第47話「探し人見つからぬ」
情報を貰ってから数日が経過した。
友人達は未だハチミツ集めが終らず、最近は学校でも目からハイライトが消失しつつある。
ハチミツ集めが過酷なのは、ボクも痛いほどに理解している。
残り40だと聞いているので、土日を使い一日中集めたら達成できるだろう。
というわけで二人はまだ合流できない。
仕方がないのでボクはメタちゃんとガーディアン君の三人で、モンスターの処理をしながら木の上に住むNPC達を一通り訪ねたのだが。
「うーん、大体回ったけど見つからないよ」
木造平屋から出たボクは、そのまま土台となっている大木に設置された上り下り用の螺旋階段を下りる。
ポヨンポヨン跳ねるメタちゃんは、ボクを見あげてこういった。
「メタダメ~?」
「ダメダメ~だね」
可愛らしく頭を傾げるメタちゃんにほっこりする。
地道に一軒一軒回っているけど、残念ながら未だ義を重んじる民は見つかっていない。
話をすると全員ハッキリ『自分は違う』と言うのだ。
知らないではなく、自分は違うと答える辺りなにか知っているとは思うのだが。
残念ながら誰がソレなのかは、聞いても教えて貰えなかった。
ただ一つだけ分かったのは、全員ウソをついているような感じがしなかった事。
エリアのどこかにいる事は間違いないけど、一体どこにいるというのか。
「うーん、これはベータ版にはいなかったNPCが追加されている可能性あり?」
もしも洞窟のように隠しハウスみたいなのがあったら、自力で探すのはかなり難しいかもしれない。
そうだとしたら闇雲に探すよりは、一度エミリーさんに聞いてみた方が良いだろう。
むーんむん、思っていたよりも簡単じゃなかったな……。
悔しく思いながら階段を下りていたら。
大きな爆発音が起こり、そちらに視線が向く。
「アレは……」
三体の見知らぬオオカミに囲まれる、少女の姿が目に留まった。
少女は弓に炎の矢を
しかし残る一体の角付オオカミが強い。
狙撃を避けて、彼女に鋭いラッシュ攻撃を繰り出す。
軽やかな身のこなしで少女はギリギリ回避すると〈ソニックダッシュ〉で間合いから離脱した。
正に一進一退の攻防戦、魔術師である少女の方がやや苦しい状況か。
苦戦している少女の事は知っている。
つい最近実技の授業で対戦をした、一学年上のミカゲ先輩だった。
ただオオカミ型モンスターは知らない。
このマップに出てくるのは、主に昆虫種と草木種の二パターンだったはず。
しかも第二階層カンスト勢のミカゲ先輩の攻撃を避けるとは、アレはきっとかなりの強者であることは間違いない。
助けないと、そう思ったボクは階段から飛び降りてガンソードを抜いた。
「風の弾丸よ、ボクに力を!」
回転式弾倉に込めたのは〈ラファエル・ブレット〉。
五発全弾消費して自身に風属性を付与。僅かに浮力を得たボクは、肩にメタちゃんを乗せて勢いよく彼女とモンスターの間に着地した。
「し、シエルさん!?」
「ミカゲ先輩、丁度近くにいたので助力に来ました!」
「メタアックスゥ!」
モンスターの突進を、メタちゃんが〈メタモルフォーゼ〉で大型の斧になって迎撃。
激しい衝突音が鳴り響く。敵モンスターは強い衝撃を受けて後方に吹っ飛んだ。
『マスター! このオオカミは私と同じ階層守護者、
「え、あれ植物なの? どう見ても普通のオオカミなんだけど!?」
メタちゃんの横に並び立つように召喚したガーディアン君は、目の前にいるのが自身の同種である事を教えてくれる。
ガーディアンウルフは唸り声を上げながら、自身の障害となるボク達を睨みつけた。
体高120センチ程度。
ドーベルマンがチワワに思える威圧感。
風を受けて揺れる真っ黒な体毛は、柔軟でそれでいてメタちゃんの攻撃を受けたのに無傷で済んでいる程に強靭。
太く強靭な四肢から覗いている大きく鋭い爪は、鍛え上げられた剣のように輝いていた。
名前表記はないが、HPゲージは存在する特殊モンスター。
恐らくはガーディアン君と同じように、汚染されて暴走している感じなんだろう。
となればやるべきことは一つだけ。
「よし、それならあの子に触れて正常に戻すよ!」
「メター!」
『了解しました』
「正常? ど、どういう……」
「ミカゲ先輩は……そこで見ていてください」
一瞬だけ自分のシークレット能力を見せるか悩んだ。
しかし一戦交えて彼女が周りに言いふらすようなタイプではないと判断し、ボクは目の前で正常化作業をする事を決断する。
タンクビルドのガーディアン君が前に出て、ガーディアンウルフ──略してガウルフの鋭い
嵐の様に叩きつけられるが、ガーディアン君はこれを全て冷静に受け切る。
コンマ数秒間の硬直が入ったタイミングを見て、セラフ・フュンフブーストで身体能力を強化。
動きが止まった敵に対し一気に距離を詰めに行く。
この一回で終わりにする。そんな覚悟を持って鋭く開いた手を前に突き出すが。
指先が触れる寸前、なんと後方に大きく跳ばれて左手が空を切った。
──な、あの状態で避けただと?
中々の敏捷能力だ。恐らくAGIが300以上はあるかもしれない。
想定外の動きに驚きながらも、慌てて体勢を会って直そうとするボクにガウルフは飛び掛かってくる。
「危ない!」
「メタメタープ!」
ミカゲ先輩が魔術で援護する寸前。
ボクの前に出たメタちゃんがロープにメタモルフォーゼして、ガウルフの身体に巻き付いた。
動きを拘束されたガウルフは地面に墜落、汚染は密着するメタちゃんも支配しようとするが。
メタちゃんの身体が淡い光を放って汚染を完全に弾く。
そう最近発覚したがボクのパートナーは、作った弾丸を食べた影響なのか汚染に対し、完全な抗体を獲得している。
逆に浄化作用が働き、メタちゃんの巻き付きにガウルフは継続ダメージを受けているかのように苦しみだす。
「いまだー!」
ソニックダッシュを発動させたボクは、一気に接近してガウルフの頭をタッチ。
触れた地点が眩い純白の輝きを放つ。
瞬く間にガウルフは修正されて、黒オオカミから白オオカミに変色した。
瞳にハイライトが戻ったガウルフは起き上がり、思いっきり身体を左右にブルブルする。
『どうやらマスターの力で無事に元に戻ったらしいデースネ』
『グルルル……』
『……そのふざけた語尾は第一階層のって? 人のアイデンティティをふざけた呼ばわりは失礼なのデース』
ガウルフはガーディアン君と違って、人の言葉を喋る機能はないらしい。
数回のやり取りをした後、ガウルフはボクの方を見た。
『ワン!』
「なるほど、第二階層の汚染問題が解決するまで使い魔にして欲しいんだね」
『マスター、なんでコイツの言葉が分かるのデスカ?』
「何となくかな、メタちゃんのおかげで目を見たら大体分かるようになったんだ」
『なるほど、マスターはすごいデース』
というわけで使い魔として受け入れると、ガウルフ君の名前が新たにステータス画面に追加された。
召喚士や調教師じゃないのに使い魔が三体。
また一つチート要素が増えたなぁ。
取りあえずメタちゃん以外は返還して待機してもらう。
そこでようやく背後で興味津々な顔をしているミカゲ先輩に向き直り、ボクは右の人差し指をく自分の唇に当てた。
「ミカゲ先輩、これは絶対秘密ですよ」
「あ、はい……」
こうしてボクの秘密を知るプレイヤーが一人追加されたのであった。
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