第253話 嘘つきの泣き言

第253話 嘘つきの泣き言


「先生、すみません。食器とか持ってきてくれただけではなく、水拭きまでさせてしまうなんて」


「いいよ、私は魔道具上手く扱えないし、別に....。さっきのご飯美味しかった」


 水の魔石を嵌め込んだ水道に宿屋の女の子が魔力を込めると水が出てくる。それで食器を洗い、キノが乾いた布で水気を取っていた。


「でも、一時はどうなるかと思いましたがどうにかこの宿屋維持できそうです! 作物とか育てるのは好きだったんですけど、料理はからっきしで....」


「ニーナに部屋貸してよかったの? 得体がしれないんじゃない?」


「あの子、先生とエナさん?のお知り合いでしょ?それなら問題ありませんよ」


「ふーん。とっくに私の名前もわかってるくせに先生って呼んでくれるんだ」


「だって、馴れ合いは嫌いなんですよね? だから、お互いに名前を教え合わない」


「死んだ時にお互い辛いからね。あなたも共感したから深くは聞かない。でも、私の名前を知ったのに、あなたは名前を言わない。って事は、3人の中で一番私が弱く見える?」


 宿屋の女の子を見つめると二人の間にピリッとした空気が張り詰める。まるで唐辛子を煮詰めた時の空気のように舌にもビリビリとした刺激的な赤色の味を二人が共有する。


「だって、弱そうなんじゃなくて弱いんじゃないですか? 魔力量だって3人の中でドベみたいですし....」


「さぁ? 私自身戦闘はあんまり得意じゃないからそうかも。でも....」


 不意にキノの姿が見えなくなった。


「そんな私より、あなたの方が確実に弱〜い」


 宿屋の女の子の首に走るのはボロボロの布切れに身を包んだ巨大な人の形をした骸骨に首を掴まれているような感覚に落ちる。


 息をしようとも、肺の中に空気が入っていかない。冒険者であれば誰でも使う魔法の中に気配を消す魔法があった事を思い出し、部屋の中を見回したが、キノの姿はどこにもなかった。


「どこに行ったの?」


「後ろ」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 何処かに行ってしまった筈のキノが一瞬で急に姿を現し、肩を軽く手で後ろから叩く。まるで猫の尻尾を踏んでしまった時、機械仕掛けの人形が飛び上がる時のような反応をして、腰を抜かした。


 すぐさま後ろを振り向き、キノの顔を見ると先程見た時は誰もいなかったのに、そこに確かに見えなかった時からいたような違和感が身体に奔った。


「どんだけ驚いてるの?」


「だって、さっきは絶対いなかったのに、今はいるから....」


「何その言い方? さっきまでいなかったのに、急に現れたって事?」


「そうじゃなくて、えっと足音がすぐに消えたから数歩の範囲に居る。でも、後ろを見た時は何の反応もなかったから、絶対に居ないと思った。でもあれから足音は無かったから、ずっとそこに居たんですよね?」



 視界に居るなら、絶対に見過ごさないと言うような意味が含まれているように聞こえる。




 独特の言い回し。それに気付いたキノがしゃがみ込み、女の子の頬を触る。



 親指で目の下に軽く触れ覗き込むと、女の子の言葉の意味が分かった。


「魔眼? いや、違うね。人工的に移植された目だし、左右で微妙に違う」


「お父さんからの贈り物です。うちの家系は魔力計測の魔法が宿った目を正統後継者が亡くなった時に次の後継者に宿る。盲目だった私にお父さんがくれました....」


 宿屋の女の子から、両親が亡くなったと言う事は聞かされていたが、盲目の娘に目を受け渡す為の自殺だった事は初耳であった。


「辛かったね」


「そりゃあ、辛いですよ! 視力が宿って一番最初に見たのが変わり果てた両親の姿でしたし、宿屋を再開して一番に泊まりにきてくれた先生が、貴族の領地所有一位だし、後から来た二人も馬鹿でかい魔力量だしで、怖かった!一番弱そうな先生だって、こんなデタラメな魔法使うしもうなんなの!」


「やっぱり、私の事知ってたか....。よしよし、ほら、怖くない怖くない」


「子供扱いしないでくださいよ!!」


 腰を抜かしてしまったまま立ち上がれない大きな女の子を宥めながら頭を撫でで抱きしめる。


「子供扱いってより、大きな子供。今まで目が見えてなかったんだから、色々な経験をこれからたくさんして立派な大人になっていきましょうねー」


「うー、先生よりも少しだけお姉さんなのにこの居心地の良さには勝てない....」


 宿屋の女の子もキノのことをギュッと抱きしめる。そして次の瞬間には、


「腰細すぎない!!?」


「え、あ、ちょい」


 抜けた腰にも関わらずに起き上がった反動でキノを床に押し倒し、入念なまでに腰の細さを確認し、自分の腰に手を当てるとあからさまに絶望を顔に浮かべていた。



「何でこんなに違うの!! あんな美味しい料理作れるんだから、沢山食べてきたはずなのに!!」



「元々は下民だから、子供の時は満足に食べられなかった」



「なんかすみません....」



「いいよ。気にしてない」



 そんな話をしていると上の階から何やら騒がしい声が聞こえてきた。何かを言い争っているような声だ。

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