元勇者の人類叛逆〜元勇者の俺は、クラス転移された先で問答無用に殺されかけたので、魔王の部下になることにした〜
あおぞら@書籍9月3日発売
第1章 魔王軍入隊
第1話 再び異世界に召喚されました
とある異世界の大聖堂。
「―――お前は人類の裏切り者だ、魔王の手先め!! 勇者たちよ、最初の試練として反逆者――
玉座の様な場に座る教皇の号令と共に元クラスメイト――38名が俺、浅井優斗に襲いかかってくる。
各々手にはチートスキルにあった最高品質の武器。
明らかに戦闘初心者に持たせる様には些か物騒ではあるが、チートスキルのお陰か皆歴戦の猛者を思わせる風格だ。
しかしそんなチーター達を相手にする俺の手には……
「……何もないと。まぁ自分で言うのもなんだが、物凄くピンチじゃないか」
如何してこうなったのかは、今からほんの数十分前に遡る。
***
再びで何だが自己紹介をさせて欲しい。
俺の名は
成績は毎回二五〇人ほどいる中で七〇位ほどで、顔も中の上。
身長も一七〇前半と高くも低くもない。
そして俺のクラスでの立ち位置は目に入れても痛くない背景見たいなモブって感じだろう。
まぁそう仕向けたのは俺なのだから不満などこれっぽっちもない。
顔はイケメンにしてほしかったが。
そしてこれと言って特技も……いや、まぁ一つだけあるかな。
だが日本で生きていく上では、全く要らないと言っても過言ではないだろうけど。
もし要るとしたら……
「――異世界に転移した時くらいかな?」
何て思ったのがいけなかったのだろうか。
授業の終わりと昼休憩の開始を告げるチャイムと共に、突然教室の床に光り輝く緻密な魔法陣が発現する。
「な、なんだこれ!? 突然床が光ったぞ!?」
「何なのよこれ……もしかして私たち死ぬの?」
「おい、どう言う事だ!? 教室の外に出られないぞ!」
「も、もしかしてこれ異世界転移か……? 現代知識で異世界チート出来るかも……」
クラスメイト達はいきなりの事で大パニック。
困惑に立ち尽くす者や騒ぎ立てる者、オタクであるが故に現実をいち早く理解し期待する者などなど人それぞれだ。
そんな混乱を極めた教室を瞬い光が包み込んだかと思うと、次の瞬間にはこの教室に誰一人として残っている者はいなかった。
***
俺が目を覚ますと、そこにはほんの少し見覚えのある光景が広がっていた。
少し離れた所には術士と思われる五人ほどの人が倒れている。
因みに今俺たちのいる場所は、大聖堂の様な場所のど真ん中だ。
そこに俺を含めた生徒と教師がぶっ倒れていた。
まだ誰も意識を取り戻していないので、目立ちたくもないし取り敢えず俺も倒れていようと思う。
するとすぐに白川を始めとした大勢のクラスメイトが意識を取り戻して立ち上がり始めた。
俺は半分くらいの人間が意識を取り戻した所で目を開けて如何にも『今意識を取り戻しましたぁ』みたいな感じで立ち上がる。
するとクラスメイト達は訳が分からないと言った様子で戸惑っていた。
「な、なぁ今度は一体何なんだ……もしかしてドッキリか……?」
「でもそうなら私たちどうやって運ばれたのよ……」
「なぁ早く教室に帰してくれよ! ドッキリなんてしなくてもいいからさぁ!」
「そうよそうよ、さっさと元に戻してよ!」
教室にいた時よりも大パニックだ。
しかしそんな生徒達を安心させる様に声を上げる者がいた。
「皆、落ち着いてくれっ!! 一先ず深呼吸をして冷静になるんだ!」
このクラスの学級委員長であり、顔もよくて性格もよく文武両道の完璧人間で、圧倒的なクラスのカーストトップとして君臨している
彼の言葉に次々と悲鳴が聞こえなくなっていき、その代わりに深呼吸をする音だけがこのだだっ広い空間に木霊する。
俺はそんなクラスメイトの姿を見て感心する。
相変わらずの統率力だこと。
そこで蹲っている教師よりよっぽど頼りになるな。
まぁあくまでクラス内だけだが。
俺がそんな事を思っていると、大きな―――成人男性五人分ほどの高さの―――扉が『ゴゴゴ……』と言う重低音を立てながらゆっくりと開く。
いきなりの事でしんと静かになる生徒達。
そんな重苦しい空間に一人の豪華絢爛な服を着た老人と、その周りを守るかの様に聖騎士の様な白銀のフルプレートを装備した兵士が入ってきた。
老人は俺たちの方を一瞥すると何も言う事もなく玉座の様な場所に座ると……
「勇者達よ……よく来てくれた。突然の事で驚いているかもしれないが、少し話を聞いて欲しい。まずは自己紹介から。わしの名前はメイナードと言う」
王様チックの老人――メイナードがたくさんの皺の刻まれた顔を歪めながら話し始める。
「この度勇者様方を呼んだのは他でもない。其方達に人類を救って欲しい」
「……人類を救って欲しいとは? 一体何から?」
そんな生徒達全員の疑問を代弁した白川に、聖騎士達が剣を向けた。
フルプレートで顔が見えないから分からないが、きっとそのヘルムの下ではさぞかしカンカンになっているだろう。
「おい貴様ッ! 教皇様になんて方をきくんだ!」
「いいのだ聖騎士達よ。彼らは別世界からきた者達。何も知らなくて当然だ」
そう言って聖騎士達を宥める教皇。
「……別世界とは……いえ、まず俺たちに何をしたのですか?」
「それには先にこの世界の現状を確認してもらった方が早い。——この世界は現在、諸悪の根源である魔王と、その配下である魔族と言う種族に侵略されておる」
教皇の言葉を聞いたクラスメイト達が一気にザワザワとしだす。
侵略という平和な日本では殆ど耳にしない言葉がでだからしょうがないと言えばしょうがないが。
「我が人間種も勿論侵略されない様に対抗しておるが、防衛で手一杯。此方から攻め込むなど無に等しい。しかし魔王を倒さなければ永遠にこの戦いが終わりはせん。だから過去の歴史で魔王に世界が滅ぼされそうになった時に使われた、異世界召喚と言う魔法を発動させて異世界より其方達を召喚した」
そこで言葉を区切った教皇は玉座から立ち上がり……頭を下げた。
「どうか……どうかこの世界を救って欲しい……ッッ!」
その姿に誰もが圧倒される中、俺だけは何か前にも聞いた事があるなぁ……と思いながら聞いていた。
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