第13話「夜の冒険」

「190、191!」


 最短の動作で、ひたすら目前の石柱を砕いていく。

 鉄片は〈ガンブレイダー〉か〈錬金術師〉のニ職くらいしか使用しない。


 更に〈錬金術師〉も鉄片は大量に必要とはしないので、このドームはボク達だけの貸切状態だった。

 時々他のプレイヤーが採掘音に引き寄せられてくるけど、全員この苛烈を極める作業に目を丸くしてそっと退出する。


 脇目も振らず頑張っている彼女の邪魔をしてはいけない、或いは何あのツルハシ少女怖いから近寄らんどこ。

 もしかしたら、そう思われたのかも知れない。


 石柱を砕く作業の合間に現れるモンスターは、ボク達にとって経験値を提供してくれる間食的存在だ。

 左右前後から棍棒を持って迫る〈ゴブリン〉を見据え、前方の敵を両断しかかとを軸に半回転。


 勢いをつけて放った横薙ぎの一撃は、敵の武器が振り下ろされる前に胴体を真っ二つにした。

 粉々に砕け散って、光の粒子となるモンスター達。


 この程度の敵では、メタちゃんと連携するまでもない。

 立ち止まらずに駆け、そのまま最後の石柱を横薙ぎに三連打して叩き割る。


「──これで、200個目!」


 砕いた石柱で、ちょうどレベルが11となった。

 早速ステータス画面を開き、INTにポイントを振って100にする。


 軽快なSEが鳴り響き【セラフ魔術〈四大天使〉のシンボルが解禁されました】と通知が来た。


 よしよし、良い感じの進捗だぞ。

 属性弾丸で相手の弱点をつけば、ダメージ値は2倍となる。

 相性有利の技で敵を倒す、これは昔から現代でも変わる事のない堅実な戦法だ。


 本日のノルマは達成したし、後は宿に戻って今日のところはログアウトをしよう。

 地味ではあるけど、最初に採掘をひたすら繰り返すのが〈ガンブレイダー〉のテンプレムーブ。


 どのゲームでも小さな積み重ねが大事、これは紗耶姉さんから教わった基本である。

 弾丸はいくらあっても、困る事はないからね。


「メタキ〜ン」


「おや、金片を拾うなんて運が良いね」


 ツルハシをストレージに収納していると、メタちゃんがビー玉サイズの金片をスキップしながら持ってきた。

 時々こういう風に、フィールドには換金用のアイテムが地面に落ちている事がある。


 主にダイヤとかルビーとか、一つ売ればそれなりのお値段になるアイテム。

 ベータ版の時に親友二人と、一時間掛けて拾った換金用アイテムの合計金額で誰が一番高いか競ったものだ。

 結果は動体視力に秀でる龍華が、自分と優奈に大差をつけて勝利をしていたけど。


「メッタキ〜ン」


「んー、それ食べたいの?」


 金片に頬擦りする、メタちゃんの可愛らしい姿。

 それを眺めていると、子供がお菓子をねだるように見えて微笑ましい気持ちになった。


「メッタメッタキ〜ン!」


「ふふ、たくさん頑張ったからね。拾ったのはキミだし食べて良いよ」


 弾丸にすることはできず、換金するしかないアイテムだが金属を好物とする彼にとってはご馳走。

 許可すると口の中に放り込み、そのまま体内で徐々に消化していった。


「メタシアワシェ……」


 球状から半液状に緩みまくっている姿から、とても美味しかった事が分かる。

 流石に金属は食べられないので味は分からないが、メタちゃんが幸せなら何よりだ。


 ほんわかした気持ちで眺めていると、急にドーム内の空気が一変する。

 夜の静かでおごそかな雰囲気は、無数の殺意に満ちた緊張感あふれるものとなった。


 原因は周囲にリポップしたモンスター達、激情を表す真紅の光を瞳に宿した〈スライム〉〈ゴブリン〉は、先程まで一切しなかった殺意を込めた咆哮ほうこうを上げる。


「なるほど、もう22時になったのか」


 このゲームに出現するボス以外のモンスター達は、午後22時になると攻撃性が増して、更にはステータスが強化される

 故に昼間の感覚で挑むと、簡単に返り討ちにされる。


 加えて初心者が、モンスターの集団に囲まれた場合は先ず助からない。


 嘘か本当かベータ版の時には、プレイヤーの大半以上が初日に死亡したと聞いている。

 当然ボクも襲われたけど、持ち前の反射神経と瞬発力を駆使して、なんとか生き残る事ができた。


 結構危なかったけどね。

 そんな事を考えている内に、周囲には六体以上のモンスターがポップしていた。


『グルァァァァァァァァァァァァ!!』


 周囲にいる殺意マシマシな彼等が、目の前にいる敵に殺意をぶつけようと全方位から迫る。

 動きは先程よりも数段速い、同じタイミングで刃を振るえば向こうの攻撃が先に刺さるだろう。


 ──良いね。でもまだ対処できるよ。


 基本にして最も大事とされるスキル〈ソニックダッシュ〉を発動、正面のスライムに突進して鋭い突き技を叩き込む。

 包囲網をそのまま突破したボクは、一気に距離を取った。

 数秒前まで目の前にいた相手が突如いなくなり、モンスター達の攻撃は無意味に地面を叩くだけの結果となった。


 破壊不能オブジェクトの地面を全力攻撃した事で、モンスター達は数秒間の硬直時間を課せられる。

 これはチャンスだと肩に乗っているメタちゃんを掴み、


「いくよメタちゃん!」


「メタ!」


 纏まっている敵に目掛けて全力で投擲する。

 高速回転しながらパートナーは〈メタモルフォーゼ〉で手裏剣のような形状になり敵をまとめて切り裂く。


 一撃でHPがゼロになったモンスター達は、光の粒子となってドーム内を一瞬だけ照らし散った。

 無事に勝利を収めた後、回転で目を回しているメタちゃんを抱き上げる。


「ナイス変形だよメタちゃん」


「メタぁぁあぁぁあぁぁ」


 目がアニメみたいにグルグルしている姿に、投げて申し訳ないけど可笑しくて笑ってしまう。

 仕方ないのでガンソードを腰に下げて、メタちゃんを両手に抱えると。


「なにあれ……?」


 ドームの壁が一部真っ黒に染まり、が走っている事に気づく。

 一瞬ランダム発生するゲリラダンジョンかと思ったが、近づいてみると入り口ではない事が分かる。


 なんだろう、こんな現象はベータ版の時には無かった。まさかバグなのかな。

 巻き込まないようメタちゃんを離れた場所に置き、好奇心から黒染みを右の指先で触れてみる。


「うわ!?」


 すると触れた箇所が、白い輝きに染まる。 

 光は全体に広がり、真っ黒なノイズを包み込んで完全に消し去った。


 一体何だったんだろう……。

 不思議な現象に首を傾げていると、復帰したメタちゃんが肩に乗った。


「メタ?」


「ううん、大丈夫。なんでもないよ」


 気になるけど、一回だけの遭遇では何とも言えない。

 気を取り直したボクは、宿に戻るためにドームを出たら。


「うわあああああああああああああ」


「たすけてえええええええええええ」


 先程の現象が頭の中から吹っ飛ぶほどの、少年少女達の大きな悲鳴が聞こえた。

 何事なのかと声がした方角に向かってみる。


 するとそこでは、凶暴になったモンスター達に押されている初心者プレイヤーの姿が目に入った。

 落ち着いて対処したら別に強い相手ではないのだが、余りの豹変ひょうへんっぷりに完全にのまれているようだ。


「……始めたばっかりで、24時間のデスペナは可哀想だから助けようか」


「メタ~」


 助ける義理も義務もないが、見て見ぬ振りなんてできない。

 敵は数十体くらい、数は中々に脅威的だが手に負えない数ではない。


 メタちゃんを肩に乗せると、ガンソードの回転式弾倉を展開させて、念のために弾丸を5発込める。

 突進スキル〈ソニックダッシュ〉を発動させたボクは、彼等を助けるために疾走した。

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