第24話「騎士型モンスター」
【Dungeon Clear】
目の前に表示されたのは、ダンジョンをクリアした事とレベル15になった通知。
更に大ボスが封印されている、メインダンジョンに挑戦する権利の獲得だった。
ボス撃破でドロップしたのは〈カウ・リング〉という名の腕輪。
アイテムカテゴリーは装飾品、装備するとHPとAGIがプラス20される中々良い性能だ。
カウとは英語で
つまりあの〈ミノタウロス〉はメスってこと?
或いは
なのでここは素直に、メスミノだと思い込むことにした。
具現化させた腕輪は、シルバーのシンプルなデザイン。
右腕に装着したボクは、また一歩強くなった実感を得ながらステータス画面を開く。
今回はダンジョンを攻略したのでDPが『5』加算されて、レベルアップボーナスの『5』と合わせ10ポイントも貰えた。
INTに迷わず振って『125』にすると頬を緩める。
「150になったら〈クロス〉と〈シールド〉のシンボルがレベル2に強化されるね」
「メタメタ!」
「うん、レベル2になったら効果がより高くなる。そしたら大ボスを倒しに行っても良いかも」
ウキウキ気分で、入り口付近で待っている従姉の所に戻った。
ボクとメタちゃんの活躍を口頭で褒め称えた後、シース姉さんはいきなりギュッと抱き締めてきた。
「グッドゲームだ。まったく規格外の強さだよ、シエルとメタスラの力は」
「ありがとう、シース姉さん」
仲睦まじい姉妹のやり取りをしていると、ボスフロアの雰囲気が急に一変する。
全身の鳥肌が立つような
シース姉さんから離れて二人で目を向けた場所は、最初に大牛人がいた場所だった。
台の上に真っ黒で、頭部に角のある騎士型モンスターが出現する。
なんだアレは。
あんな機動兵器みたいなモノは、ベータ版の時に一切見た事がない。
通常ならば頭上にHPゲージとモンスターの名前が表示されるが、その場所は空白となっている。
ソロ討伐達成の特殊出現と考えるのが普通だけど、敵が放っている圧は先程のボスの数倍はある。
正面から戦っても勝てるかは難しい。
そんな印象を自分は受けた。
「ああ、そうだ思い出したよ」
ディバイン学科の授業で女教師から最初に習った。
一年で定期的に出現する、黒い鎧の機械型モンスターだ。
倒したプレイヤーを一ヶ月間ログイン不可状態にする、普通のゲームにあるまじき存在。
解除するには時間経過か、付与した個体を誰かが倒すしかない。
この1年間はコイツの存在によって、プレイヤー達の攻略は難航していたらしい。
そこから付けられた名は、呪いの守護者。
──〈カース・ガーディアン〉
「よりによって角付きか。……シエル、そこから一歩も動くなよ」
腰に下げているカタナに手を掛けたシース姉さんが、ボクを守るため前に出た。
その動きに反応したのか〈カース・ガーディアン〉は、腰にマウントしている
『異物ヲ確認、コレヨリ排除シマス』
「シエルとの楽しい休日を邪魔するんだ、それなりに楽しませてくれるんだろうな?」
……あ、これはスイッチが入ってますね。
シース姉さんが普段漂わせている空気が、いつもの穏やかな感じから一変している。
彼女は冷静沈着な大人の女性なのだが、ゲーム内で戦いになると思考がバトルモードに切り替わる。
あの状態になった従姉は強い。
大体ボクが苦戦する敵をノーダメで倒す程に。
極限まで集中したシース姉さんは、前傾姿勢になると前に強く飛び出し。
一瞬にして敵の懐に飛び込んだ。
至近距離で放つのは、もっとも得意とする居合切り。
シンプルであるが故に崩し難い一撃が放たれ、敵の首を断ち切らんとする。
その寸前に二人の間で、金属の衝突する音と激しい火花を散らせた。
「──ふむ、やはり通じないか」
『脅威度S、速ヤカニ排除シマス』
「ああ、良いぞ。私を楽しませてくれ」
ガギギギン、と視認困難な斬撃の応酬が何度も繰り広げられる。
秒間三回もの斬撃を放つシース姉さんと互角に打ち合うとは、あの黒いモンスターは相当な化け物らしい。
だけど化け物同士の戦いは、そんなに長くは続かなかった。
シース姉さんが何かスキルを発動したらしく、そこから急に動きを加速させていく。
恐らくはステータス強化系のスキル。
片手剣を装備している事から前衛職の〈オーバードライブ〉だと推測する。
加速するシース姉さんは、敵の反応速度を超えてボディにいくつもの斬撃を叩き込んでいく。
ゴリゴリと削れるHPは、あっという間に半分を切る。
完全に速度で上をいかれた敵は頭部を上下に展開。
切り札だと思われる、至近距離のビームを放つが。
「ははは! 楽しかったぞ〈カースガーディアン〉!」
彼女は首を傾けてビームを紙一重で避けながら、容赦なくその胴体を断ち切る。
真っ二つにされた敵のHPは、全てゼロになり地面に倒れた。
ほぼゼロ距離だったと思うが、光線をあんな避け方するなんて従姉は軽く人間を辞めているのでは。
少々ドン引きしていたら、納刀をしたシース姉さんはもう大丈夫だと手招きした。
「シース姉さん、グッドゲーム!」
「ありがとう。……だがいつもなら爆発四散するんだが、今回は残骸が残ってるな」
「あれ、そうなんだ。てっきり残るのは仕様だとばかり……」
「メタ~?」
メタちゃんが近づき、頭部を軽く小突いた。
完全に倒したのは間違いないと思うが、残骸が消えないのは何事なんだろう。
まさかバグっているのか。
でもベータテストの時に、このゲームでバグなんて起きた記憶は全くない。
一応警戒しながら、自分も近づいて頭部に触れてみる。
質感は滑らかで硬い金属、軽く叩いた感じVIT値がメタちゃん以上はありそうだと思った。
彼も流石に食用だと判断できないようで、隣りで「ナニコレー?」と頭を傾げている。
しばらく触ってみたが、これといってアイテム化するような現象は起きない。
ならばこれは何で残っているのか。
少し考えてその場で考えるけど、答えは見つからない。
諦めようと思ったその時。
ボクが触れた場所が、淡い純白色に輝く。
光りは徐庶に広がっていき、沈黙している〈カース・ガーディアン〉の上半身を包み込んだ。
「は? ……え、なにこれ!?」
「シエル、離れなさい!」
びっくりして離れる。
シース姉さんはボクを守るように立ち、カタナに手を掛け警戒する。
光が収まった黒い装甲は、まるで汚れを落としたかのように真っ白になった。
再起動した敵は憑き物が落ちたかのような目を、頭だけ出すボクに向けた。
『オ……ウゴ……マス』
「モンスターが喋った!?」
『アア、……ガ……修…サレ……オ願イ……ス、ドウカ……ヲ……………』
最後にそれだけを告げ〈カース・ガーディアン〉は光の粒子となって散る。
一体何だったのか分からない。
隣りにいるシース姉さんを見るが、分からないと首を横に振られてしまった。
「とりあえず場所を移動しよう。ここに長居をすると、一時間後にボスがリポップしてしまうからな」
「……うん、わかった」
シース姉さんの提案に承諾したボクは、メタちゃんを抱えてビルから出ることにした。
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