第2話 どうやら俺は無能だそうだ

「……今すぐに元の世界に帰ることは出来ないのですか?」


 教皇からの頼みに1番に反応したのは、又もやクラスのまとめ役の白川だった。

 そんな白川の疑問に予め聖騎士達を宥めていた教皇が答える。


「……済まないが今すぐには出来ない。此方に呼ぶのであれば、何処の異世界の者でもいいから、比較的簡単に発動させる事ができるのだが……その逆となると途方もない魔力が一度に必要なるのだ。今の人間にそれを補える魔力の持ち主はおらぬ。……だが、魔王を倒した時に手に入る『魔玉石』を手に入れる事ができれば帰還させる事が可能になる。どうか……魔王を討伐してくれ……」


 そう言って再び頭を下げる教皇だが、その言葉を聞いて生徒達からブーイングが飛ぶ。

 だがそれは当たり前のことだ。


 勝手な都合でいきなり召喚されて、全く知りもしない人間のために戦えなんて理不尽すぎる。

 そして戦いたくなくても帰れないから無理にでも戦えと強要されているんだからな。


 しかしそのブーイングも長くは続かない。

 白川が再び生徒達に呼びかけたからだ。

 

「皆、一旦話し合おう! ……教皇様、お時間頂けるでしょうか?」

「勿論だ」


 教皇の許可を取った白川は、雄弁に生徒達に語りかける。


「皆、いきなり異世界なんて言う所に連れてこられてパニックになっているのは分かる。僕だってそうだ。でも……それでは元の世界に帰ることは出来ない。だから僕は……魔王を倒そうと思う」


 決意の篭った表情で言う白川。

 そんな白川の言葉にしんとなる中、彼の親友である竜崎翔りゅうざきかけるが白川の肩を組んで言う。


「聖也がそう決めたんなら俺も一緒に行くぜ。だって親友だからな!」

「私だって行くわ! だって……聖也の役に立ちたいし……」


 次に声をあげたのが聖也の幼馴染である夢咲沙耶香ゆめさきさやか

 彼女は学校一の美少女と名高く、そんな彼女は幼馴染である聖也に惚れているのでついて行くのは分かりきったことだろう。

  そしてこのスクールカーストトップの人間が魔王を倒すと決めた以上、反対する人間など存在しない。


「俺もやってやるぜ! そして夢咲さんにいい所を見せるんだ!」

「俺も!」

「勿論僕もだ。ウジウジしていても時間が勿体無いからね」

「わ、私もやるよっ!」

「私だって聖也君のために頑張るわ!」

「私も!」

「ウチもまぁやっても良いかなぁ……どうせ帰れないんだしー」

「み、皆……ありがとう!! なら頑張って魔王を倒そう!!」

「「「「「「「「「「「おう(うん)!!」」」」」」」」」」


 俺以外のクラスメイト全員が魔王を倒す事を決めた瞬間だった。

 

「……決断してくれた様だな……本当に礼を言うぞ」

「いえ良いんです。困った時はお互い様ですから」


 そう言って教皇に笑顔を向ける白川。

 俺はその様子をクラスメイト達の中から観察していた。 


 前から聖人君子の様な奴だとはこれ程とは……これに関しては完全に予想外だぞ。

 まぁでも極悪非道な奴よりはマシか……。


 俺がそんな事を思っていると、空いている扉から如何にも魔法使いっぽい服装の男が入ってきた。

 その男は人間の頭はどの丸い水晶玉を抱いている。


「教皇様……彼は何者なのでしょうか?」

「安心してくれ。彼はアドルフと言って人類種最高峰の魔法士だ。今から彼に、君たちの持っているチートスキルを鑑定してもらう」

「…………チートスキル……?」


 普段ラノベを読まない陽キャ達は何のことを言っているのか分からないと言った顔をしているが、俺を含めたオタク達は納得した様な表情をしていた。


 まぁ異世界転移と言えばチートスキルはテンプレだもんな。

 と言うか一般人の俺たちがチート無しに魔王を倒せるわけがない。

 勇者と言う脅威の成長力を持っていたとしても、何十年・・・と修行しない限りはな。


「ここからは教皇様に代わって私がお話をしたいと思います」


 水晶を持った、アドルフ? とか言った奴が話し始める。


「君たちは召喚……謂わば神に選ばれて此処に召喚されています。しかしただ素質があるだけでは開花する前に死んでしまうため、慈悲深い女神アリア様がチートスキルと言う特別な力を授けてくださるのです」


 そんなアドルフの話を聞いた生徒達は、自分が選ばれた特別な人間だと知って目に見えてテンションが上がっている。

 だが彼からは高校生だからしょうがない部分もあるだろう。


「それはすげぇな……もしかして俺ら世界最強になれるんじゃね?」

「わ、私魔法使いになってみたいわ……っ!」

「安心してください。もしチートスキルを貰ってしっかりと修行をしたのなら、貴方達全員が一騎当千の猛者となれるはずです」

「おおおお!!」

「マジかマシか! 本当に世界最強になれるかもしれないのか!」

「これで死ななくて済むかもしれないわね」


 更に騒がしくなるクラスメイト達。

 確かに希望が見えればそうなるのも仕方がないのかもしれないが……


「そんなに甘くないんだよなぁ……きっと」


 だが此処で目立つわけにもいかないので、適当にノリに乗っておく。

 するとアドルフが何度か手を叩いたかと思うと、


「それでは鑑定を始めたいと思います。まずは……君から来てください」

「え? 僕ですか?」


 最初に指名されたのは白川だった。

 これには特に反対の声もなく、本人も少し戸惑っている様だが、すぐに切り替えてアドルフの前に立った。

 そこでアドルフの説明が始まる。


「それでは鑑定の方法をお教えします。と言ってもこの水晶玉に手を置き、目を瞑って心わ落ち着かせるだけです」

「なるほど……では……」


 白川は水晶玉に手を置くと、ゆっくりと目を閉じた。

 すると水晶玉が小さく光出し、段々と光が大きくなって行く。

 そして目を閉じなければいけない程光り輝いた後、突然水晶玉の上に大きな半透明のボードが現れる。


————————————————

白川聖也

人間 17歳


《チートスキル》

【勇者Level:1】(SSS級)


ステータス

Level:1

総合値:1000(B級)

体力:200

魔力:200

筋力:200

防御力:200

敏捷性:200

————————————————


「お、おおおおお!! 素晴らしいステータスの持ち主だ!」


 白川のステータスを見て一番に反応したのは教皇だった。

 玉座から立ち上がり、前のめりになって白川のステータスを食い入る様に見つめている。


「教皇様、このステータスなら少し慣れさせればすぐに戦場に出せる能力値です! それに彼はチートスキルでも最上位のSSS級のスキル保持者ですよ!」

「素晴らしいッッ!! 勇者白川よ、期待しているぞ!」

「えっと……これは凄いのでしょうか?」


 教皇とアドルフが喜びに満ち溢れている所、イマイチ自身の凄さに気付いていない白川が二人のテンションに気圧されながら言う。

 そんな白川にアドルフが熱弁する。


「白川様。通常この総合値と言うのはLevel 1ならば、五〇〇で一〇〇〇年に一度の神童と呼ばれるほどなのです! しかし貴方の総合値は脅威の一〇〇〇!! もはや一万年に一度の神の使いとでも言える能力値です!」

「は、はぁ……それは凄いと言う事ですね?」

「勿論です! これほど素晴らしいステータスを私は見た事がありません!」


 その言葉を聞いた他のクラスメイト達は口々に白川を褒め称える。

 これで更に奴の地位が確固たるものになった瞬間だった。


 少しして……やっと落ち着いたアドルフが鑑定を続ける。


「す、すいません……少々取り乱しました……では続けます」


 そこからは白川ほどではないにしろ、次々と物凄いステータスを持ったもの達が現れた。


————————————————

竜崎翔

人間 17歳


《チートスキル》

【拳王Level:1】(SS級)


ステータス

Level:1

総合値:850(C級)

体力:200

魔力:150

筋力:170

防御力:180

敏捷性:150

————————————————


————————————————

夢咲沙耶香

人間 17歳


《チートスキル》

【賢者Level:1】(SS級)


ステータス

Level:1

総合値:790

体力:150

魔力:210

筋力:130

防御力:150

敏捷性:150

————————————————


 遂に俺以外の全ての人間の鑑定が終わった。

 俺も途中あたりでしようとしたのだが、背景モブに徹しすぎていたせいで次々と順番を抜かされていつの間にか最後になっていたと言うわけだ。


「教皇様……次の者が最後ですが、今の所最低値が六〇〇です。これなら魔王も倒せるかもしれません……! ん"ん"っ! それでは最後の方水晶玉に手を乗せてください」

「……はい」


 やばい……これで出ないよな……?


 俺は恐る恐る手を乗せると……


————————————————

浅井優斗


《チートスキル》

なし


ステータス

Level:1(MAX)

総合値:329

体力:59

魔力:98

筋力:57

防御力:52

敏捷性:63

————————————————


「「「「「「「…………」」」」」」


 俺のステータスが出た瞬間に場の空気が凍った。

 それはクラスメイトだけでなく、アドルフや教皇、その周りにいる聖騎士達もだ。


 そんな中、背景モブに徹していた俺としては、


「あ、あはは……終わってんな……」


 こう言うことしか出来なかった。

 



 ―――どうやら俺は、彼等からすれば無能になってしまった様だ。



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