全員ぶっ殺す!!!!!

哀音昏音

第1話「全員ぶっ殺す!」

「全員ぶっ殺す!!」

転校してきた彼女の最初の挨拶だった。僕を含めたクラス全員がポカンとする中、先生だけは淡々と彼女に席の案内をしていた。彼が僕たちに興味がないことはこの半年の行動と言動でよく分かる。現に僕がいじめを受けていることも見て見ぬふりである。

「では、ホームルームを終わります。」

先生がいそいそと教室を出るやいなや転校生の机は囲まれた。

「君名前は?」

クラス一の美人、須藤が聞いた。

「禅院 仏殺酢だ!よろしく!」

あー、朝の挨拶は宣戦布告ではなく自己紹介だったんですねー。それにしても物騒な名前である。

「おいおい、朝のあれはどういうことだ?」

彼の一声でクラスのみんなが禅院から飛び退く。

「ご、剛田、こいつ女の子だぜ?許してやりなよ…」

彼に物申した勇敢な生徒はたちまち剛田に胸ぐらを捕まれ、二メートル十センチの位置まで持ち上げられてしまった。

「俺はよォ、イキってるやつが死ぬほど嫌いなんだよォ!」

剛田が吠え、勇敢な生徒を振り落とす。そして禅院の方へ向き直った。

「殺されんのはてめぇだよ」

「いや、殺されるのはお前だ」

禅院に殴りかかろうとする剛田を禅院はデコピンをした。その後の景色はまるで映画やおとぎ話の内容のようだった。剛田の腹に直径三十センチ程の風穴が空いたのだ。剛田は断末魔をあげる間もなく絶命した。


朝の出来事とは裏腹に昼休みになると皆平然としていた。市内でも有数のヤンキー高校である我が校では殺し合いなど当たり前である。僕はいつも通り屋上で弁当を食べることにした。屋上に着くと既に彼らが待っていた。

「おい田中ァ、金貸してくれよォ」

金木、銀杏、銅山。俺から金をせびり、渡さないと暴力を振るう典型的ないじめっ子だ。

「も、もうないよ……お金なんて……」

「あぁ?金がない?そんなわけねぇだろ!」

銀杏が僕の腹を蹴る。意識が飛びそうだ。

銅山もそれに続こうと拳を振り上げた瞬間、彼女が現れた。

「強烈な殺意を感じた!お前ら殺し合いだ!!」

「げ、あいつ朝剛田をぶっ殺した禅院じゃねぇか」

「逃げようよ、金木くん」

弱腰の銀杏と銅山と違い、金木はやる気だった。

「剛田は俺の隠れ蓑だったんだ。あいつがいたから俺は金稼ぎができてたんだ!あいつはぜってぇにぶっ殺す!!」

金木が禅院に突撃すると銀杏と銅山もそれに倣った。

「三対一か!数的不利は殺りがいがある!」

禅院が振り下ろした拳は空を切った、ように思えたが金木の頭は破裂した。

「う、うわぁ!」

禅院に背中を見せた銀杏を禅院はデコピンした。当然当たる距離では無いが、彼女の中指は大気を弾き、銀杏の心臓を撃ち抜いた。

「残りはお前だな」

禅院は銅山を見下ろし、そう言った。

「ま、待ってくれ!なんでもやるから!欲しいもんとかなんかないのか?」

「欲しいものかぁ。特にないな」

「やりたいことかなんか一個ぐらいあるだろ?」

「あーそれなら!」

禅院はピンときたようだ。

「お前をぶっ殺すことだ!」

禅院は拳を振り上げた。

銅山を殺したあと、禅院はこちらに向かって歩いてきた。僕は死を悟った。でもそれで良かった。こんなクソみたいな世界を生きるくらいならここで理不尽に殺される方がマシだ。

「お前からとんでもない殺意を感じるぞ」

禅院は僕の前に顔をズイッっと近づけた。

「面白いやつだな。私以外の全ての人間に殺意を向けている。こんなやつ初めて見たぞ。」

禅院はそう続けた。それもそのはずだ。僕はこの世界の人間全員が死ねばいいのにとずっと思っているのだ。このことを禅院に話すと

「その程度のやつならうじゃうじゃいる。お前程明確な殺意を持ったやつはまぁいないという話だ。」

確かに言われてみれば僕はよくどうすれば全人類を殺せるか考えている。ウイルス、戦争、人工災害。頑張れば人類滅亡も夢じゃないはずだ。

「なぁ、私と組んで人類ぶっ殺さないか?」

こいつのパワーがあれば絶対に成し遂げられる。僕の夢が。僕に迷う余地はなかった。

「あぁ、殺ろう」

僕は禅院の手を強く握った。

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