第25話「てぇてぇ尊死」
ノースエリアにあるアイスクリーム店。
そこでボクはチョコとバニラの二段アイスを購入する。
シース姉さんと二人で適当なベンチに腰掛け。
先程の〈カース・ガーディアン〉について話をする事にした。
「授業で習ったから知ってたけど、あんな怪物がいたら攻略が遅れるのも納得だね」
「アレは角付きだったからな。普通の〈カース・ガーディアン〉は、階層に応じたステータスになるからあそこまで強くはない」
「階層準拠かぁ……。それなら角付きのステータスはどうなってるの?」
「角付きは階層に影響されない。唯一例外として全サーバーで一番レベルの高いプレイヤーを基準に、二倍のステータス強化を受けている……という仮説が提唱されているな」
「つまり全部強いってことだね」
「ああ、そうだ。全部プレイヤー達よりも強くなるようにデザインされている。1年間も第一層の攻略に苦労したのは、手探りでやっていたことに加えて半分以上は奴らが原因だ」
倒した相手を1ヶ月もログイン不可状態にする呪い。
今はシース姉さんみたいに、第三層まで攻略している人達に助けを求められるけど……。
全員スタートしたばかりの初期は、戦闘非推奨的な存在だった事が容易に想像できる。
だってボスみたいに強い奴らを相手に、真正面から勝てるわけがない。
冷たいアイスを木製スプーンで崩しながら口に運び、ボクは先程の不可解な現象を思い出した。
「シース姉さん、あの〈カース・ガーディアン〉は喋っていたけどアレって普通にある事?」
「……いや。今までに私は何体も奴を倒してきたが、人の言葉を喋る個体を見たのは初めてだ」
「ふむふむ、もしかしたら倒した個体数によって発生するイベント、それか偶然発生したスペシャルクエストの二つかな」
「討伐数をトリガーにしたイベントはないだろうな。私と同じか、それ以上に倒しているプレイヤーは沢山いるだろうし、もしそうなら私の耳に入ってくるはずだ」
「ならこれは無しだね。後はスペシャルクエストの可能性だけど……」
「私達にクエストが発生していないからな。ただの演出と思った方が良いんだろうが、最期にヤツが口にした
何か考えるような顔をして、シース姉さんは口を閉ざしてしまう。
お願い、一体何のお願いなんだろう……。
薄味のアイスクリームを食べながらボクも考えてみるが、これといって思い浮ぶことはない。
膝の上で気持ちよさそうにお昼寝をするメタちゃんの頭を撫でながら、視線を周囲に向ける。
「うん?」
気が付けば周りに、上級者っぽいプレイヤーが沢山集まってきていた。
全員手元のウィンドウ画面と睨めっこをしていて、その表情はとても真剣だった。
もしかして、なにかイベントでも起きるのかな。
メニュー画面を開いてお知らせを確認してみるけど、ここで何か起きるような情報は一つもない。
気になるけど一旦彼等の事は忘れ〈カース・ガーディアン〉に意識を戻した。
「一つだけ思ったんだが、私の目からはシエルが何かしたような感じだった。何か特殊なスキルを持っているのか?」
「残念ながら持ってないんだよね」
「持っていないのか、なおさら分からなくなったな」
「ガーディアンさんのお願いって言葉も主語が欠けてるから、まるで意味が分からないし……」
ここで会話は完全に止まってしまう。
行き詰っているこの状況は、非常によろしくない。
スプーンでチョコアイスをすくい取ったボクは、頭から少々湯気を立ち上らせている従姉に差し出した。
目の前にあるアイスに、シース姉さんは目を丸くする。
「シエル?」
「はい、シース姉さん。あーんして」
「……いや、私は遠慮」
「むー、食べたくない?」
少しだけ頬を膨らませてジト目で見上げる。
しばらくして観念した従姉は、口をあけてアイスクリームを頬張った。
「うん、相変わらず仮想世界の料理は薄味だな」
「でも頭が熱くなってるボク達には、冷たくてちょうど良いんじゃないかな」
「ふふ、そうだなシエル」
今度はバニラアイスをすくい取って、従姉の口に運んであげる。
シース姉さんは恥ずかしそうな顔をしたが、ボクが見ていたら大人しく食べた。
そこで周囲から「グハッ!?」となにかダメージを受けたような声が聞こえる。
なにかあったのかと見た先には、地面に倒れたプレイヤー達の姿があった。
え、本当になにがあったの?
彼等は全員謎のダメージを受けていた。
安全エリア内でプレイヤーにダメージを発生させるには、決闘か自滅をするしかない。
見たところHPが徐々に減少していく。
頭の上には〈毒の状態異常〉を受けているアイコンを確認できた。
(配信カメラがあるって事は、まさか毒で誰がギリギリまで生きられるかのチャレンジ?)
このゲームには12時間ログイン不可のデスペナルティがある。
それなのに配信の数字稼ぎで、よくこんなトチ狂った事ができるもんだ。
一ミリも理解できず困惑していると。
どこからか救護班がやってきて、タンカーで倒れた者達を順次通路の隅に運んでいく。
その場でポーションを掛けたら良いのに。
毒消しと回復薬を飲んで死亡を免れた者達は、どこか幸せそうな顔をしていた。
「HP全回復……あ、そうか」
「シエル?」
「ガーディアンさんってたしか、他にもいるんだよね」
「……他にもいるが、オマエの考えている事はなんとなく分かるぞ」
鋭い目つきになった従姉は、今までの穏やかな雰囲気が一変する。
「倒さずに触れようと考えたんだろう、そしたら正確な情報を得られる可能性が高い。それを私が思いつかないとでも思ったか?」
「ダメかな……」
「相手は〈ミノタウロス〉とは違う、私は賛成しない。奴を倒せるようになったのは、第二層で武器を更新してからだ。それまでは基本的に逃げるのが鉄則で、間違っても交戦は考えるものではなかった」
「でもほら、戦うんじゃなくて触れるだけだから」
「敵の懐に飛び込むんだ、似たようなものだ」
「反射神経には自信あるから大丈夫だよ。ヤバそうだったら、VIT特化してるメタちゃんが防いでくれるし」
「ダメだダメだ、万が一でも目の前でシエルが切られる事は絶対に許容できない!」
「まったく、過保護だね」
ズバリ指摘するが、それは百も承知である従姉。
そっぽを向いてしまい、ボクの提案を全却下する姿勢を見せる。
余りにも子供っぽい姿に苦笑いしてしまう。
彼女が自分の事を、それだけ大事にしてるのだと思うと愛しい感情で胸がいっぱいになった。
だけどこうなると、従姉はテコでも動かない。
どうにかして説得しなければ、従姉の頬を軽くつつきながら悩んでいる所に。
「お、誰かイチャついてると思ったら、リーダーこんなところで何を……」
「わっぷ、ちょっとブルワークさん止まらないでくださいよ! ……まったくなんで」
人垣をかき分けて、二人のプレイヤーがボク達の前で足を止めた。
中々に目立つ紫色に輝く全身鎧姿の騎士、その隣には神官の恰好をした赤髪の少女がいる。
彼等は此方を見て、信じられないモノを見るかのように目を丸くしていた。
「「あ、あのリーダーの頬を突いて怒られてない!!?」」
「え、え……なにごと?」
困惑するボクの横でシース姉さんは、面倒な人達に見つかったと言わんばかりに舌打ちをした。
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