第10話 穏やかな学園生活
白い世界にいた。これは転生のあれそれを行ったあの白い空間だと思った。
あの時と違うのは、意識はあるけどそこに自分が関与できないということだ。声が出せない。
ああ、夢だと思う。
『あなたはあなたのまま、その世界を生きて。それでいいの。それがいいの……ね、お願い……』
誰だろう?知っている気がする。懐かしいような寂しいようなそんな気持ちで胸がキュッと締め付けられた。
……
「朝……え……」
「え!?ユリウス様!?」
ターニャがカーテンを開けてくれるおかげで、太陽の日差しがちょうどベッドのところまで差し込み、僕はその光によって目を覚ます。
いつもなら「おはようございます」と笑顔での挨拶がくるのだが、今日は困惑の声とともにターニャが僕の顔を覗き込んだ。
「どうかなさいましたか?」
「……わからない。でも懐かしいような寂しいようなそんな夢を見たんだ」
「夢……ですか」
「うん。大丈夫だよ。そんな大したことではなかったんだ。もう覚えてないし」
ターニャがそっと僕の目の下をなぞる。涙の跡があるのだろう。
「何か大切なメッセージを受け取られたのでしたら……」
「大丈夫だよ。本当に、大したことではなかったんだ」
ターニャを安心させて、起き上がり学園に行く準備をする。
この世界では「夢」が前世よりも大きな意味を持つ。
前世で「夢占い」というのがあったが、それがこちらでは「予言」となる。
だから、涙を流すほどの夢を見た僕に何か起こるのではないかと予想したのだ。
実際のところは、前世から転生したあの白い空間にいたということくらいしか覚えていない。何か声が聞こえた気がしたが、それがなんだったのか目が覚めた瞬間、忘れてしまった。
だから「予言」というほどのものではなかったのだ。
だって、特進クラスでの日常は乙女ゲームのヒロイン、攻略対象、悪役令嬢がいるにもかかわらず穏やかで賑やかなものだったのだから。
しかし、そんな日常にも少しの厄介ごとは起こる。
それは普通に生きていればぶつかる小さな小石のような、それでもそれにぶち当たっている時は高い高い壁に見えてしまうというものだ。
ただ、僕にとってヒロインと攻略対象の好感度がどうのとか、それによってヒロインをいじめる流れになったり、僕自身が攻略対象たちから嫌われて、断罪の危機に立ち向かわなければいけないということがなければ、それは小さな厄介ごととして取り組むことができることだった。
本当、悪役令嬢の設定はどこ行ったんだろう?
まあ、いじめるにしてもどうやればいいのかわからないし、最初の出会いで突き放せていないのだからそこから軌道修正も不自然すぎる。
多分、そんなことしたらレオン様や二人の兄に変な魔法をかけられたのではないかと心配されるのは目に見えている。父にまで怪しまれたら、それこそ国をあげて僕に変な魔法をかけた人間を探し出すなんてことになりかねない。
これでいいのだ。ほら、ラノベだったら悪役令嬢が転生して逆ハーレム状態になるの多いから……あ……え?そっちルート!?
そうか、これは悪役令嬢に転生した地球人が断罪回避をしていたら、一級フラグ建築士になって逆ハーレムを作っていくっていうあれか!
ちょっと待って、どこで僕はフラグ立てた?わからないけど、でもよくあるやつ!断罪回避してただけなのにみんなに愛されているの。しかも、それで悪役令嬢はまだ自分が愛されているって気づかずにフラグ折りまくるやつ!
……そっちかぁ……どっかでフラグ立てちゃったのかな?でも、みんないい人だからこのままでみんなが幸せになれたらいいよね。うん、そうだ!
でも、そうなるとBLルート開拓してるってことになる……う〜ん、でも前世では年齢=彼女いない歴でそもそも一人で致すことも作業的だったから……こうして大切にされている感じはこそばゆくて、幸せだからそれでもいいかな?と思ってしまう。
現金かもしれないけど、家族も友人も婚約者もそれがどういう感情かは別として大切で大好きなんだ。だから、BLルートでもまあ、いいかという気持ちになる。僕が下だという未来が明確だったとしてもだ。
そんな中で僕とヒロインであるリリールルーが仲良くなるというのもそういうルートではお馴染みの流れなのだろう。
小さな厄介ごとというのは当然ながらリリールルーのことだった。
オラクル学園は基本的に貴族クラスの子息令嬢が通う学校だ。
平民は市井に寺子屋のような学舎がある。
だから、平民はそこに行くのだが、リリールルーは平民でありながら、滅多に現れない光属性の魔法が使えるというので入学が認められたのだ。
十五年、市井で暮らしていたのだ。貴族のしきたりや作法を知らないのは当然で、入学が決まってから基本は手をつけたというが、やはり一朝一夕で身につくものではない。
元々前世で一般人だった僕は気にしないのだが、貴族の中にはやはり平民を見下すものもいる。
爵位があるのは親であり、君ではないし、平民がいなければ貴族は成り立たない、逆も然りではあり、持ちつ持たれつの関係であるのだが、それがわからない愚か者だということを露呈させているだけなのだけど。
前世では華族制はとっくに廃止された世界だったから、貴族だと威張っている人間が本当に浅はかに見えるのは許して欲しい。僕も今世は貴族だから、プライドがあるのはわかるつもりではいる。
「あら、ごめんなさい。見えなかったわ」
リリールルーとすれ違う時にわざと肩をぶつける。身体強化の魔法でも使ったのだろうか、リリールルーはストっと尻餅をついた。
それを仲間とクスリと笑い合って見つめている姿は、貴族という地位を持つ身としてみっともないとしか言えなかった。
「……君は伯爵家の令嬢かな?」
レオン様がスッとリリールルーを庇うように前に出る。
レオン様の場合は僕と同じ考えというよりも、身分で態度を変える人を嫌悪する。
それは子どもの頃の婚約者選びというご令嬢のすったもんだに大いに原因があるのだが、そもそも学園内は誰もが平等に学べるところなので、それに反するものは学園長である国王の息子しても見過ごせないようなのだ。
「俺がいるからと萎縮されも困るし、俺を優遇されても困るからね。生徒は皆平等に学ぶ機会が与えられなくては、学園の意義が損なわれてしまう」
学園に入学してから、縁故を作ろうとする令息、令嬢の対応に辟易しているといった感じで、僕に膝枕を所望したレオン様がそうため息をついたのを思い出す。
それは僕も同じ立場ではあるのだが、僕の場合はレオン様や兄二人、クロードやハガルもさりげなくガードしてくれている。
「レオンハルト殿下!いえ、私はこのへ……者に貴族の振る舞いを……」
レオン様がどうにかするだろうと、僕はリリールルーに手を差し伸べる。
「大丈夫?」とレオン様の邪魔にならないように小声で聞きながら、リリールルーが頷き、僕の手を取った。
「はぁ、こうなるから……」
レオン様がため息をついて、髪をかきあげる。その姿に黄色い声が普段なら上がるものであるが、流石にこの状況でそれはない。むしろ、絶対零度の視線で令嬢たちを射すくめているのだから、令嬢たちは真っ青になりカタカタと震え出す。
僕もリリールルーもレオン様の威圧感に思わず固まってしまった。
「貴族の振る舞いとはなんだ?平民だと蔑むことか?この国にそのような貴族がいたとは嘆かわしいことだな」
「レオンハルト殿下、その辺で」
諌めたのはイルドだ。従者としていつもそばにいるが、ちょっと目を離したすきにいなくなったりもする。
「レオンハルト殿下!私はそのようなつもりでは……!!」
「ベルン伯爵家のご令嬢ですね。大丈夫ですよ。どのようなつもりかは分かりませんが、あなたがわざとリリールルー嬢にぶつかり、そこの皆様で嘲笑っていたのは、こちらの記録用魔道具にて記録させていただいたので」
イルドがにっこりと微笑んで丸い球体を見せた。それが記録用魔道具。レンズのみで記録可能なビデオカメラのようなものだ。
レオン様はにこりともしない。
「殿下、誤解です!」
慌てたように言い募るご令嬢たちを一瞥して、僕の手を引いてその場から立ち去ろうと歩き出した。
「レオン様!?」
リリールルーを立ち上がらせていた僕は彼女の手を掴んだまま、レオン様に空いた手を取られ、引きずられるように一歩足を踏み出すことになったことに驚いて声を上げた。
それでもレオン様はこちらを一瞥しただけで歩みを止めることはない。
ただし、歩調は僕に合わせてくれていた。だから、怒っているわけではないということはわかるのだが。
「ユリウス……」
人気の少ない中庭にまで来ると、レオン様がクンッと僕を引き寄せた。
突然のことで僕は体勢を崩しレオン様の胸元にポスッと収まってしまう。
リリールルーとの手はスッと離れたのだが、彼女もどうしていいのかわからずその場に止まっているし、イルドももちろんそばにいる。
レオン様の腕が背中に周り、キュッと抱きしめられる。スリッと僕の頭に頬を擦り付けるのはレオン様がちょっとだけ弱っている時の仕草だ。
だから、僕もレオン様の背中に腕を回し、優しくさする。
「ユリウスは俺の婚約者だよな?どこへも行かないでくれよ」
懇願だと思う。僕はどこへも行かないのにとも思うが、何かがレオン様を不安にさせるのだろう。
「当たり前です。レオン様から命令されない限り僕はここにいます」
それは本心であり、本当のことだ。
たとえここから先、レオン様がリリールルーや他の令嬢を選んだとしても、それを僕からはどうこうすることもないし、ずっと僕を望むならそれはそれだ。
「リリールルー嬢……」
イルドがリリールルーに何やら耳打ちをしたようで、リリールルーも頷いたのが視界の端に見えた。
「この度はありがとうございました。失礼いたします」
イルドの耳打ちは下がっていいよという話だったのだろう。深くお辞儀をして、去っていくのがわかった。
「ユリウス……」
もう一度レオン様が腕に力を込めた。
少ししてから腕を緩め、僕を解放した時にはもうレオン様はいつものレオン様に戻っているように見えた。
だから特別気にするようなことでもないんだとその時はさらりと終わらせてしまった。
だって、僕は年齢=彼女いない歴だった男。陰キャでもあったし自分に自信もなかったから恋なんてものもしたことがなかった。
これが、レオン様の「ヤキモチ」だとわかっていたら、あんなこと引き受けなかったのにとちょっと後悔することになるのはもう少し後のこと。
リリールルーは貴族の作法だけでなく、魔法制御も苦手としていた。
勉強家で頑張り屋なのだが、それまで平民としてそういう貴族なら自宅ですでに学び終わっているような基本的な魔法というものの知識もなく、そのため魔法を制御するという概念があまりなかったようだ。
光属性は癒しの属性と言われ、攻撃的な使い方はあまりしない。アンデッド系の魔物には有効なのでそこで使うには攻撃魔法になるのかもしれないけど。
「ユリウス君、ちょっといいかな?」
「はい?」
特進クラスの担任の先生に呼び止められる。珍しいこともあるもんだと思いながらも応じると、先生は申し訳なさ全開でお伺いを立ててきた。
「リリールルー・ランランルー君が平民であるのは知っているだろう?」
「はい」
この時点で少し厄介なことになったなとは思ったが、先生の様子から本当に困っているのだろうということは見てとれたため、断るという選択肢が僕の中から消えてしまっていた。
「彼女、すごく頑張っているんだけどね、その……平民というためかなかなか学園にも馴染めていないんだよね。しかも、魔法の制御も苦手みたいで」
「はぁ……」
恐らく言いあぐねているのはレオン様や兄二人の存在がちらつくからだろう。
それでも僕に頼みたいのは、適任が見当たらないからなのだと思う。
リリールルーにはまだ友達がいない。恐らく攻略対象たちがちゃんと攻略対象としていたらそうはならなかったはずなのに、レオン様も兄二人もそして他の三人も彼女を特別視するようなことは全くない。
「ユリウス君に魔法制御と貴族の作法などをレッスンしてもらえないかなと思って。その……ユリウス君は闇属性を扱えるんだったよね?光属性が暴走しても闇属性なら打ち消せるし、ユリウス君が貴族の作法を教えるなら間違いないと思ったから、頼めないかな?」
断りたい……けど、恐らく本当に頼める人がいないのだろう。
僕は水属性の下位魔法と闇属性の下位魔法が扱える。
闇属性は悪役令嬢らしすぎて秘密にしていたんだけど、婚約披露前のレオン様が忙しさなどで不眠気味になった時にふと使ってみたら、よく眠れたとのことだったのだ。
エルドニス兄さんと調べてみたら、どうやら心地よい闇夜を作り出し、眠気を誘い、寝かせるという「スリープ」のような効果があることがわかった。しかも、ぐっすり眠れるので癒されるらしい。
なんだその使えるようで使えない、社畜の仮眠を充実させますというようなスキルは。
売り文句は「10分で1時間分の睡眠を」みたいな。元社畜……その時に欲しかった……
そういうこともあり、僕は闇属性が扱えると分かっていた。だから、魔法学実践の授業の時にリリールルーの魔法が暴発した時に、咄嗟に闇属性の魔法を解放してリリールルーが放った魔法を打ち消したのだ。それを先生は覚えていたのだろう。
一般的に忌み嫌われやすい闇属性ではあるけど、僕には上記以外の攻撃的な使い方はできない。
打ち消したのも、レオン様を寝かせた方法と同じで、対象を闇属性の魔法で包み込んだだけなのだ。
それでも暴発を打ち消したことには変わりがない。そして、闇属性は光属性よりも扱える人はいない珍しい属性で、光属性の暴走を止めるにはうってつけなのだが、恐らくこの学園には僕以外にいないから僕に白羽の矢が立ったのだ。
「はぁ!?そういうのは教師が自らやるべきなんじゃないのか!?」
「ユリウスの大切な勉強時間を奪うなんて、教師のやることではないね」
兄二人に話をしたら、こんな憤りが返ってきてしまって、逆に困惑した。
そうなるとレオン様に話す前に対策を練った方がいいかもしれないと兄二人を見ながら、他人事のように考えを巡らせるのだった。
「それはユリウスがしなくてはいけないものなのか?」
「私も同意見です」
色々案を練って、レオン様にとりあえず先生から頼まれたという話をすると、兄二人ほどではないけど、否定的な意見が返ってきた。
「アルバス様も否定的だったんだろ?じゃあ、それが正解じゃないか!」
「う〜ん……ユリウス様はどうお考えなのですか?断りたいという雰囲気ではないですよね?」
クロードはいつも通りのアルバス兄さん崇拝者だったが、ハガルはみんなと違う意見だった。
「学園一式セットの時にも思っていたことがあります。確実に彼女は全てにおいてこの学園にくる前段階の素養が足りていないので、多分苦労はすると思っていたのですが、まさかここまでとは……」
「見ている限り、本人は頑張っているのですが、それが空回ってうまくいっていないようですね」
そうなのだ、リリールルーはヒロインらしく頑張り屋でいい子なのだ。しかし、ヒロイン補正で攻略対象の手を借りなければ空回るようにできているようで、今は可哀想なほど孤立していた。
貴族と平民という埋められない溝に加え、光属性という貴重性も手伝って、人柄も見られるため差別を噯にも出さない特進クラスであっても彼女と関わろうとする人はいなかった。
本来はそこを攻略対象たちが積極的に打破していくのだが、現状は僕が関わろうとしても難色を示すという結果だ。
ハガルはわかっていても、若干ひねくれた部分があるので自分から言ってこないなら手を貸さないだろうし、イルドは多分自分から言ってきてもレオン様の命令がない限り手を貸さないだろう。
「……だからこそ、同じクラスだし手を貸したいと思うのですが……魔法が制御できないのは自分も怖いだろうし、わからないことがわからない状態のままで頼ろうにも自分より身分の高い人ばかりで自分から声をかけることはできないだろうし、何より、自分はいらない人間だと自然と受け入れてしまえる環境にいるって苦しいのです」
五歳で前世の記憶が戻る前、僕は小さいながらに自分はセフィロニス家にはいらない人間だと思っていた。モブなのに空気にもなれない、爪弾きものだってダメな子どもなんだと思って、迷惑かけないように小さくなって生きていた。
だから、ちょっと違うかもしれないけど、リリールルーの居た堪れなさはよくわかる。
「ユリウス……」
レオン様も他のみんなも、セフィロニス家が仲良くなった後のことしか知らない。
アルバス兄さんもエルドニス兄さんも父も母もあの時のギクシャクした感じは思い出したくないようで、僕に寂しくないようにあれからは一生懸命に僕を大切にしてくれた。
だから吹っ切って入るけど、レオン様は僕の言葉から何かを感じ取ったようだった。
プレゼンとしてはこういう心を動かすことも大切で、レオン様たちに頷いてもらうために必要な戦略なのだけど、やっぱりあの頃の記憶を振り返るとキュッと胸が寂しさで縮んでしまう。
そして、もしかしたら、この案でリリールルーと攻略対象たちが急接近をして、僕が悪役令嬢として立ち回らされる強制力が働くかもしれないという恐れもある。
何もないかもしれない、どう転ぶかなんてわからないなら、僕は最善を尽くすことにする。
「この学園には自習サロンがいくつかあり、それをグループ単位で貸し出すことも可能だそうです」
レオン様が足を組み替え、しっかりと聞く体制に入ってくれた。それが合図となって、イルドもクロードもハガルも真剣に耳を傾けてくれる。
「そこで特進クラスの一年を中心に補習会としてみんなで学び合える場所にするのはどうだろうかと思ったんです。リリールルー嬢は作法や魔法制御だけでなく友達も作って欲しいと思いますし、レオン様や僕が出入りするとなれば下手なことをする人はいないと思いますし、あとはアルバス兄さんやエルドニス兄さんにも出入りしてもらえたら、人も集まりやすいのではないかな?と思ったのですね。あと、流石に僕はレオン様の婚約者ですが、男女が二人きりで会うというのは変な憶測を生みやすいと思うので、みんなが出入りできるサロンという形を取ろうと思っていますが、それでもダメでしょうか?」
熟考するようにレオン様が目を瞑る。
「もちろん特進クラスの人間が前提で、それに準ずる相応しい人間かどうかはアルバス兄さんやエルドニス兄さんに判断してもらおうと思います。リリールルー嬢の友達作りも兼ねているので、人脈作りの側面もありますが、目に余る場合は出入り禁止の処置も取るなど約束事を決めておきます」
僕だってリリールルーと二人きりになるつもりはない。これがレオン様や他の面々なら二人きりになればいいとも思う。でも、僕はダメだ。乙女ゲームの強制力で僕が彼女をいじめているなんてありもしない話が出てくるかもしれない。
だからこそのサロンの提案なのだ。リリールルーを一人にしない、僕と二人きりにならない、その両方を安全に遂行できる案だ。
「……そうか。それなら他のみんなにもメリットは多そうだ。勉強家のユリウス手ずから教えてもらえるという機会は魅力的だな。うん、私も協力しよう……ユリウスと彼女を二人きりにはさせない。ユリウスは俺の唯一無二の正妻……俺の天使……」
小さく呟くあれそれも気になる気はするがレオン様が賛同してくれればこっちのものだ。
「レオン様が賛同するのならば、私もユリウス様にご協力いたします」
「ああ!オレもアルバス様から学びを得られるのなら協力させていただきます!」
「俺はユリウス様がそう決めたのなら協力しますよ」
イルドもクロードもハガルも賛同してくれたことで、父にも話しやすくなり、父から兄さんたちに話してもらうことができた。
最初は相変わらず難色を示していたけど、自分たちも出入りしていいならということで了承を得られたため、すぐに補習会が開かれることになった。
最初は一年の特進クラスだけだったが、アルバス兄さんやエルドニス兄さんが出入りしているということもあり、二、三年の特進クラスの生徒も出入りするようになった。
リリールルーは本当に頑張り屋で、僕と一緒に魔法制御を覚えながら、貴族の作法についても身に付けていった。
しかし、僕では令嬢ならではの作法まではうろ覚えだったので、それを他の女子生徒に任せたところ、その令嬢が優しい子だったようで、そこから少しずつ友達ができているようだった。
良かった、魔法制御やらなんやらで彼女の手を取らなければならない時のレオン様の視線が鋭くて、リリールルーが萎縮してしまっていたので、友達に任せることができて良かった。
「あまり殿下にやきもち妬かせないでくださいね。あの方、ユリウス様に対して独占欲の塊なので……」
イルドにそう耳打ちされた時も、最後まで話が終わらないうちに、気がつけば僕はレオン様の腕の中にいた。
そういえば、弱っていると感じる時は僕がレオン様以外の誰かと二人きりだったり、手を貸した時だったなと振り返る。あれはどうやら全てやきもちだったようだ。
なんか嬉しいような恥ずかしいような。
そんなことがわかってからは、レオン様がやきもちを妬いた後、僕をしばらく独占する時間ができたのだった。
結果的に補習会は大成功で、学園生活初の定期試験で特進クラスは過去歴代最高の成績を収めることができた。
「あれ?おかしいな?」
異変に気がついたのは試験の結果が出てから数日後のことだった。
「栞がない?」
「ユリウス、ペンを借り……ペン入ってないぞ?」
「本当ですか?レオン様」
「ああ、ほら」
「本当だ……入れておいたはずなのに……」
本に挟んであったはずの栞やペンが紛失するようになったのだ。
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