第14話 嫌悪と1つに

第十四話 嫌悪と一つに



『やった?』



 床に放たれた峨嵋刺をみて呟く。身体を貫き絶命したかのようにも見えるのだが、まるで手応えがない。



 ゆっくりと貫通して黒い泥が飛び散った辺りに近づき峨嵋刺に手をかける。スルスルっと飛び散った泥が得物を包み込む。



『おい!急に攻撃するんじゃ...』



 言葉を聞く前に鉄板に火を付け、得物こど炙ろうとする。



『あちぃ!アチィ!ちょっと一回!一回でいいから戻して!ギャァァァーー!』



 あまりにも煩かった為、一度火から引き抜く。



 目線を合わせるように持ち上げ口を開く。



『何?どうかした?』



『それはこっちのセリフだ!いきなり火炙りなんていつの時代の魔女裁判だよ!』



『形が生理的に無理』



『そこ!?外套が喋るからとかじゃなくてそこ!?』



『外套は聞いた時から予想できてた。でも、形は予想できなかった』



『俺以上に変なやつが持ち主だった!いいか?俺が居ないとその外套はタダの布切れで、素材を吸わないし力を発揮しないんだからな!』



『別に、攻撃は全部躱せるから問題ない。チェンジ』



 手には夜空の色をした小さなガラス玉が手に握られる。



『な訳無いだろ!防御力以外にもお前の肉体に吸い付いていい感じに繊維を縮めたり伸ばしたりして能力を底上げしてたんだぞ!?』



『ありがたいんだけど、言い方が生々しい』



 そう言って手に握られた二つを火に焚べようとする。



『ギャァァァ!じゃあ、あれだ!俺を作った店主のことを教える!』



『あのおかま臭のする人?』



 ピタリと手が止まる。



(お!?)



『興味あるだろ?生かしておけば喋るんだけどな』



『分かった。暫くは生かしとく』



 クシュん!



 クシャミをした拍子に火の中に二つの物をくべてしまう。



『熱い!熱い!熱い!』



『おっとっと』

 

 手早くはたき火を消す。



『あぶねーな!燃えるところだったわ!』



『あんたならどうにかなるよ。FLOW』



 ガラス玉サイズの外套が宙に浮き上がり、フワフワと部屋の中で浮かぶ。



『おい!何で浮かべてんだよ!』



『ん?アンタと接していない状態でも声が聞こえるのか知りたい』



 掌で叩いていた外套の本体と言える異形な物を思いっきり上に放り投げる。



『ギャァァァ!』



 先程とは別の恐怖に駆られた叫びが部屋の中に響き、外套の中へと吸い込まれていった。



『静かになった。やっぱり接して無いと声聞こえないんだ』



『そんな訳ないだろ!?少し気絶しただけ!』



『えー、って事は私だけに声が聞こえてる訳じゃない』



『そりゃあ、そうだろ!一人で呟いていたら怖いだろ!?』



『いや、私アサシン。こんなにお喋りしてたら隠蔽魔法使っても解けちゃうから欠陥品』



『常識もなく、いきなり燃やそうとしてくる奴にそんなこと言われたくねーよ!』



『そんなことよりご飯にしよ』



 仔犬とじゃれ合い、頭を完全に切り替える。



『話は最後まで聞けー!』



 完全にそんな言葉は上の空。黙々と料理に取り掛かっていく。



『フーンフフーン♪』



 ご機嫌な鼻歌ともに取り皿を2つ用意する。調理用の小さなナイフにまな板を取り出し、さっきそこで収穫した傘の大きい茶色のキノコの軸をむしる。面白いほど簡単に取れ、中は空洞になる。



 アグラをかきながら座り、まな板を脚に掛けてその上で作業をする。



『こんな感じかな』



『本当に大丈夫なんだろうな?』



『チビ助も嫌がってない。嫌なことは後で考える』



『大丈夫かよ』





 危険な料理を心配しながらフワフワと浮かびながら見守る外套と簡単に言葉を交わしながら調理を進めていく。



 軸をくり抜いたキノコの傘に、マジックバックから取り出した白いチーズをぎゅうぎゅうになる様に木製のスプーンで詰める。



 一回り以上大きくなり、表面に格子状に入れた隠し包丁から白い身が綺麗に見える。



 チーズを紙に包み込みしまうと、次にドリグの背肉を取り出す。



 キノコの数は20個。それに合わせるように薄く肉をそぎ落とし、チーズを詰めたキノコに巻きつける。



 中のチーズ出ないようにキツめに巻いたら塩をキツめに振り、カンカンに熱した鉄板の上に放り込む。



 ジュッワ!っと油が弾ける音が部屋いっぱいに広がる。



 生まれて初めてみる光景に背徳感すら感じ、甘美な誘惑がダイレクトに鼻腔を擽る。こんな物を見せられて、正気でいられるはずが無い。



『キャン!ギャァん!』



 何度も鉄板に向かって甲高く吠える。



『大丈夫。一緒に焼けるまで待と』



 調理道具や調味料をマジックバックにしまうと犬を抱き抱えながら鍋を混ぜるような大きな木製のスプーンで肉巻きを転がす。



 表面がカリカリに焼けごげていき、うまそうに映る。



『バターっと』



 バターの入った小瓶をマジックバックから取り出し、指で中身を掬い上げ鉄板に投入する。



 輪切りにしたキノコの軸も入れ、全体が馴染むように転がしていった。



『こんなもんかな』



 一つを掬い上げ口に運ぶ。噛むと即席ベーコンの旨味と共に濃厚なチーズが口いっぱいに溢れ出し、絶妙な甘さがアクセントになっている。



『んーーー!』



『クゥーン』



 それを見たチビ助が、眉間に皺を寄せ困ったような表情を浮かべていた。



『取り分けるから待ってて』



 二つの皿に敷き詰めても鉄板にはまだ8つ残る。バターに細かく刻んだハーブが入っていたようでいい塩梅で絡まる。



『はい、アーン』



 皿を前に出しても中々食べようとしないのでチビ助用の皿の中から一つ摘み口に放り込む。



 それをかわきりにがっつきだす。



『酷いことするな』



『何が?』



『それ?そいつの親だろ?』



『ダンジョンは弱肉強食。腹が満たせればそれでいいでしょ?』



 その行動をなんとも思わない無機質な表情を浮かべる。



『思ってたよりカリカリジューシー』



『その細い体のどこに入ってくんだよ』



 仔犬は鼻先を油まみれにしながらも夢中に食べ進ていた。キノは木製ねフォークで上品に食べてはいるのだが、その数が尋常では無い。



一回目に焼いた20個分を仔犬と食べ終わると部屋の隅に生えるキノコを再び摘んでまた同じ量の料理を作る。そして、正座しながら2回目に焼いたやつ全てを食べたのだ。



『男と女、二つの体を行き来してる感じでお腹減る』



『なるほど。それにしたって食べすぎだと思うけどな。こんなにゆっくり飯を食べて良いのか?』



 食べ終わったギトギトのお皿に千切ったバケットを付けそれを口の中に放り込み、ドライフルーツも口に放り込むのだから、見ていて心配になる。







『どっちにしろチビ助が寝てる間は移動できないから少し待ってて』



『飯食べた後からずっと寝てるけど、まさか毒か?』



『毒ってよりは呪い』



『呪い?』



『ダンジョンで生まれ育った魔物は親を食べる。なんでか分かる?』



『食べ物が無いからだろ?』



『そう。結果的に食べて親の能力を受け継ぐ身体に進化した。呪いのようにね』



眠っているチビ助の身体を優しく摩ると体温が感じられる。



灰色一色だった毛並みも、徐々に黒っぽくなり腹の部分以外が黒く染まっていく。



『毛の色が変わってるが、大丈夫なのか?』



『能力を引き継いだって事だから大丈夫。そろそろ行こ』



火を消し、手早く散らかしたものをバックの中に収納し、外套を着て身支度を整える。外に人がいないことを確認し、隠し扉を作動させる。



『この先のダンジョンの魔物はレベルが高いのか?』



『見た感じは高いみたい』



奥の部屋へと繋がる入り口の横の壁に手を翳し魔力を込めるとあぶり出しのように文字が部屋中に浮き上がる。



『何だこれ?部屋中に文字が浮き上がったぞ!』



『マーキング。どの職業でも使える基本中の基本スキル。どの部屋に強いモンスターが居るから近づくなとか情報がね』



『だが、文字同士が重なっていて読めないな。キノは読めるのか?』



『インスピレーションでどうにかね』



ダンジョンに入るときにクスネタマップを壁に近づける。すると部分的な文字がその地図に吸い込まれていく。



『何したんだ?』



『宝箱が発見された場所をマーキングした』



マップを見てみると至る場所の通路や部屋に書き込みがされている。



『ほー。こんなことを書き残しとくなんてバカな奴らだな』



『多分、さっきの奴らじゃなくてこのダンジョンが買い取られる前に入った人達が残したんだと思う。奴らはこんな繊細なことしないだろうし』



『それなら納得だな。やつやの目は目先の金しか見てない感じで汚い』



『確かに。少しまずい』



『どうした?そんなに魔物のレベルが高いのか?』



『思っていたよりは低いけど、数が多い』



そう言って次は受付嬢から貰ったマップを壁に近づける。



すると、名前が同じ魔物が沢山浮かび上がる。



『レベルは平均して35。頑張ればどうにかなる』



『倍近くあるのに、頑張ればどうにかなるって言える所好き』



『それよりあんたのことどうにかしないとね。私の心に直接話しかける能力とか無いの?』



『無いよ!俺をなんだと思ってんだ!』



『だって魔物でしょ?人の心に語ったり出来ないの?』



『ねーよ!魔物って言ったって完璧な魔物じゃねーからな』



『ん?どう言うこと?魔物の素材で作ったら魔物なんじゃ無いの?』



『正確には、魔物の素材で作ったら服に宿る魔力に自我が宿った感じだな』



『じゃあ、魔物ではないの?役立たずじゃん?』



『役立たずとか言わないでー!』



『だって、外套を伸縮させたりしか出来ないんでしょ?』



『一応、攻撃と防御もできる...』



『どうせしょぼいんでしょ?心に話しかけることもできないんだし』



『舐めるなよ!不完全な魔物でもこれくらいはできるわ!』



ポスっとフードが被さり、ニュルと右耳に触手の様な何かが侵入してくる。



『ハワァ!』



背中がゾクッとし、鳥肌が立つ。



身体に快感とも言える何かが走る。



脚が内股になり、耐えられない。



『何これ!』



耳に入ったものを引き抜く。



黒い小さな触手から白い歯の生えた口がニッとなっていた。



『どうだ!?これならお前にしか声は届かないし、外に声が漏れることもないぞ!』



『急にやんないで!身体ビクビクなんだけど!』



今までにない程の声量で叱りつける。





『ん?誰か居るのか?』



『まずい、第二先遣隊が来た。急いで行くよ!』



『取り敢えず、声の件は大丈夫だな』



『いい?奥まで入れるなよ!』



『はいはい』



フードを被り、そのまま進んでいく。





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