クールで真紅な一ノ瀬さん
サンイヌ
第一章
プロローグ 悪魔と呼ばれる美少女
「れいか〜、きてきて!こっちにいっぱいお花あるよ!」
「みなとくん、まって!はやすぎー!」
「えへへっ、はやくお花のかんむりつくろ!」
この時は本当によく二人で遊んでたな...
俺が引っ越すってなった時、
「ぜったい、また会おうね」なんて言ってくれたっけな。
「「できた!」」
「じゃあ、このお花のかんむり、れいかにあげる!」
「え、いいの?」
「もちろん!」
「...」
「なんだか、王子さまとお姫さまみたいだね」
恥じらいながら麗華はそう言う。
確かこの時の麗華はいつもの
ルビーのような美しい瞳をしていた気がする。
「えっ、じ、じゃあ、大きくなったら、け、けっこん...とか、する?」
「うん!れいか、みなとくんのお嫁さんになる!」
「わかった!じゃあ、俺が れいかをしっかり守れるように強くなって、頭も良くなって、お金もちになったらけっこんしよう!」
「うん、まってるね!」
この時はお互いまだ幼かったので、こんな風に幸せな夢の延長線上のような会話をしていた。
それから約一年が経ったある日のことだっただろうか。夜中に複雑な顔をした父さんが、
「みなと、ごめん。急だが、明日にはここから引っ越すから自分の荷物をまとめてくれ」
「え...」
正直、まだ幼かった俺は父さんが何を言っているのかまったく分からなかった。
ただ、真っ先に思い浮かんだのは--
「れいか...」
「ん?どうしたの?そんなに暗い顔して」
俺はすぐに家を飛び出して、暗い夜道を全速力で駆け抜け、真っ先に麗華に会いに行った。
「実は、ここから遠くに引っ越すことになった...」
「えっ、」
その一言を聞いて、麗華は固まった。
当たり前だろう。日々の何気ない日常を、時間を、空間を、
「い、いつ引っ越すの?」
恐る恐る尋ねる麗華。
「...」
「あした...」
「っ、」
すでに大量の涙を抱えた麗華の涙袋だったが、ついに大粒の涙をこぼし始める。それを見た湊斗も、麗華の前だけは“絶対に”泣かないと決めていたが、我慢できなかった。
「っく、っ、」
「うわぁぁぁん、みなとくんのばかぁーー」
「おっ、おれだって、っ、れっ、れいかとっ、もっと、い、いっしょに、いたいよ...」
その日の夜、
輝いていたのは満天の星空でもなく。
暗い夜道を照らす満月でもなく。
このふたりの“愛のこもった涙”だった--
※※※
--数年後--
「ふーっ、やっと帰ってきたな」
「今日からここが俺の学校か」
湊斗はこの春に、日本でも屈指の学力を誇る
(それにしても、この学校は日本屈指なだけあって設備も流石だな)
「えーっと、この紙によると俺のクラスは2-1だから、この教室か?」
少し歩いて自分の教室を見つける。
と、そこである若そうな。それでいて独特な雰囲気をした一人の男が湊斗に話しかけてきた。
「君が
「あっ、はい。そうですけど、」
「はじめまして。自分は二年一組の担任、
(なんだ、この学校の先生か... てっきり--)
「つまり、一条君の担任だね。一年間よろしくね」
「はじめまして、
「じゃあ、さっそくクラスの皆に転校生として一条君を紹介するけど、心の準備はいい?」
(あ、自己紹介か。考えてなかったな...)
「別に大丈夫ですよ。俺はこんなので緊張なんてしませんから」
「そうか。それじゃあ、いくよ」
そう西城先生は湊斗に言い、教室のドアを開けて入っていく。湊斗は教室のちょうど真ん中くらいで立ち止まって、下を向いていた視線を徐々に上げて教室全体を見渡す。
そこで、湊斗は息を呑んだ--
「っ、」
特に何の心配もしていなかった湊斗だったが、一番後ろの角の席に姿勢よく座る
“どこか見覚えのある一人の美少女”を見た瞬間、湊斗の思考と身体が動かなくなった。
急に固まった湊斗を見て不思議に思ったのか、西城先生は湊斗に声を掛ける。
「それじゃあ、一条君。皆に自己紹介を」
そこで はっとした湊斗は、平然を取り戻して淡々と自己紹介を始める。
「名前は
当たり前のように拍手が起こった。
「それじゃあ、一条君の席は...」
少し考える西城先生。
「よし、“ちょうど”空いてるし一ノ瀬の隣の席にしよう」
何故か少しざわつく教室。
その一方、湊斗はというと--
(まじか。あの子ってやっぱり...)
さらに胸を高鳴らせていた。
湊斗は平然を装って指定された席に座る。そこで湊斗はこの歓喜の気持ちを抑えられず--
「久しぶり、れいか!」
湊斗は、笑顔でこの運命の再会を祝福するように話しかけた。しかし、隣に座る彼女から返された一言は、湊斗の全く予想のしていなかったものだった--
「あなたは誰ですか」
無慈悲な一言が教室に響いた。
「えっ、?俺、みなとだよ?れいかと、ずっと一緒にいた--」
どうにか思い出して欲しくて、湊斗は必死に言葉を紡ぐ。
しかし--
「気安く私に話しかけないで。それに、初対面の相手に対していきなり下の名前で呼ぶのは失礼じゃないんですか?」
「えっ...」
正直ショックで、次の言葉が見つからない。
そしたら周りから--
「そいつに話しかけない方が良いよ〜w」
「そうそう、なんなら関わらないのが一番だぜーw」
(は?コイツらは何を言っているんだ...?)
「きゃー!近づいたら殺される〜w」
「「「あははっ」」」
教室中で彼女をまるで“化け物”かのように呼んでいる光景が、湊斗はどうしても我慢できなかった。
「おい、お前らいい加減に--」
「おいおい転校生、その悪魔を庇うつもりか?」
(は?悪魔?どう見たって天使だろ)
そんな事を思っていたら--
「だってそいつ、時々目の色が赤に変わるんだもんw」
「そいつがこの学校でなんて呼ばれてるか教えてあげるよ」
一拍置いて、そいつは言う。
「
「...」
(あー、なるほど。そういうことだったのか)
俺はその一言を聞きながら、麗華の何かに怯えているような“一瞬の震え”を見逃さなかった。そして俺は、この卑劣な状況を完全に理解したと同時に、自分の予想が完璧に合っていると確信した。だから--
隣にいる麗華にはありったけの申し訳なさを。外道なコイツらには無限の憎悪を込めて言ってやる。
「おい、お前ら」
湊斗の冷徹な声で、この場が一気に静まり返る。
そして--
「この子を悪魔と呼んで楽しいか?」
麗華を傷つける奴は、誰だって許さない。
※※※
湊斗はこの春に帰ってきた。
それはもしかしたら、
“単なる偶然”ではないのかもしれない。
つまりここから先は恋の女神のみぞ知る--
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