異世界逆襲談 貴族パーティから追放された平民のアサシン。屈辱を与える為の成り上がり

ディケー

第1話 忘却の果て

第一話 忘却の果て

強くなりたいなら魔物を狩れ。

偉くなりたいなら金を積め


それがこの国のルール


 エルタネ公国 貴族領 高級ラウンジ


 控えめのジャズに上質なワイン。それでいて何処となくジャンクな感じが漂う。


 丸いテーブルには純白のテーブルクロスが掛けられ、身なりが悪趣味なまでにきっちりと整えられた3人と白いシャツに黒いズボンを吐き、黒い靴を履くシンプルな一人が一緒に腰掛けている奇妙な席があった。


「今日の探索は大成功だ!この調子でまた頼むぞ!」


 リーダー格の男は金髪髪オールバックで無精髭を生やした青年風の男が乾杯の音頭を取る。


 それぞれ3人は赤い液体の入ったグラスを前に掲げ、控えめな子だけは透明な水を飲んでいた。


「このワイン美味しい」


 紫色の長髪を涼し気に纏めた女性。肩と背中を大きく出した露出度の高い髪の毛と同じ色のドレスに身を包み、僅かに黄色を含むワインの余韻を顔を赤くしながら楽しんでいた。


「にしても、今回の戦闘は楽だった。タンクの俺の防具を一新したおかげだな!」


 筋骨隆々でぴっちりとしたタキシードを着こなすスキンヘッドの男が胸を叩いて自慢する。


「おい!何言ってるんだ?俺の剣技にこの最高級玉鋼で作られた両刃片手剣である葉源の切れ味があってこそだろ!」


 食事の席だと言うのに後ろにいる男の召使いに自分の獲物を持たせておき、それを受け取ると鞘から頭身を抜き自慢する。鞘でさえ自分の様に無駄に華美な装飾が施されていた。


「はぁ?何言っちゃってるの?私が使役する光魔法あっての功績でしょ?」


 人差し指を立てるとそこに電球ほどの小さな灯りが灯された。


 そんな不毛なやりとりに関わろうとしない1人の女性が小さな溜息を吐く。二十歳前後なのか騒いでいる3人とも年齢は近そうだが、近寄り難い雰囲気を醸し出していた。


「ん?どうした?何か言いたい事でもあるのか?」


「ない」

 

 リーダーの男からの質問にそっけなく答える。


 黒のショートボブの整えられた髪の毛。青い瞳がキリッとした端正な顔立ちを更に引き立ていた。しかし、人付き合いが苦手らしい。


 顔は一番整っているのだが、来ている服は白いシャツに黒のパンツ。紺色のネクタイを締める無駄のないスタイルだったのだが、飾り気が全くない。


「だよなー!鍵開けしかできない平民の分際で子爵である俺たちに意見するなんて100年早いよな! しかも、お前は下民出身だもんな!」


 ゲラゲラと笑いながら無精髭を触りながらワインを流し込む。他の2人もそれを肴にワインを仰いだ。


「さて、そろそろメインイベントと行こうか?実は、今回この俺ゲルドのパーティにもう1人メンバーを加える事にした!」


 チリンチリンと手元にあった鈴を鳴らすとカウンターテーブルに居た長い金髪の女性がこっちに向かって歩いて来る。


「男爵の地位でプリーストをやらせていただいているユエルです。宜しくお願いします!」


 十字架が入った丸帽子風のウィンプルに教会のシスターが着るような修道着を分厚くしたような服に身を包み、白い錫杖を持ち顔も整った女性が現れる。


「ユエルは、男爵になったばかりだが腕は確かなプリーストだ。それに、俺たちと同じようにどっかの誰かさんとは違って裕福な家庭のお嬢様だし、冒険者最高の地位である大公のを目指している素晴らしい人格者だ」


「そんな、私はただ大公になって自分の病院を建てて貧しい人を救おうとしているだけです」


 すぐさま謙遜するが、そんなことよりも酒で頭が回らなくなっている3人は更に酒を煽り、ユエルを歓迎する様子は見られない。自分達をただ正当化して飲みたいだけという思いが見え見えなのだ。


「初めましてキノです。これから宜しくお願いします」


 そんな中でただ1人だけ、酒に手をつけない平民と蔑まれて居た女の子が立ち上がり手を差し出す。


「初めまして。これから宜しくお願いします」


 ユエルもそれに合わせて手を差し出す。


「ユエルさんだっけ?そんな薄汚れた平民となんか握手する必要はないぜ」


「そうそう。キノとだけ、これからなんてないしね」


「えっと、スキンヘッドの方がガジンさんで女性魔法使いの方がプルエアさんですよね?それってどう言う事ですか?」


「どうもこうもこういう事さ」


 パチン!


 ゲルドがパチンと指を鳴らすとテーブルに4人のタキシードに身を包んだスタッフが木のトレイにパンパンに詰まった皮袋を運び、それぞれの前に置く。


「今回の報酬だ。中を開けてみてくれ」


 紐を解くと中から黄金色に輝く金貨がたんまり出てきた。


「うぉ!」


「キャ!」


「今回の探索では宝箱の中に、希少な素材が多く含まれて居て売却総額はなんと8000万エール4人で分配して、2000万エールずつだ!」


「スゲェ!これだけあれば装備を一新して家だって買うことができる!」


「何言ってるの?全部ショッピングだよ!」


「ねぇ?楽しんでるところ悪いんだけど、私の報酬ってどうなってる?」


 皮袋をひっくり返す。すると中から出てきたのは黒く焼かれた竹炭だった。


「だから、そういうことだ。今回の探索では実りも大きいが、破損した武器の修理費や魔物を解体した素材を運ぶのに、大量に人件費が掛かった。その結果、お前の身分と働きを考慮して報酬がそうなったんだよ!」


「これじゃ、何も買えない」


「そうかそうか。でも、このパーティーを信用する必要は無い。だって、今日でお前はクビだからな!」


 今までで一番楽しそうに語る。


「ちょっと待ってください!今回の探索は大成功だったんですよね?だったらなんでメンバーを切るんですか!?」


 ユエルが思いっきりテーブルを、叩き声を荒上げる。


「分かってないな。大成功だったからこそ、クビなんだよ」


「どう言う事ですか?」


「俺たちのパーティは、元々戦士である俺に戦士でタンクのガジン、魔法使いのプルエアの3人のスタンダードパーティで楽しく大公を目指していた!パーティの中に宝箱を解錠できる奴がいなかったから偶々ダンジョンで知り合ったソイツをレイドの頭数を揃えるためだけに入れといてやったんだ。四人いないとレイドに参加できなかったが、これからの主体は探索ではなく大規模レイド!戦闘で馬のフン程も役に立たないアサシンなんていらないんだよ!」


「なんで勝手な!」


 杖を握りしめ、ゲルドをそのまま殴ってしまうのでは無いかと言わんばかりの形相だ。


「分かった。今日でクビで構わない」


「ちょっと、何言ってるんですか!?」


「そりゃあ、本人に足手纏いの自覚があるからにきまってるよな」


 ガジンが込み上げて来る笑いを堪えながら言う。


「私が属性魔法と職業魔法を一切使えないからでしょ?」


「それどころか、魔力での基本魔法だって怪しかったじゃ無い。今日なんて、私が詠唱している時に魔力の流れを乱すし!」


 自己中心的なプルエアの態度に再びユエルが睨み付ける。


「魔法をベスト環境で打てることの方がすくないですよ!たったそれだけの事でパーティメンバーを、クビにするんですか!?」


「もっと致命的な事もあるさ。魔法術式の進歩で、魔法使いとプリーストが解錠の魔法を使い、宝箱を開けられるようになった事だ。宝箱を開けるだけならアサシンの優位性はない!それどころか魔物を惹きつけるだけのお荷物なんだよ!」


 その言葉にユエルの堪忍袋が切れる。唯一パーティの中でシンパシーを感じていたキノをここまで馬鹿にされたのだから当然である。


「貴方達みたいな...!」


 罵倒しようとしたユエルの口を無理矢理キノが自分の唇で塞ぐ。


 予期しない行動にお店全員の視線が釘付けとなった。ジャスを演奏していた人達は楽器を弾く手を止め穴が開くほどそれを見るのだから、自然と静まり返る。


 プハっと離す様子からかなり深いキスを物語る。


「いい。アサシンの姑息な力に頼らなくていいぐらい強くなったって事。それなら私はこのパーティーを去る」


 不意に唇を奪われ驚きを隠せない。自分の唇を手で覆い、驚きを隠せない。


「そうそう。そういう事。って事で達者でなー」


 物分かりのいいアサシンに更にリーダーが煽る。


「ねぇ?これって...」


「しっ。それ以上、仲間になる人を虐めちゃだめ。さぁ、私が退くからこの席使って」



 ユエルの唇にそっと指を当て、報酬の黒く焼かれた竹炭を皮袋に戻す。黒い外套をお店の人から受け取ると出口へと進む。


「あんな奴の事気にするなよ!最初は面白い体質だったし、客寄せにでもなると思ったけどあいつだけ人気が出るのは癪だしな。明日からこの俺、ゲルド子爵のプリーストとして頑張ってくれよ」


「私は結構昼間のアイツは好きだったけどな」


「それを言うなら、俺の顔だって中々だろ?」


「ガジン、あんたの冗談いつも笑えないから少し黙ってて」


 後ろからは明日潜る未踏ダンジョンを攻略した際の分前に付いての話が聞こえてきたが、振り向くのも馬鹿らしいく1秒でも早くこの場を去りたかった。

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