば良いのか分からない。

 

 しかし俺に政治方面の能力は皆無だから地球の政治方法をざっくりと教えるくらいしかないんだよな。

 だから俺的には戦闘方面を担当したいんだが……


「ルドルフ、まず魔王軍の方針を教えてくれ」

「はい。現在の魔王軍の方針は、『魔界を人間の侵略から防ぐ』と言うことに重点を置いています」

「……侵略? お前ら人間共に侵略を受けているのか?」


 一体何故だ?

 正直勇者がいないと戦闘が苦手な幹部を倒せるか倒せないかくらいしか人間達に力がないはずだ。

 魔族と人間とでは根本的に格が違う。

 

「――ああ……だから俺たちが呼ばれたのか……」


 あながちあの屑国王の言った魔王を討伐と言うのも嘘ではなかったようだ。

 ただ侵略をしていたのが人間側だったというだけで。

 

「なぜ侵略されているんだ? 人間がこの世界にいるだけでも大変なはずだが?」

「ああ、瘴気のことですね。確かに瘴気は人間にも作用しますからね」


 魔界には瘴気と言う魔物を生み出す原因である物質が数多く存在している。

 この瘴気には動物たちだけでなく、人間や魔界の弱い魔族たちですら魔物に変えてしまう恐ろしい物だ。

 人間や魔族が魔物になると、悪魔と呼ばれる存在へと堕ちる。

 その者達に知性はなく、ただ純粋な殺戮マシーンとして己の命が尽きるその時まで動き続けるのだ。


 しかしそれを克服して我が物とした者が、上位魔族とか超越者と呼ばれるようになり、【魔闘気】と言うスキルを習得する。

 このスキルは肉体を強化したり、魔法を強化したりと物凄く有能なスキルで、強者となるには必須とも言われるスキルだ。

 しかし克服するなどは相当難しく、俺も当時の仲間も克服するまでに最低でも二年は掛かった。

 それ程までに危険な魔界に侵略してくるということは、何か欲しい物が魔界にあるのだろうか?


「いえ、人間どもはこの土地には興味ないらしいです。どうやら私達自身に興味があるようで……」

「あーうん。同じ人間だからアイツらがやりたい事が分かるわ」


 大方労働力が欲しいのと、魔族の力を人間にも使用できないのかを調べる実験体が欲しいのだろう。

 ラノベだとこう言った展開はよくある。

 人間は自分が相手よりも上であるということを自覚して優越感に浸りたがる生き物だからな。

 そのためなら手段を選ばないのはこの世界の人間の怖いところではあるのだが。


「だがそうとは言え、人間が魔族に勝てるとは思わないが……」

「そう言って勝った人間が何を言っているんだか」

「…………それは置いておいて、現在の魔王軍はどうなっているんだ?」

「それはどう言う意味ですか、救世主様?」


 ルドルフが質問の意図がわからないと言った風に聞いてくる。

 こんなに言っているのに分からないとは……コイツは上司に向いてないかもしれないな。

 と言うかコイツ馬鹿なのか?


「あの〜軍の様子は実際に見てもらった方がよく分かりますよ〜救世主様」


 そう言ってくるのは幹部の一人『慈愛と狂愛』の異名を持っているらしい女魔族のシャナ。

 そのゆったりとした雰囲気と話し方とは違い、最低でもルドルフよりは使えそうだ。


「よく見たら分かるだと? それ程までにヤバいのか?」


 軍の統率が出来ていないのか?

 それとも個々が弱いのか?

 だが見た方が分かるか……これは覚悟しておいた方がよさそうだ。


「だがこんな種族の命運を掛けた戦いを控えているのにその体たらくなのか? この世界には俺を除いた三〇人以上の勇者が召喚されたんだぞ?」

「「「「「「「!?」」」」」」」

「何だ? そんな事も知らなかったのか?」


 皆の反応を見て首を傾げる。


 俺はてっきり知っているものだと思っていたんだが……。


 そんな事を考えていた俺にルドルフが恐る恐ると言った感じで聞いてきた。


「救世主様、それは確かなのですか?」

「ああそうだ。それに俺の時代にはなかったチートスキル? みたいな強力なスキルを持っている。まぁ今は全然クソ雑魚の領域に居るが、何年かしたら俺やアリシアほどではないにしろ、最低でもルドルフ程度の強さになって戦争に加わってくるかもな」

「それは少々マズいね〜なら救世主様になんとかしてもらうしかないわね〜」

「取り敢えずは此方の戦力も図るために兵士たちの様子を観察する所からだな。アリシア——あー魔王様、魔王軍の訓練場に行っても良いですか?」

「……アリシアで良い。その代わり私は貴方を優斗と呼ぶわね。後、敬語は不要よ。我が軍をよろしく頼むわね」


 あ、名前呼びで良いんだ。

 まぁ公の場だと流石にアウトだろうから間違えないようにしないとな。


「了解、俺に任せな。なら早速訓練場に行こうか。連れてってくれシャナ」

「は〜い。なら付いてきてねぇ〜」


 俺はシャナに連れられて玉座の間を後にし、訓練場へと向かった。



 

 

***




 俺達は訓練場に行っている途中にも話を進める。

 大々的に戦争が始まるのは多分二年程後になると思われるが、正直時間が足りない。

 なので一分一秒無駄には出来ない。


「なぁシャナ、これから行く訓練場にはどんな魔族達がいるんだ?」

「それは〜魔王軍の中で最弱とされるゴブリン達です〜」

「ゴブリンが最弱? でもゴブリンは軍隊になっている時が一番強いはずだが?」


 俺がシャナの言葉に疑問に思っていると、玉座の間から出てほんの数分程で訓練場に着いた。

 俺はてっきり城の外にあるのかと思ったが全然そんな事なく、何なら城のど真ん中にあるらしい。

 訓練場は思っていたよりも広く、東京ドームほどの広さがある。

 しかし俺はその広さよりも別のことで驚愕していた。

 

「…………なるほど……これは酷いな……」

「そうなんですよ〜これには私もお手上げです〜」


 彼らは普通なら強い者の命令を絶対に従うのだが、目の前のゴブリン達は全く上司であるゴブリンジェネラルやゴブリンキング、クイーンの命令を聞いていない。

 それどころかそもそも武器すらも握っていない者が多く、もはや軍ではなくお遊戯会に見えてしまうほどだ。

 こんな物軍ではない。


 コイツら……ふざけてんのか?


 俺の心から怒りの感情が溢れ出てくる。

 軍は国を守る守護者である。

 そんなふざけた奴らに務まるわけがない。


 これを俺はこれから精鋭部隊へと成長させないといけないわけだ。


「思った以上に難しそうだぞこれは……しゃあない。鬼教官になるか」


 俺はゴブリンたちを招集しているシャナを見ながら深いため息を吐いた。


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 お試し投稿なので、5万字程書いた時点で、人気であれば続けます。

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