EX 正月。餅つき。ゆえに米だ!


 12月半ば、異世界某所

 ガブリエラ・マインズフィールは椅子に座り窓からをみえる区切られた空を見上げならつぶやいた。



「お餅が食べたい」



 正月を迎えるのにあたって、お餅を食べるのは前世では当たり前のことだった。

 もっとも、最後に自分で餅つきをしたのはいるだったろうか?サ〇ウの切り餅さん、ありがとう。



「ここは異世界。しかも中世世界観。餅どころか米から探さないとなのよねぇ」



 と思っていたのだが、侯爵家出入りの商人が貿易流通で米を見つけたという報告を聞きつけて注文した。それが3か月ほど前だ。当たり前だが、注文したからすぐ手に入る時代ではないので早めの行動大事。



 さて、お米に水は結構重要で日本のもちもちふっくら、粘り気の強いおいしいお米を欲するのであれば軟水でなければならない。硬水でお米を炊くと硬水のミネラルがお米の表面をコーティングするかのようにくっついて吸水の邪魔をしてしまう。せっかくのお米が水の吸収をうまく出ないと、固いお米になってしまい、正直香りもそこまでない。見た目も少し黄色ががってしまうのでよろしくない。お餅にするにはもってのほかの状態になる。



 ゆえにおいしいお米は軟水で炊け!



「お嬢様、商人の方がお米が入ったから確認していただきたいと」



「わかったわ、今行きます」



 走り出した気持ちをグッと抑え、侯爵令嬢らしく優雅に歩く。前世の自分だったら感情のままに全力(B)ダッシュだったろう。侯爵令嬢としてちゃんと進歩している証拠ね!



 指定の部屋の扉にたどり着いた。



「米はどこだ!?」



 全力で扉を開ける、バーーン!という音が響く。



「ガブリエラ!!」「お嬢様!!」



「ひえっ」



 特大の雷が落ちた。当然である。



 お母様とアールのダブル説教は本気で怖い。ちょっとちびりそう。

 一応、商人というお客様がいる手前それ以上の説教は『この場』ではするつもりはないようだ。こちらを見る目は……うん、めっちゃするどい。



 しかし、今はそれよりもお米だ。

 未来の自分が泣き叫ぼうがわめこうが説教される未来は変わらない。ならばこそ、今を全力で楽しむべきだ。



「こちらを……」



「ありがとう」



 大きな袋が自分の前に置かれ、その口を開いて中にこれでもかと詰め込まれたお米を手に取る。



「こ、これはっ!?」



 手に取ったソレ。

 ソレは確かにお米だった。だが……細長い。



「長粒種……インディカ米じゃない!!」



 手のひらに大量の、細長い乾燥したお米を持ちながら腕ごと衝撃で震える。

 そういえば日本などで栽培されている短粒種かどうか確認してなかった……は、はは、はぁ。 



 餅つきをするのに理想はもち米。そのもち米が手に入るとはさすがに思ってはいなかった。

 だが、期待してあげて落とされた。私の絶望は――深かった。




 結局、新年の餅つきが行われることはなく、食卓にはサフランライスが並んだ。



 余談。

 長粒種のお米も軟水で炊いたらもちろんおいしい。

 ただ、長粒種自体が吸水量が多くない。硬水で炊き上げると芯のしっかりとしたお米になるので、チャーハンやピラフなどを作るときは長粒種でなくとも硬水で炊き上げたほうが触感もよくなる。調理の過程で味付けも行うのでお米の甘味など気にせず触感重視であればこちらのほうがおすすめだろう。

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