第22話「アバターのオシャレ」
待ち合わせ場所は、ノースエリア内にある小さな喫茶店。
エルフの美人NPC達が運営している店で、ボロボロの見た目と違って内装はリアルにある店と同じくらい綺麗にしている。
民族的なインテリアは中々にオシャレ、落ち着いた雰囲気の店内は中々に好印象だ。
ただ唯一残念な点は、ベータ版と変わらずゲームの仕様なのか店のレシピがアレなのか、出てくる料理の味が全体的に薄味な事。
実に惜しいと思いながら、目立たないように店内の隅っこを陣取っているボクは、コーヒーを飲み干してチーズケーキを完食する。
テーブルの上で鉄片を頬張っているメタちゃんは、よくそんなモノ食べられるねと言いたそうな目をしていた。
「むぅ、君だって金属しか食べられないくせに」
「メタ~」
「種族的仕様だから仕方ないって、そんなメタ発言をメタちゃんがするのは……」
「メタギャグゥ?」
「ち、違うよ。今のは狙って言ったわけじゃないからね!?」
思わぬツッコミを入れられて、思わず動揺してしまう。
そんなやり取りをしていたら店員のエルフさんが、ニコニコと微笑ましい顔でこちらを眺めていた。
今のを見られていたなんて、なんだか恥ずかしい……。
一方で一緒にログインしたはずの従姉は、未だ待ち合わせ場所に指定したのに現れない。
なんかやる事を一つ済ませてから来るとか言っていたが、かれこれ10分は経過していた。
中々に遅いと思い、ボクは窓から外の様子を覗く。
休日の早朝という事もあってか、店の外には10代から30代の男女が意気揚々と安全エリア外に向かっている。
装備は始めたばかりの初心者から、第一層で揃えられる強力な装備の上級者とピンからキリまで。
そういえば自分も、そろそろ初期の防具を替えなければいけない。
中ボスとか大ボスを相手する場合、龍華とメタちゃんの防御力頼りでは中々に厳しい。
ダメージディーラーなのだから事故った時のことを考えて、最低限のHPは防具で確保しなければ。
──そんな事を考えていたら、店内に一人のイケメンプレイヤーが入ってきた。
頭上に表示されるプレイヤーネームは『シース』。
昔から沙耶姉さんが愛用している、英語で刀剣の鞘という意味がある単語。
外見はクール系で黒髪美少年剣士という感じ、整った容姿は視線を集めるだけの魅力がある。
装備は身軽さを重視したスポーツカジュアルに鎧をミックスした感じ、たしかあの鎧は第三層の中ボス〈ヒュドラー〉を単独討伐に成功した者だけが与えられる〈蒼海の竜〉シリーズだ。
武器は見た事がない漆黒の片手剣、恐らくSTRとAGIの二極に振っている回避アタッカーだろう。
実に前衛思考の従姉らしいスタイルだと眺めていたら、自分を見つけた彼女は真っすぐ来て目の前で足を止めた。
「シエル、待たせてすまない」
「メタちゃんとまったりお茶していたから、気にしないでシース姉さん」
お互いにプレイヤーネームで呼び合った後、従姉はテーブルの上にいるメタちゃんに注目した。
「その子が話に聞いていたユニークモンスターか」
「メター!」
初めまして、と右手を上げるメタちゃん。
シース姉さんも、可愛らしい動作に微笑を浮かべた。
「いつもシエルが世話になっている、金属が好きと聞いて君に用意した物があるんだ」
そう言って彼女がストレージから取り出したのは、10センチくらいの金属片。
銀に輝くそれはベータ版の時に何度もお世話になった、第二階層で獲得できる『鋼片』だ。
鉄片よりもワンランク上の金属、それを目にしたメタちゃんは目がハートマークになった。
「メタスチールゥ!?」
「良かったね、メタちゃん」
両手で宝物を扱うかのように受け取り、幸せそうな顔で頬ずりをするパートナー。
ひとしきり鋼の感触を楽しんだ後、彼は大口を開けてそれを丸呑みにする。
しばらく待って排出されたのは、無属性の中級スキルを使用できるようになる鋼の弾丸〈スチール・ブレット〉だった。
テーブルの上に転がる弾丸を手にしたら、シース姉さんが何か言いたそうな顔をしていた。
「シース姉さん、どうかしたの?」
「いや、すまない。それってどう見てもアレにしか……」
「あー、やっぱりそう見えちゃうよね。ベータ版の時にあの二人も、これ見て同じ反応したんだよ」
正面から食べて後ろから出す姿は、誰がどう見てもアレにしか見えないだろう。
だがゲーム内に、そういう機能は実装されていないので断じて汚いモノではない。
そのことは彼女も理解しているから、深く追及することはなかった。
「合流した事だし、今日はどうしようか」
「サクッと中ボスを倒そうと思ってるよ」
「ふむ、その初期装備で被弾したら一撃で死にそうだな。良ければ今から防具屋に行こう」
「うん、分かった。行こうメタちゃん」
相棒を肩に乗せたボクは、料金を支払って先を行くシース姉さんの後を追い掛けた。
防具屋は衣服と防具の二種類を扱っている。
衣服にはプラス効果がないため、防具との組み合わせは個性が出る大きなポイントの一つとなる。
先ずプレイヤー達が、同じ格好になる事は殆どない。
安定の『このプラス効果にしたら間違いない!』というテンプレはあるけど、衣服のバリエーションが豊富だから。
というわけで袖なしワンピースタイプの服に、黒のタイツとブーツを組み合わせたシンプルな格好にする。
重要な防具に関しては部分装備の軽金属を採用、動きやすさを追求したシース姉さんと同じスタイルだ。
LI──ライトアイアンシリーズは、HPとAGIがそれぞれ『10』強化される。
胴体、腕部、足部の三ヶ所に装備した結果、ボクのステータスは以下のようになった。
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PN:シエル
JOB:ガンブレイダー
Lv:14
HP(体力):30/30(+30)
MP(魔力):20/20
STR(筋力):20
VIT(耐久):10
AGI(敏捷):20(+30)
DEX(器用):50
INT(知力):115
右手:ヴァリアブル・ガンソード
左手:装備不可
頭部:空欄
胴体:LIブレストプレート
腕部:LIバンブレース
足部:LIグリーブ
装飾:空欄
使い魔:メタルスライム
【スキル】
・ブレット作製技術
・セラフ魔術
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トータルでHP『60』にAGI『50』。
攻撃力は十分に足りてるから、万が一被弾した際のHPと、被弾を最小限に抑える速度を確保した。
だが何よりもモチベーションを高め、維持するための最も大事な要素。
それは──自身のアバターを綺麗に着飾る事。
「メタメタ!」
「ふふふ、似合ってるって? ありがとう、メタちゃん」
「……ああ、なにを着てもシエルは可愛いな」
「シース姉さん、ありがとう」
見た目を分かりやすく言うと、村娘から可愛い姫騎士にクラスアップした感じ。
新しい服と装備にルンルン気分になりながら、ボクはシース姉さんと腕組みをした。
「ちょ、シエル……?」
「どうせ強い敵は出てこないしさ、こうやって行こうよ」
「油断大敵、と言いたいところだが……。まったく仕方がない、その代わり一回でもダメージを受けたら離すんだぞ」
「うん、わかった。それじゃ、サクッと中ボス倒しに行こー」
こうしてボク達は、セカンドエリアを目指して出発した。
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