第8話 魔王軍に入りました

 俺は跪いたまま話を続けようとするが、それよりも先にルドルフが口を開いた。


「魔王様も皆も戦闘態勢を解いてくれ。この方は敵じゃない」

「何故そう言い切れる!? 俺達は人間を信じたせいで一度やられてんだぞ! 信用出来るか!」


 そう言う男の魔族の言い分は正しい。

 一度やられた相手をまたすぐに信用するなど愚の極みだ。

 このルドルフは俺の正体を教えてステータスも見せたからこうなっているだけ。

 ……ならステータス見せればいいじゃん。


「あの……今からステータスを全て開示させるので取り敢えず見てもらってからでいいすか?」

「ふんっ、取り敢えず見てから決めてやるよ。……魔王様はそれでいいですか?」

「……妾はそれでいい。……なんだお前?」


 玉座に座っている今まで――それこそ学年一の美少女である夢咲が霞むくらいの美少女な魔族が頷きながら言った後、俺がジッと見てしまっていた事に訝しげに目を細めた。

 しかし俺にはその言葉も聞こえないほど目を奪われていた。

 



『嫌だ……どうして……』

『しょうがない事なんだよ……俺は強くなりすぎた』

『じゃあ私も連れてって! 離れたくないっ!』

『ダメだ。向こうは力だけではどうにもならない事が沢山あるんだ』

『でも……でも……嫌だよぉ……』

『ごめんなシンシア……どうか俺の事は夢だったと思って……幸せになってくれ……』

『嫌だ……嫌だよ優斗っ! やだああああああ!!』

『愛していたよ――――



 

――――――シンシア……」

「……貴方どうして人間のくせに私の母を知っているのかしら?」

「あ、いやそれもステータスを見てくれれば分かるから」


 やべぇ……思い出してたら口に出てたわ。

 いや魔王がめちゃくちゃシンシアに似てるし美少女過ぎるんだよ。


 白銀の長髪はストレートでさらさらしており、光が髪を照らしてキラキラと光っている。

 そして魔族では珍しく肌色が濃く無く……と言うか色白と言った感じの肌をしており、ぱっちりと二重のくりくりな目はアレンと同じ赤色の瞳。

 そして端正な顔立ちはもはや芸術と言われそうなほど美しい。

 そして身長は女性にしてはまぁまぁ高く、見た感じ一六〇くらいありそうだ。

 スタイルは……もうね、凄いの一言。

 もう男が一度は夢に見る理想の体型と言えばいいか……兎に角素晴らしいとしか言いようがない。


 シンシアは魔王とは違って胸がそこまでなかったが、彼女からはシンシアとアレンの面影を感じる。

 

 でもそうか……シンシアはアレンと結ばれたんだな……。

 まぁでも二人の相性は俺から見ても結構良さそうだったし、きっと俺がいなくなってからもアレンが支えてくれていたんだろう。


 俺は魔王の言葉を聞いて一番に感じたのは嫉妬でもなく安堵だった。

 と言うか俺に嫉妬する資格なんてない。

 彼女には我ながら本当に最低な事をしてしまったと思っている。


 シンシア――彼女とは帰還の五年前から付き合っていた。

 将来の約束もしていたので、俺はこの世界で骨を埋める覚悟も決めていたんだ。


 だが世界は……現実は、そんな俺たちを許してはくれなかった。

 大魔王を討伐した後、次の脅威は俺だと言う奴が大量に出てきたからだ。

 これには一国の王だったエルドですら手がつけられなかった。

 まぁアイツの国は比較的そう言った声は少なかったが、他国からの圧力が凄く、国民にも影響が出始めたため、涙ながらに頭を下げられて、「どうか元の世界に戻って貰えないだろうか」と言われた。

 始めは魔界に逃避行と言うのも考えたのだが、そうすれば再び魔界が戦地になる。

 そもそも俺の力が強大すぎてあの時代の全世界には逃げられる所などなかった。


 それにシンシアと一緒に逃げて彼女の身にもし何かあれば……それこそ彼女がこの世から消えてしまうことがあったら、多分俺は世界を滅ぼす存在となっていたと思う。


 それ程までに俺は彼女を愛していた。


 だからこそ、この世界を離れるしかなかったのだ。


 帰還してからも彼女がどうなったか気になっていたが……本当によかった。

 ―――が取り敢えず安堵するのはこれくらいにしてステータスを開示をしないとな。

 皆の視線が痛いから。


 俺は皆に見える様にステータスを開示する。


————————————————

浅井優斗(神呪状態)

人間 17歳(37歳)

称号:元勇者 大魔王討伐者 歴代最強の勇者 人外の努力家 容赦なき者


《スキル》

【聖剣術→魔剣術Level:11(MAX)】

【武術Level:11(MAX)】

【感知Level:11(MAX)】

【空間魔法Level:7】【魔操作:4】

【6属性魔法Level:11(MAX)】

【魔眼Level:11(MAX)】

【神眼Level:11(MAX)】

【聖魔闘気Level:11(MAX)】atc...


ステータス

Level:1000(MAX)

総合値:3290000(GOD級)→3290(A級)

体力:590000→590

魔力:980000→980

筋力:570000→570

防御力:520000→520

敏捷性:630000→630

————————————————


「「「「「「…………」」」」」」

「救世主様、本当に自分にバッドステータスの魔道具使っているんですね」

「当たり前だろ? じゃないと話を聞いてもらえるか分からなかったんだから」


 静まり返った空間の中で俺とルドルフの話し声だけが響き渡る。

 残りの者は俺のステータスを見たままポカンと口を半開きにしたアホ顔を晒していた。

 ルドルフはそんな皆にうんうんと同情する様に頷く。

 まぁ俺も転移直後のクラスメイトたちが同じ反応していたからデジャブだなとしか思わない。


「これで俺がシンシアを知っている理由が分かったか? ―――アリシア?」

「ど、どうして私の名前を――ってステータスを見たのね」

「正解。と言うか俺が言うのもなんだけどめちゃくちゃ強いじゃん。アレンよりは強いなこりゃあ」


 俺はいつの間にかアリシアの一人称が「妾」から「私」に変わっていることに気づくが知らないふりをしてステータスを改めて見る。

 何度見ても彼女のこのステータスには驚きを隠せない。

 天才と天才の子供だからだろうか?

 

————————————————

アリシア

半人半魔 299歳

称号 魔王 人間と魔族の英雄の血を引き継ぎし者 最高の才能を持つ者


《スキル》

【全属性魔法Level:10】【魔眼Level:10】

【龍言魔法Level:6】【精霊魔法Level:8】

【魔力感知Level:11(MAX)】

【武術Level:9】【魔闘気Level:10】atc...


ステータス

Level:573

総合値:2032000(GOD級)

体力:378600

魔力:675000

筋力:314700

防御力:305700

敏捷性:358000

————————————————


 正直言って予想外に強かった。

 まだLevelもルドルフよりも低い筈なのにステータスもスキルレベルも異次元の様に高い。

 これは……


「このまま行けば余裕で俺を抜かすだろうな……」

「―――お母さんが絶対に勝てないと言っていた貴方に?」


 俺の独り言を聞いていたのかいつの間にか隣りにいたアリシアが質問してくるので、俺は素直に頷く。


「ああ、絶対に抜かすだろうよ。まぁ後何年かかるかは分からないけどな?」

「…………そう……」


 アリシアはそう言うと何かを言いたげな表情に変わる。

 

「……聞きたいことがあるなら何でも答えてやるぞ」

「なら……一つだけ聞きたい事があるの」

「何だ? 言ってみな」


 まぁ聞きたいことなんて一つしかないだろうよ。

 だって俺と彼女は初対面なんだから。


「……どうしてお母さんを置いて帰ったの?」

「それしか方法がなかったからだ。俺がこの世界に残れば間違いなくシアを危険な目に遭わせてしまう」

「二人共最強でしょ?」

「人間をあまり舐めないほうがいいぞ。人間はどんな生き物よりも狡賢くて腐っている。きっと俺を殺す方法もあったはずだ」


 そう、この世界に再び舞い戻ってきて身に沁みて分かった。

 人間は象すらも食らう鼠なのだと。

 

「それに……帰還に彼女の体が耐えられないと分かってしまったからだ」

「どう言う事?」

「異世界転移をしようとしたら、あの当時は代償があったんだよ。あれには本来返す仕様はない。俺はステータスに物を言わせて無理やり帰還しただけだ」


 どうやら今は代償は大分緩くなっているようだがな。

 本来異世界転移魔法は術者が命を捧げて行う魔法なのだ。

 なのに今回の召喚時の術者は苦しんではいたが死んでいないのは、俺にもよく理由がわからないが。


 まぁそれは置いておくとして、呼ぶだけでこれ程の代償がいるのだ。

 帰りも勿論代償があり、今度は術者ではなく被術者が対象になる。

 代償の詳細は帰還者の身体破壊だ。

 もはや返す気ないだろ、と言いたくなるほどにキツく、歴代最強の称号を得た俺でさえ痛みで気が狂いそうになった。

 イメージは全身を一気にヤスリで超高速で擦られるような感じだ。

 【苦痛耐性】をMAXまで上げていてもそれを通過して痛みが襲ってくる。

 

「……あれは誰にも体験して欲しくない。死んだ方が何億倍もマシだと思えてくるからな」

「……どうして耐えられたの?」

「んー……偶々だろうな。本当は死のうと思ってたからな」

「「「「「「「なっ!?」」」」」」」


 俺の言葉に皆が驚いているが、そんなに驚くことだろうか。

 最愛の人と別れないといけなくなったのに今更家に帰った所で何になるというのか。


「まぁ結局死ねずに生還して、こうしてまた異世界転移に巻き込まれたわけだけど」

「……お母さんを置いて行った理由は分かった。それで……何で此処に来たの?」

「おお、本題をすっかり忘れるとこだった。―――人間に愛想が尽きたから魔王軍に入れてくれ。俺が入れば人間界の何割かを魔族のものに出来る」

「…………何があったの? 勇者なのに人間を裏切るの?」


 意味が分からないと言う風に首を傾げるアリシア。

 まぁアリシアからすれば、命をかけて守った者たちを自ら殺そうとしているおかしな奴に見えるだろうからしょうがない。

 俺はあったことを話す。

 

「―――とまぁこんな感じだ」

「…………腐ってやがるな」

「腐っているわね〜」

「魔王様、何時でも人間の排除の許可を」

「私も私的に言えば排除に賛成ですかね。魔王様のお父様の様に騙されるのは御免です」


 そんな幹部たちの話をずっと聞いていたアリシアは小さく頷くと、




「―――元勇者浅井優斗を魔王軍総大将に任命する。……これからよろしく頼むわ」




 そう言って微笑みを浮かべて手を差し伸べてくれた。

 俺はその光景を、彼女の笑みを生涯忘れることはないだろう。




「……―――よろしくお願い致します魔王様。精一杯務めさせていただきます」




 こうして俺は魔王軍に入ることとなった。

 さて、これから革命を起こしていこうかね?


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 お試し投稿なので、5万字程書いた時点で、人気であれば続けます。

 なので、☆☆☆とフォローをよろしくお願いします。

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