第8話 幕間的な回想 そして……

 幼少期の怒涛のイベントはこのような感じで終わり、後の攻略対象に出会うことはあったけど、ボクが男で平凡な人間だったからか、近しくなることもなく、あっという間に15歳という学園生活直前まで成長していた。


 学園に入ったら何か変わるのかな?悪役令嬢って……前世では陰キャだったけど、いじめられるわけでもなく、のんびり陰キャを極めていたわけで…悪役令嬢のやり方わかんないけど?!


 確か、「世界観の強制力」だっけ?そういうのが働くらしいから、ヒロインが出てきたら何か起きるんだろうな。


 う〜ん、婚約解消はありがたいのだけど、打首獄門とかは嫌だなぁ。せいぜい爵位剥奪の平民降格、国外追放?ならいいかな?


 男性妊娠が可能な世界ということも知ってしまったので、ちょっとどころかかなりヒロインの出方を伺いたい所存。鼻からスイカを生み出す痛みって……確か、男性には耐えられない痛みとかなんとかで、男のボクは遠慮したい気持ちでいっぱいなのです。


 ちなみに何度も婚約を考え直そうと言い続けたけど、その度にニコニコとスルーされた結果、15歳のぼくの誕生日に婚約の儀が盛大に行われた。レオン様は喜色満面で、父はやり切った表情で、兄二人はなんとも複雑な表情をしていたのが印象的だった。


 流石にこんなボクでもレオン様にも家族にも大切にされているのはわかるから、その…結婚とかがなければ嬉しいんだけどね。


 そして、学園生活が始まると準備していたところで、兄二人が嬉しそうに部屋に入ってきた。


「ユリウス!」

「ああ!万事上手くいくものなのだね」

「どうしたの?兄様たち」

 騎士として学園を卒業してから王宮の騎士団に所属しているアルバス兄様と同じく魔術団に所属しているエルドニス兄様。

 成長して一層美貌に磨きがかかり、精悍さも増して、本ばかり読んでいたボクとは比べてはいけないと思える程に美しく逞しく煌びやかになっている兄たちが、ボクを抱きしめてきた。


「この春から、私たちも一緒に学園に通えるようになったよ」

 一人称が「オレ」からミステリアスで中性的な雰囲気にぴったりな「私」に変わったエルドニス兄様が不思議なことを言った。

 アルバス兄様は剣術と勉学を最優秀の成績で、エルドニス兄様はその次の年に魔術と勉学を最優秀の成績で卒業している。ちなみにアルバス兄様は魔術は学年2位で、エルドニス兄様は剣術が2位という、チートレベルの成績を残している。

 疑問符が頭を巡っているボクは、二人の顔を見比べるしかできないでいた。


「オレは剣術、エルドニスは魔術の特別講師として学園に勤めることになったんだよ」

「今年は王子殿下もいらっしゃるし、他にも剣術、魔術ともに期待の生徒が入ってくるようだからね。手厚く学べるようにと国王からのお言葉があってね。それにアルバスとエルドニスはピッタリだろうと思ったから、お願いしたんだ」

 兄二人にぎゅうぎゅうと抱きしめられるボクに父が微笑んで言った。

 あ、それっていわゆる職権濫用ですね。

「私たちは学園をトップで卒業した上、宰相の息子であるし学園側も講師として招くのに問題はないだろうからね」

「二つ返事で受けたよ」

 そう言われてはぐうの音も出ない。


 なんとなく、これで兄二人も「年上」「教師」というカテゴリーで攻略対象に入っていたのかと腑に落ちた。


 これまでで攻略対象だと思われる人物は6人。

 レオン様は当然、学園に通うという兄二人もそうだろう。それから、レオン様の同い年の従者イルドも見目の整ったちょっと影のあるイケメンなのだ。物腰たおやかな優男の雰囲気。

 そして、兄二人、特にアルバス兄様を敬愛する騎士団長の息子クロード。最後がうちに出入りする大商人の息子ハガル。どちらもボクと同い年でちょっと癖がありそうだけど、イケメンには違いない人物。


 そして、ボクが悪役令嬢ポジなんだけど……役者不足じゃないかな?と思う。

 全員が揃ったところは見たことがないけど、それぞれがそれぞれにキラキラした何かを撒き散らし、風がないところで、魔法を使うわけでもなく風が髪を揺らす。

 悪役令嬢ポジなら、それに匹敵するくらいの強烈な何かを持っていなくてはいけないんじゃないかな?と、もしそうなら破滅の道まっしぐらなんだろうけど、逆にボクですみませんという申し訳なさがある。


 ちなみに、大きくなってきた時に一人称を前世と同じ「オレ」に変えようとしたら、全員に全力で止められました。

 特に父がさめざめと涙しているのを見て、慌てて「ボク」に戻したのはいい思い出だ。

 兄二人もレオン様も目を見開いたまま時が止まっていたからね。

 

 結局、ボクは15歳になって学園に無事に入学したけれども、どんな乙女ゲームが始まるかもわからないまま、悪役令嬢という分不相応な役割を背負った状態でここに至っている。


 クラスに着いて、簡単な自己紹介しているけど、多分あれがヒロインだよ。

 だって、光属性の魔法を使うって言っているし。


 でもさ、「リリールルー・ランランルー」ってラ行多くない!?

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