第23話 ゾンビ、第三の事件の真相を知る

 俺はカラにたずねた。


「3つ目の事件の被害者は、木村さんだよな? 木村さんを殺した犯人はもうわかってるの?」 


「うん。100パー、フミピョンのおかげ」


 俺のおかげと言われても。俺は犯人が誰かわかっていない。


「フミピョンがビニールひもを発見したって聞いた時に、犯人の目星はついてたんだー。部屋の位置からね。でも、動機がわからなかったんだけど、フミピョンが拾ったスマホのおかげで、はっきりしたよ。まずはこれを見て」


 カラは木村さんのスマホを手に取り操作し、スマホの画面を俺に見せた。

 メッセージのやり取りが映し出されていた。


~~~~


  「立花を殺したの、おまえじゃないよな?」20:52


「立花さんは自殺でしょ?」20:54


  「自殺じゃない。このままじゃ、俺も犯人に殺される」21:01


「なにをしたの?」21:01


  「俺は関係ないんだ。立花に巻きこまれちゃっただけで。犯人に心当たりないか?」21:06


「今、どこにいるの? 部屋に来て」21:06


  「無理。犯人に襲われたらやばい」21:07


~~~~


「これはキムキムとユーカリンとのメッセージのやりとり。二人は付き合ってて、二人が付き合ってるのは、みんな知ってたんだけど。でも、あたしが知らなかったのは、最近二人がうまくいってなかったってこと。なんでうまくいってなかったかというと……」


 カラは次に、木村さんと「メグミ」という女の人とのラブラブなメッセージのやり取りを見せた。

 読んでて、俺は思わず声を出してしまった。


「うわぁ……」


 イチャイチャしまくってて、なんか見ていて恥ずかしくなった。

 カラは言った。


「見ての通り、キムキムはメグミにガチで沼ってる。メグミの方はどうかわかんないけど」


「え? そう? むちゃくちゃ両想いのラブラブバカップルに見えるけど?」


 詳細は省略するけど、メッセージを見る限り、二人はやたらとイチャイチャラブラブしている。

 カラはスマホを見ながら、小首をかしげた。


「うーん。あたしのカンでは、メグミは遊んでるだけ? ただのカンだけど。女の子は上手にネコかぶるからねー。キムキムって、見た目とコミュ力はいいけど、人の表面しか見れないペラペラうすっぺら男だから。勝手に騙されてんじゃないかなー」


 あいかわらず、カラの人物評は厳しい。

 カラはスマホを操作し、俺に画面を見せながら言った。


「とにかく、キムキムはもうユーカリンとは別れる気だったっぽい。でも、大事なのは、昨日の、メグミとのこのやり取り」


~~~~


「早くきて 早く 会いたい 好き」16:44


  「今行く!」22:55


~~~~


 俺は首をかしげた。


「行く? メグミって人もここにいたの?」


「いないよ。メグミは文学部のF棟に閉じこめられていたの。あたしは知らなかったんだけどさ。キムキムが受け取っているメッセージによると、むこうにも何人か閉じこめられてるらしいよ」


「へぇ。え? でもまてよ。別の校舎って、こことはつながってないんだよな?」


 カラはうなずいた。


「そう。つまり、キムキムはこの建物から逃げ出して、F棟に行ったっぽい。あたしがアルミ板で作った脱出用装甲がなくなってるから、たぶんあれを使って移動したんだと思う。だけど、結局キムキムは避難するのをやめて、戻ってきた」


 俺は、そこで何か違和感を感じた。


「戻ってきた?」


「途中であきらめたみたい。無理だって判断したんでしょ。だって、ただアルミの箱かぶって歩いて行く作戦だよ? あたしが作っといてなんだけど、脱出用装甲使って避難するのは無謀、無謀。とにかく、ここに戻ってきて、キムキムは、ユーカリンの部屋に向かった。ユーカリンとの最後のメッセージのやり取りはこれ」


~~~~

「犯人がわかった。教えるから、部屋に来て」22:45


  「了解」02:54

~~~~


 カラは部屋を出ながら言った。


「ユーカリンの部屋に行こう。あの部屋が本当の事件現場だと思う」


 俺はカラについて階段を上がって5階に行った。

 遠野優花さんが寝泊まりしていた部屋は長い廊下の端の方にあった。


 カラは無人の部屋のドアを開けて中に入っていった。

 部屋の中には、本棚、机の他に、ソファベッドがあった。


「ベッドがある」


「この部屋の先生は泊まりこみで仕事するために、ソファベッドをいれてたみたい」


 よく見ると、ポットはもちろん炊飯ジャーに電子レンジ、小さな冷蔵庫まである。

 カラは部屋の奥に進み窓を開けた。


「それよか、ほら、窓の外を見てみて」


 カラに言われて、俺は窓から顔をだして下を見た。

 いつものようにゾンビがのんびりしている。

 さっき、みんなが避難した時には大暴れだったけど、今は、平常運行、ほとんど何もしていない。


 ゴミ拾いゾンビは、いつものようにゴミを拾ったり落としたりしながら歩いている。

 ゴミ拾いゾンビがちょうど窓の下を通過していくのを見て、俺は気がついた。


「そっか。ここって、ひょっとして」


「そ。あの窓の1階上」


 ここは、木村さんが吊るされていた窓のちょうど1階上の窓だった。

 これを見れば、第3の事件で何が起こったのか、俺にも推測できた。


「なるほど。優花さんはこの部屋で木村さんを絞殺した後、ビニールひもで窓から外につるした。その後で、1階下の4階の部屋に移動して、机の足に結んだナイロンロープを首に縛り付けてから、ビニールひもを切った。そうやって事件現場を偽装、かつ、木村さんが首を吊ったように見せた。だから、下にビニールひもが落ちていたのか」


「うん。ユーカリンは、メグミのところに逃げていったキムキムを許せなかったんだろうね。だけど、自分の部屋でキムキムが死んでいるのが見つかったら殺人を疑われる」


 たしかに、カラの言うことは理屈が通っている。

 スレンダーな優花さんの力では、木村さんをかついで階段を通っていくのは大変だし、どこかで見つかる可能性が高いから、木村さんを1階下に移動しようとすれば、この方法が一番だろう。

 だけど、俺には腑に落ちないことがある。


「そんな面倒なことしなくてもさ、第1の事件みたいに単に窓から落とせばいいと思うんだけど。まぁ、俺は死体の近くまでいけるから、絞殺の跡に気が付くかもしれないけど」


 カラは窓の外を見ながら言った。


「たしかに、殺害を隠すだけなら、窓から落としてもよかったかも。でも、ユーカリンは、見せつけたかったんだと思う」


「見せつける?」


「ほら、窓の外を見てよ」


 カラは窓の外に見える建物を指さした。


「あの、向かいにあるのが、F棟。南側の部屋からだとF棟は見えないんだけど、この部屋だと見えるんだよね。つまり、嫉妬に燃えるユーカリンはメグミにキムキムの死を見せつけたかった。てのが、あたしの推測」


「こわっ……!」


 カラは淡々と言った。


「ユーカリンって、一見いつも冷静沈着に見えるけど、実は結構、心の底で激情が渦巻いているタイプなんだよ。愛情も深いけど、その分、憎悪も激しくなる。キムキムはたぶん気が付いていなかっただろうけど」

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