第17話 滑稽とドラゴン調理

第十七話 滑稽とドラゴン調理


『何言ってんだ?俺の固有能力なんて物を出すぐらいだ!あれも一本しか無いんだから、今後はこんな無茶できないぞ★』



 軽い口調でそう言うのだが、キノの顔はより一層険しくなる。



『私がいつ男になったかって分かる?』



『は?攻撃する前?』



『そう。私は午前は男、午後は女になる体質に幼少期魔物に襲われたせいでなった。元の性別なんて覚えてない。時間ってのは残酷だよね』



『それがどうした?』



 懐から見慣れない銀の懐中時計を取り出し、蓋を開けると中を眺める



『おかしく無い?私が女の姿の時は頻繁に話しかけて来たのに、男の姿の時は話しかけてこな買った』



『それは邪魔しないために....』



『嘘が下手。私が男になった時、急いで外套の外に出てきた。戦闘が終わったら主人に駆け寄ってくるのが普通じゃ無い?たくさんの血がついているんだから美味しいよ』



『身の回りの安全が気になって...』



『それも嘘。チビ助を警戒にあたらせていたし、ドラゴンの血液で罠を作る方法を教えたら喜ぶように出て行った。警戒なんて気にしてるビビリがだよ。そして極め付けは私が女であることを声で確認して戻ってきた』



『何がいいたい?』



『男の体の時に見られたらまずいものがあるんでしょ?例えば魔術回路とか?』



『魔術回路?』



『惚けないで。魔力を扱う者にはみんなある魔力の通り道。みんなが使える基本魔法の暗視で見ることができるけど、今度男の身体に戻ったら見よ』



『馬鹿じゃねーの?魔術回路だって俺の体の一部だ。見られたく無いたら見えないように隠すさ』



『私が男の姿だった時みたいにでしょ?でも、魔力を使ったばっかりのあんたの体。今は隠したくても隠せない』



『その通りだ。だが、今お前は女の姿。薬を使って男に戻るにもリスクがある。さっき男に戻ったばかりでまた使うなんて思えない』



『リスクはある。使いすぎると、肝臓が壊死して血反吐を吐いて転げ回る事になる。だけど、今回はそんな物いらない』



『ああ?.....!!?』



 驚きを隠せない。羽織られているから分かる。声も胸の膨らみも女の体であることを物語っているのにも関わらず、振り返って背中を覗き込む瞳には暗視が発動していると分かる程、高密度な魔力が宿っていた。



『女の姿なのに何でだよ!』



『私は今回煙管で魔抗剤を体の中に入れた。血液摂取や経口摂取とは違ってゆっくりと効いてゆっくりと効果が切れる。今は両方の性別の基本魔法が使える』



『そんなのありかよ?』



『あり。気分も高揚して饒舌になってるしね。さて、物を吐き出すだけの能力なのに何でそんな複雑な魔術回路をもっていて、複雑な命令式をもっているのか私の中で疑問が湧いた』



『クゥーンワンワン!』



『お湯が沸いた。後は湯浴みでもしながら話そう』



 服を脱ぎ手拭いに湧いたお湯を含ませ軽く振る。そうすると適温まで下がることを彼女は知っていた。



『女の子だろ?もう少し恥じらいを覚えろよ?』



『欲情する人も居ないんだし、別にいい』



 煙管の効果が完全に切れてきたのか少しずつ元のそっけない口調に戻りつつある。



 血まみれになった身体を拭き取りきめ細かな肌に潤いが戻る。



『こんなもんかな?』



 全身隈なく洗い外套以外の服を着ると解体したドラゴンの元へと戻る。



『肉を食うにしても硬いから献立に迷う』



『おい!』



 肉を必要な分切り取っていると背後からずんぐりむっくりとした外套の本体に声を掛けられる。



『何?』



『聞かないのか?複雑な魔術回路の理由。それを隠していた理由も』



『あんたに付与されている固有能力は取り込んだ素材で武器、防具を作ることでしょ?隠していた理由は別に興味ない』



『なんでだ?』



『隠したいから隠していた。それだけでしょ?仲間ではあっても家族じゃない。私は自分の装備の能力を知りたいだけ。仲間なんだから隠し事の一つや二つあるよ』



『いいのか?それで?』



『別に構わない。家族に隠し事されてる方が何倍も辛いからね』



 そう言って、ザバザバと肉を骨ごとぶつ切りにしながや笑みを浮かべる。



『クゥーン』



『良い子だ。そこで待ってて』



 チビ助の前に現れた黒い水溜りの中に適度に切ったさまざまな肉の部位を入れていく。小さな部位から大きく切り出されたものまで様々だ。



 あっという間に解体が終わり、肉の部分は無くなって行った。



『先に鍋の所に戻ってろ』



『ワン!』



 元気に走り出して行った。外套の本体を口に咥えながら。


チビ助の唾液まみれになりながらも脱ぎ捨てらた外套の元にどうにか戻ってくる。二つの焚き火の横で二匹は主人を待っていた。



『さて、ご飯にしよう』



 ビチャビチャと長いの臓物を持ってくる。その中に水袋のように萎んだ臓物の中に手を入れある物を引き出す。



『戦利品あった』



 ガシャリと少し溶けたシルバーの甲冑が地面に落ちる。



『おい?それって...まさか?それよりその臓物どうするんだ?』



『お抱え冒険者の一人が食べられたからそいつの装備。滅茶苦茶高く売れる。これは食べるんだよ』



『だから、俺たちは直ぐに食べられ無かった訳か...こんな物が胃に入ってたら食欲起きないしな。ってか、それ食べるの?』



『食べるよ。先ずは煮沸して消毒。湯浴みに使った鍋はもういらないからしまっちゃお』



 長い腸をゆっくりと鍋の中に入れ、使い終わった鍋と戦利品の兜を仕舞い込む。



『適当に胸に軟骨が入ってるお肉出して。後はヘビードドラゴンの肝臓をお願い』



『ワン!』



 返事をすると意識を集中させ足元に影が広がる。その中に腕を突っ込み、目当てのものを探り当てる。



『肝臓発見。これを胃で包んで鍋をどかした中に...』



 肝臓を切り取ったで包み込み火が小さくなった灰の中へと突っ込む。



『そんな適当でいいのか?』



『別にこっちは食べないし大丈夫』



『じゃあ、もう片方のやつは食べるやつなのか...』



 茹でられながらグデングデン鍋から出そうなほど動き回る胃を鍋の淵から観察する。



『さて、もう一つは...』



 もう一度腕を突っ込み中を探る。



『にしても、荷物の出し入れができるなんて便利な能力だな。ドリグはみんなそうなのか?』



『違う。基本的なドリグは嗅覚が優れてるんだけどこの子は嗅覚障害で嗅覚に関する魔法が使えない。その代わりにこの影を媒介にした魔法が使えるみたい』



『へぇー、属性は何になるんだ?』



『さぁね?魔物はどう言う訳か人間に使える基本魔法、そこから派生した治癒などの応用魔法、属性魔法の他に違う魔法を使えるから属性って表現は合わない』



『そうなのか?何で魔物だけが使えるんだろうな?俺たちよりも進化してたりして』



『アンタも魔物に近いんだから、さっきの魔法が使えたんじゃないの?』



『え?あ、ああ!そうだな!』



 歯切れの悪が悪かったので問い詰めようかとも思ったのだが、目当てのものが手に当たったのでそんな事はどうでも良くなってしまう。



『みんなで調理』



『頼むからちゃんと食べられるものにしてくれよな』



 そんな心配を気にする様子もなく、マジックバックから座布団ほどの大きさの10センチほどの厚みをした丸太と、長くて細い調理用ナイフが二本出て来た。



『先ずはこれを適当に切る』



 本体の入っていない外套を深く被り豪快に切り刻んでいく。一つの塊だった胸の肉が少しずつ刻まれていく。



『確認なんだけどよ。今回はどんな料理なんだ?』



『骨と肉をぐちゃぐちゃにして食べるやつ』



『また豪快で大雑把だな。今回は毒の心配はないが、食べられそうもないな...』



『じゃあ、軽い感覚で食べられるおやつでも食べる?』



『そんな物あるのか?』



『あるよ。チビ助、口うるさいやつにアレを出してあげて』



 外套の本体の近くに影を送る。



『この中に何かあるのか?』



 中に落ちないように淵に近づくのだが、ずんぐりむっくりとした体型で、拳ほどの泥の塊の大きさしかないので、どうやったって中に滑り落ちる。



 ドプンと音がした後、影には波紋が浮かび上がり静かに沈んでいった。



『ヤバい!落ちた!戻らないと!』



 中は水のようになっているのだが、不思議と息はできる。しかし、その体型では光が差し込む水面に泳ごうとしても静かに沈んでいくだけだった。



『戻れん。じたばたしていても体力を食うだけだし、じっとしているか。それにしても意外と明るいんだな』



 水面から光が入って来ているせいか真っ暗闇という訳ではなく、ほんのりと奥行きを感じる。



『ん?下に何かあるな?アレがおやつか?』



 よっぽど腹が減っているのか、じたばたしながら下にへと下降していくのを感じる。



『これか?』



 御目当てのものに近づき、しがみ付く。それがある場所がそこと言う訳ではなく、プカプカと浮いているような状況だ。



『にしても、食べても大丈夫なのか?これ?』



 薄暗いせいで全貌は分からないのだが、曲線を感じ取るに丸に近い。ゴツゴツと言うか皺のようなものを感じるのだがよく分からない。



 ギュルギュルギュル



 今の状況はなんとも掴めないのだが、耐え難い空腹感に襲われているのだけは確かだった。



『まぁ、仕方ない。食べるか!』



 腹を決め、大きな口を開けて齧り付く。弾力があるのだが歯を押し返す程ではないし、ナッツの様に硬いと思いきや、中は比較的柔らかい。



『うーむ、不味くはないが美味くもないな』



 そんなことを呟きながらどんどん食べ勧める。体の数倍は体積があった筈なのに、どう言う訳か全てが腹の中に収まってしまった。



『ゲップ!味はともかく腹は膨れた。満足!だけど、ずっとここから出られないのかな?外套の術式がなければ魔法も使えないし...』



 腹はいっぱいになったのに、心には虚無が押し寄せる。仰向けになり水面を見つめる自分がこんなにも無力であったとは思いもよらなかった。



『ん?辺りが暗い?』



 徐々にだが、光が空間からなくなり目に何も映らなくなって来るのを感じる。水面から差し込む光が狭まっていくのだ。



『真っ暗になったらどうなるんだ?』



 不思議と焦りはない。ただ、どうなっていくのかが気になる。



 そんな事を考えている内に閉じかかっている水面からホースのような長い管が降りて来てずんぐりむっくりの身体に巻きつき、とんでもない勢いで引き上げられていく。





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