それは呪いの言葉
西條 迷
一
「死なないでね」
そう言って私は隣で呆然と立ち尽くす友人に寄りそった。
しかし友人の瞳がこちらに向くことはなく、彼女はただ、静かに目の前に置かれた棺桶を見つめていた。
「どうして?」
ぽつりと友人の口から言葉が漏れる。細々とした声で、表情は困惑気味だ。
「
棺桶の中で眠っている少女の名は
その芽衣の母親が友人――美樹に優しく声をかける。
「う、うぁあ」
芽衣の母親にそっと背中を撫でられ、瞳から大粒の涙が流がしながら美樹は棺桶に縋りついた。
「かわいそうにね……あのふたり、仲が良かったものね」
「休み時間も一緒にいたもの」
芽衣の葬式の参加者たちが泣きじゃくる美樹の姿を見て、同情の眼差しを向ける。
今回亡くなった芽衣と美樹はいつも一緒だった。
小中高と同じ学校で、クラスも同じ、昼休みやトイレに行くときですらいつも一緒に行動していた。
美樹はそんな大切な友人をある日突然に亡くして、芽衣の両親たちよりも長い時間泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けて。いつまでも棺桶から離れない美樹をスタッフが優しく引き剥がして、棺桶は火葬場へと移動を開始した。
「どうして……私、どうしたらいいの?」
「大丈夫よ、美樹ちゃん。あなたは私の娘とずっと一緒にいてくれた。私はあなたに感謝してるの。うちの子は人見知りで友人が少なかったから、きっと天国の芽衣もあなたには感謝している。だから芽衣がいなくなっても、ううん、芽衣の分まで幸せに生きてね」
いまだに嗚咽が止まらない美樹に芽衣の母親が寄り添って励ましの言葉を送る。それでも美樹の表情が晴れることはなく、火葬場に向かう車の中で、ずっと俯いていた。
「美樹ちゃん、ずっと一緒だったからって死ぬときまで一緒じゃだめだよ?」
私の言葉は聞こえていないのだろう。美樹は表情を歪めて、手で顔を覆って唸り声を上げた。
「美樹ちゃん……」
「今はそっとしといてあげな」
美樹を見つめ、心配そうな声を漏らす芽衣の母親に、車を運転していた芽衣の父親がそう言葉をかけた。
きっと今の美樹には誰の言葉も届くことはないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます