死刑執行人少女 ~女子高生ひとりに負け殺された12人の男たち~

E.C.ユーキ

死刑執行人少女 ~女子高生ひとりに負け殺された12人の男たち~

 日差ひざしもかたむいてきた裏通うらどおりに、女子高生じょしこうせいった。

 ひと子一人こひとりいない晩秋ばんしゅうのシャッターがいて、はい倉庫そうこ引戸ひきどしき大門だいもんびきり、ひと一人ひとりぶんほどいたままの隙間すきまから、くろかみがなびくこんブレザーの少女しょうじょはいっていく。はい倉庫そうこない、ほこりをかぶった機械きかいならなかじとあるきながら、たったひとりの少女しょうじょしずかにくちひらいた。

「あのう……ここに、こまっているおばあさんがいらっしゃるのですか?」

 ――少女しょうじょおとこたちにれられていた。

 まえ一人ひとりうしろに二人ふたり金髪きんぱつやら茶髪ちゃぱつやらのチャラチャラとした3にんわかおとこたちは、少女しょうじょいに『まぁまぁ』とやんわり返答へんとうしながら、おくおくへとあしすすめる。おとこ3にん女子高生じょしこうせいひとり、4にん少女しょうじょなにかえせないままあるいているうちに、いよいよ目的もくてき到着とうちゃくした。

 はい倉庫そうこ最奥さいおうはいるなり、少女しょうじょはきょとんとおどろいた。

「え……?」



 少女しょうじょ出迎でむかえたのは――ダブルベッドだった。



 はい倉庫そうこおく一角いっかく、わりかしととのえられた空間くうかん中央ちゅうおうには、ばんだしろのダブルベッドがかれていた。そして、あちこちに山積やまづみの廃棄はいき荷物にもつかげからは――ひとり、またひとりと、非行者ひこうしゃぜんとしたおとこたちが次々つぎつぎあらわれる。わらわらとあつまってくるおとこたち、少女しょうじょしきりにあたりを見回みまわすが、《こまっているおばあさん》などどこにもいないのは明白めいはくだった。

 がつけば少女しょうじょは――12にんおとこたちにかこまれていた。

「そんな……。わたしをだましたのですか……?」

 こえふるわす少女しょうじょかたに、うしろからおとこが、にたりとばす。

「きゃっ! さわらないで!」

 かぼそ悲鳴ひめい子犬こいぬのようにをひねってはら少女しょうじょに、おとこたちの下劣げれつ歓声かんせいがった。少女しょうじょはもう一度いちどベッドをると、まわりには一眼いちがんレフカメラに三脚さんきゃくきのスマートフォン、レフばんなどがならんでいることにがついた。

 少女しょうじょは、ようやく理解りかいした。

わたしの……身体からだ目的もくてきだったのですね……」

 せせらわらおとこたちのなかで、うつむき、ただくすばかりの少女しょうじょ身体からだを、ぎとぎとした視線しせんまわす。



 ――女子高生じょしこうせいの、ぷりぷりの女体にょたいを、視姦しかんする。



 あどけない顔立かおだち、サラサラとながれたくろながつやかみ

 名門校めいもんこう校章こうしょうひかる、小皺こじわひとつない紺色こんいろブレザー。

 角襟かくえりしろブラウスはしっかり第一だいいちボタンまでめて。

 大房おおふさなリボンがむねかざり、そのしたでは――

 ――ふっくらと、メロンだいふたつを制服せいふくおおかくす。

 赤茶あかちゃチェックのスカートは、膝上ひざうえ10㎝のややミニたけ

 そのなかから、生脚なまあしのふとももをむっちりとのぞかせて。

 ふくらはぎは、紺色こんいろのハイソックスが、ぴっちりと。

 ちいさなあしには、つやびか黒革くろかわのローファーをいて。

 おなじく黒革くろかわのスクールバッグを、片肘かたひじみやびけて。



 ――青春せいしゅん憧憬しょうけいはかなげに一輪花いちりんかのような女子高生じょしこうせい。それをおとこたちはってたかって包囲ほういして、ねっとりと、隅々すみずみまでなぶる。四方八方しほうはっぽうからの下劣げれつ視線しせんかこまれるなかで、少女しょうじょはただくすばかりだった。うつむき、胸元むなもとえられたにぎられ、小刻こきざみにふるえていた。

 しかし、少女しょうじょふるえるかたへと、一人ひとりおとこばした瞬間しゅんかんだった。

 《一本背負投いっぽんぜおいなげ》。――少女しょうじょが、おとこげたのだ。

 見事みごと早技はやわざだった。少女しょうじょはバッグをはなすと同時どうじおとこ片腕かたうでをとり、おとこふところからはいむと、赤茶あかちゃチェックのスカートのおしりをぷりっとし、背負せおかせた。おとこのもがく両足りょうあしたからかにてん通過つうかしていき、そのままコンクリートのゆかにビタンと背中せなかからたたきつけられ、さらにはおとこむね少女しょうじょたおんでて、おとこ少女しょうじょゆかにサンドイッチにされた。

 おもわぬ余興よきょう開幕かいまくに、倉庫そうこない悪辣あくらつ歓声かんせいつ。女子高生じょしこうせいにくるりと背負せおげられたおとこは、いまなお少女しょうじょ上体じょうたい下敷したじきにされたまま、はい空気くうきをすべてうしなったみじんこのようなむせこえげている。自分じぶんよりも身体からだちいさな少女しょうじょにまんまと醜態しゅうたいさらされたおろものに、まわりのおとこたちはたたいて嘲笑ちょうしょう歓声かんせいおくった。

 歓声かんせいなか突如とつじょ――にぶおとがひとつ、不気味ぶきみひびく。

 一転いってんしてはい倉庫そうこないしずまりかえった。れない不審ふしんおん一同いちどう視線しせんは、うえかぶさった少女しょうじょ下敷したじきのおとこへとあつまる。少女しょうじょなんなくがったが、おとこ仰向あおむけにたおれたままがらない。むせごえまった。不穏ふおん空気くうきただよなか一同いちどうおとこ凝視ぎょうしした。



 ――おとこくびが、真後まうしろにまでがっている。



 がりない角度かくどまでくびがった状態じょうたいで、おとこ仰向あおむけにたおれていた。――少女しょうじょ仕業しわざだ。一本背負投いっぽんぜおいなげかたち二人ふたりごとたおんだあと歓声かんせいがったと同時どうじに、少女しょうじょながれるようにおとこあたま小脇こわきかかみ、一瞬いっしゅん体重たいじゅうをかけてったのだ。

 くびられたおとこは、見開みひらき、手足てあし痙攣けいれんさせ、あわき、しりしたにみずたまりをひろげながら、だんだんとうごかなくなっていき――ついに、ことれた。それを少女しょうじょったまま、あわれむような表情ひょうじょう見下みおろしていた。

 まわりのおとこたちは、一斉いっせい身構みがまえた。

 一気いっきはい倉庫そうこない緊迫きんぱくする。おとこたち12にん一人ひとりがやられて完全かんぜん戦闘せんとう態勢たいせいの11にんが、仲間なかまかたき包囲ほういする。めた空気くうき一帯いったい沈黙ちんもくやぶったのは少女しょうじょだった。猛烈もうれつ敵意てきいかこわれるなか少女しょうじょかおをうつむけたまま、かなしい表情ひょうじょうでつぶやいた。

ほかおんなたちのためにも、やむをません……」

 少女しょうじょかおげると、かわいらしいかお凛々りりしくめ、真摯しんし眼差まなざしでおとこたちを見据みすえる。そして、やわらかなこえで、しかしどこまでもつめたい声色こわいろで、少女しょうじょおとこたちにはなった。




「あなたたちを――断罪だんざいします」




 女子高生じょしこうせいひとりと、おとこ12人組にんぐみとの戦闘せんとうはじまった。

 斜陽しゃようはい倉庫そうこ鈍色にびいろ戦場せんじょう支配しはいしたのは――女子高生じょしこうせいだった。

 《女子高生じょしこうせいのハイキック乱舞らんぶ》。次々つぎつぎおそいかかってくるおとこたちを、少女しょうじょみずからのあしたかげて、まわし、ばし、かえす。ときには片足かたあし完全かんぜん真上まうえまでげて、両脚りょうあし縦一本たていっぽんⅠ字あいじえがくほどの自在じざいあしさばきをせ、縦横無尽じゅうおうむじん戦場せんじょうおどる。

 おとこたちは少女しょうじょめられない。つづざまおとこたちのこぶしは、少女しょうじょにひらりとをひねってかわされ、一発いっぱつたらない。それどころか、おかえしのりで――むちのようにスナップのいたハイキックで、次々つぎつぎおとこたちははなつぶされる。

 強烈きょうれつなハイキックだ。赤茶あかちゃチェックのスカートのなかからげられる、肉付にくづきたっぷりのふともも、そのおもみを存分ぞんぶんせたりは、だいおとこをもとんぼがえりにばす。スクールローファーがもろに側頭そくとうはいったときには、きたげた身体からだおとこですら千鳥足ちどりあしによろけさせる。そうしておとこあたまがったところを、少女しょうじょ細腕ほそうででしなやかにめて――

 ――ブレザーの小脇こわきのギロチンで、処刑しょけいする。

 《女子高生じょしこうせいによる死刑しけい執行しっこう》。ハイキックにつぶされたおとこを、少女しょうじょたがいの身体からだ対面たいめんしたまま、おとこがった後頭部こうとうぶ片脇かたわきしたはさみ、両腕りょううでをハイエルボーギロチンのかたちげる。はさんだほううでいたでつかみ、手首てくびおとこ顎下あごした圧迫あっぱくしながら、ひじたかげるようにしてギロチンをむのだ。

 少女しょうじょのギロチンにはめられてしまったら、もうせない。少女しょうじょ手首てくび顎下あごしたみ、あわあわともだえることしかできないおとこを、少女しょうじょ躊躇ちゅうちょなくうわひじげて――くびる。少女しょうじょ細腕ほそうでであっても、てこをかせればなんてことはない。おとこふとましいくびが、まるで小枝こえだのようにれてしまった。

 当然とうぜんほかおとこたちは間髪かんぱつれずになぐりかかった。しかし少女しょうじょのあまりもの手際てぎわ執行しっこうに、わなかった。ぎゃくに、つぎくびられるだけだった。

 少女しょうじょ足元あしもとには、はじめの一人ひとりほかに、はやくも追加ついか二人ふたりころがった。

 おとこ3にん死体したい足元あしもとに、少女しょうじょ毅然きぜんはなつ。

「さあ、つぎはどなたですか?」

 おとこたちの攻撃こうげきまっていた。包囲ほういするおとこたちはみな、ますます身構みがまえるばかりで、うごかなくなっていた。

 膠着こうちゃく状態じょうたいなかおとこたちは仲間なかま同士どうし視線しせんおくうと、ようやく行動こうどううつした。4にんおとこあゆて、少女しょうじょ四方しほうふさむ。その様子ようす少女しょうじょは、はぁ、とひとつためいきをついた。

一人ひとりではかないませんか? いいですよ。まとめていらっしゃい」

 ――少女しょうじょいきおいはまらない。

 4たい1、数的すうてき不利ふりなどものともせず、少女しょうじょおとこたちを翻弄ほんろうする。同時どうじ攻撃こうげき仕掛しかけようとするおとこたちにたいして、少女しょうじょはそのうちの一人ひとりへと距離きょりめて、かならず1たい1の状況じょうきょうつくるのだ。左右さゆうあし存分ぞんぶんまわしては、うでをとって一本背負投いっぽんぜおいなげと、おとこたちは次々つぎつぎかえちにされる。そして一瞬いっしゅんでもおとこたちが攻撃こうげき途切とぎれさせたら――手近てぢかものからギロチンにしょされる。4にん同時どうじおそいかかっても、少女しょうじょゆびひとつれられなかった。

 4にんおとこは、またた全滅ぜんめつさせられてしまった。

 4にんのうち3にんがギロチンにしょされ、最後さいご一人ひとりもハイキックをもろに顔面がんめんらい、意識朦朧いしきもうろうひざからくずちる。しかし身体からだたおれずにんだ。



 ――少女しょうじょが、おとこ前髪まえがみをつかんだからだ。



 少女しょうじょ包囲ほういするおとこたちにけて、ちいさなかみにぎられた仲間なかま姿すがたが、まじまじとせつけられる。はなつぶれてがり、ながし、焦点しょうてんっておらず、かみにぎった少女しょうじょうごきにわせて、こえにならないうめきこえげるばかりである。少女しょうじょたてにされる仲間なかままえにして、のこりのおとこたちはかたまってしまった。少女しょうじょはそんなおとこたちにかって、むねり、淡々たんたんいかける。

「どうしたのですか? おんなひとりが、こわいのですか?」

 おとこたちは、ぎしりをするばかりでうごかない。そうこうしているうちも、少女しょうじょらえたおとこかみをきゅっとにぎめ、っぱりまわしてたてにし、全方位ぜんほうい警戒けいかいする。仲間なかまだらけのかおが、自分じぶんたちの未来みらいとばかりにせつけられるなかおとこたちはたがいに合図あいずおくい、やっとのことで行動こうどうた。

 おとこたちは一斉いっせいに――少女しょうじょけ、はしした。

 少女しょうじょらわれた仲間なかま見捨みすて、個々人ここじん一目散いちもくさん別々べつべつ裏口うらぐちへとかう。そんなおとこたちをながら、少女しょうじょはまたひとつ、ためいきをついた。そして、右手みぎてはくびれたこし悠々ゆうゆうこうをあてて、左手ひだりて意識朦朧いしきもうろうおとこかみ一段いちだんたかくにつかみげる。

 猫背ねこぜけてはしおとこたちに、少女しょうじょ朗々ろうろうはなった。



げるのですか? おとこひとが? たったひとりのおんな相手あいてに? ――そうですよね。そうやってこれまできてこられたのですものね。けそうになったらげて、失敗しっぱいしそうになったらげて。いやなことからもげて、社会しゃかいからもげて。げてげて、つづけて人生じんせいですものね。――あなたたち、おとこでしょう? おちんちんついているのでしょう? たまには根性こんじょうせたらいかがですか? 今度こんどおんなからもげるのですか? すこつよそうだとおもったらげるのですか? どうやらおおきいのは身体からだだけのようですね。――いいですよ。おげなさい。いぬさん。いぬならいぬらしく、きゃんとないてごらんなさいな。たったひとりのおんな相手あいてに、こんなにおおきな身体からだ男性だんせい何人なんにんってたかって、なのにかんたんにかえちにされて。そのうえしっぽをいてげるなんて……あなたたち、いったいなにならできるの? おんなにすらかされてげたあなたたちを、いったいだれ必要ひつようとするの? いまわたしからはびたところで、このことを綺麗きれいさっぱりわすれられるのですか? おもはあなたたちを、どこまでもいかけまわすのですよ? それでもいいというのなら、どうぞおげなさい。だれにもえないまま、なにせないまま、今日きょう出来事できごと一生いっしょうやみながら、社会しゃかいすみっこでつづけなさい」



 逃走とうそうするおとこたちは、みなあしめていた。

 少女しょうじょりんとした論説ろんぜつは、はい倉庫そうこないだけにとどまらず、おとこたちのしんにまでひびわたった。

 せてした5にんおとこたちがみな少女しょうじょまわりへと、あふ闘志とうしげてもどっていく。少女しょうじょかみつかまれていたおとこも、ようやく意識いしきもどりはじめる。少女しょうじょにぎこぶしを、気迫きはくみずかかみいてりほどき、戦線せんせん復帰ふっきした。

 12にんいたおとこたちは、すで半数はんすうの6にんとなった。6にん死体したいころがるなかに、ひとり少女しょうじょ、さらにそのまわりを6にんおとこたちが、ふたた完全かんぜん包囲ほういした。



 ――女子高生じょしこうせいの、はならかな独壇場どくだんじょうはじまる。



 はい倉庫そうこ灰色はいいろにふわりといた、少女しょうじょ一輪花いちりんかこんブレザーの女子高生じょしこうせいが、げて、あしげて、縦横無尽じゅうおうむじん躍動やくどうする。バレリーナのようにくるくるとまわっては、赤茶あかちゃチェックのスカートのひだを目一杯めいっぱいひろげて。ちいさな両手りょうてでたおたおとバランスをっては、くろなが御髪みぐしをサラサラとおどらせて。ひらひらと。ゆらゆらと。少女しょうじょながれるようにおどりながら――

 ――おとこたちを、なぶる。

 むちむちのふとももからされる、強烈きょうれつりの数々かずかずが、おとこたちを蹂躙じゅうりんする。たっぷりと贅肉ぜいにくったふとももが、スクールローファーのりにおもみをあたえ、おとこたちをとんぼがえりにばす。

 おとこたちの攻撃こうげきは、まったく少女しょうじょたらない。さきの6にん以上いじょう大振おおぶりで力任ちからまかせなこぶしは、ひらりひらりと少女しょうじょにかわされ、ぎゃくりのフルコースをわれる。

 ――たちまち少女しょうじょに、サンドバッグにされる。

 少女しょうじょ多彩たさいり、そのすべてがおとこ身体からだへクリーンヒットする。必死ひっしにガードをかためても意味いみがない。あたまへ、脇腹わきばらへ、あしへ、あごへ――少女しょうじょりは変幻へんげん自在じざいだ。おとこたちをもてあそぶように軌道きどうえて、いとも簡単かんたんにガードをすりける。あしるがせ、五臓ごぞうさぶり、のうるがし、なおも少女しょうじょ生脚なまあしなぶつづける。まるでサンドバッグへけるような、ズドン、ズドンと打撃だげきおんつづけにひびく。むちのようにしなるりの、はならかなあらし、それを全身ぜんしんをもって堪能たんのうさせられる。そしていよいよめくくりには――

 ――ぷりぷりのちちのとなりへ、ギロチンだいへとはめまれる。

 少女しょうじょまえまるくしたら最後さいごがった頭部とうぶをブレザーの小脇こわきかかまれる。当然とうぜんおとこ物狂ものぐるいであばれるが、ギロチンだいにはめまれてしまってからではもうおそい。うでっぷしに自信じしんのあるおとこであっても、りのフルコースを堪能たんのうさせられたあとでは、赤子あかご同然どうぜんである。五臓六腑ごぞうろっぷまれ、くび関節かんせつまでめられたら、もううごけない。少女しょうじょ細腕ほそうでなのにりほどけない。さらには、ほおてられたブレザーしのむねが、メロンだい乳房ちぶさまでもが、むにっと変形へんけいし、頭部とうぶ隙間すきまなくホールドしてくる。そして――

 ほおちち圧迫あっぱくされたまま、けい執行しっこうされるのだ。

 あわあわともがくばかりのおとこくびが、少女しょうじょ細腕ほそうで乳房ちぶさによって、がらない方向ほうこう無理矢理むりやりげられる。するとおとこは、四肢しし感覚かんかく途絶とだえるのはもちろん、呼吸こきゅうすらもできなくなって、だんだんと意識いしきとおのいていく。やがてコンクリートのつめたいゆか糞尿ふんにょうをまきらしながら、ほおのこったやわらかなぬくもりをこいしがりつつ――ながねむりにつかされる。

 それでもおとこたちは、少女しょうじょかう。

 られても、げられても、あきらめない。はなつぶされても、うえあおコブをつくられても、がる。うでほねられても、まえ仲間なかまくびられても、かいつづける。

 当初とうしょ目的もくてきなどどうでもいい。これまでにつちかってきたおとこたちのしんを、おとこおとこであるための最後さいごとりでを、この少女しょうじょみにじったのだ。そしていまなお、飄々ひょうひょうみにじりつづけているのだ。そんなおんなを、めすを、このままにしてはおけない。おとこたちは、おとこてきに、共通きょうつうてきかう。しかし――

 また一人ひとり、また一人ひとりと、おとこたちは少女しょうじょころされていく。



 ――ぷりぷりと、女肉にょにくに、なぶごろされていく。



 鈍色にびいろはい倉庫そうこひろげられる、女肉にょにくおどる殺戮さつりくげき。バチン、バチンと強打きょうだおんひびかせながら、少女しょうじょおとこたちをあしりにし、サンドバッグにする。くろびかるスクールローファーをあたまうえにまでげて、赤茶あかちゃチェックのスカートのすそをめくれがらせて、二本にほんあしをぶるんぶるんと大振おおぶりにまわす。しろはだのふともも、まるみをびた輪郭りんかく滋養じようたっぷりに肉付にくづいた少女しょうじょ生脚なまあし。それでむちのようにスナップのいたりをすものだから、一打いちだたびに――ぷりんぷりんと、ふともものにくなみつ。

 女肉にょにくはふとももだけではない。首元くびもとあかリボンのしたでは、こんブレザーをはちらんとばかりに――メロンだい乳房ちぶさ、ふたつの肉玉にくだまあばまわる。厚手あつでのブレザーであってもかくれない、乳房ちぶさのわんぱく。ふたつはそれぞれが独立どくりつあばまわって、ブレザーのめられたまえボタンふたつがびかねない。たぷん、たぷんと重量感じゅうりょうかんのある躍動やくどうに、少女しょうじょのかぼそどうられて、ぎゃくまわされていた。

 なのに少女しょうじょは、体勢たいせいくずさない。あばまわちちうごきをたくみにながしながら、いっそうながされながら、むちのようにしなるりでおとこたちをなぶる。ぷりぷりと、ぷりぷりと。ちちがふとももが躍動やくどうめない。女肉にょにく唯一ゆいいつ大人おとなしくなるのは――ギロチン執行しっこうのときだけだった。

 6にん、7にん、8にんが、少女しょうじょ細腕ほそうでつかまり、くびられる。9にんが、10にんが、ブレザーの小脇こわきのギロチンだいに、えていく。そして11にんも、少女しょうじょ散々さんざんにサンドバッグにされて、少女しょうじょちちわきあたまはさまれ、言葉ことばにならないわめごえげながら――少女しょうじょ細腕ほそうでひねげられた。

 ――のこおとこ一人ひとりのみだ。

 勝敗しょうはいはすでにけっしていた。たった一人ひとりだけのこったおとこは、11にん仲間なかま最期さいごたりにした結果けっかあしふるえてまらず、てなくなってしまったのだ。

 そんなおとこのもとに――スクールローファーがゆっくりと、コツン、コツンとせまる。おとこしりもちをついたまま後退あとずさるも、たちまち背中せなかかべった。L字えるじかどすみ絶体絶命ぜったいぜつめいだ。

 おとこは、少女しょうじょ懇願こんがんした。

 L字えるじかどすみ子犬こいぬのようにちぢこまりながら、せま女子高生じょしこうせいゆるしをうた。『すまなかった』『もう二としない』『ゆるしてくれ』……。おもいつく言葉ことば手当てあたり次第しだいならべて、懇願こんがんした。

 すると少女しょうじょは、さとすかのようにおとこたずねた。

「あなたたちは、おんなにそうわれたとき、れてきたのですか?」

 おとこは、なにえなかった。



 女子高生じょしこうせい足元あしもとに、おとこが――ひれす。



 じゅう二十にじゅうとしはなれた少女しょうじょまえで、すなぼこりのゆかひたいをつけて懇願こんがんする。『おねがいだ』『たすけてくれ』……。こえ身体からだふるわせて、なみだながし、こころそこからふるがりながら、土下座どげざして少女しょうじょゆるしをう。するとてんからこえがかかった。

 少女しょうじょこえは、おだやかだった。

「もういいですよ。かおげてください」

 おもいがけないやさしい声色こわいろ返答へんとうに、おとこおそおそかおげた。

 ――少女しょうじょは、I字あいじバランスの姿勢しせいをとっていた。

 片足かたあし完全かんぜんあたまうえまでげて、180開脚かいきゃく、きれいな一本いっぽん垂直すいちょくせん両脚りょうあしえがきながら、少女しょうじょおとこ一歩いっぽすぐまえっていた。あまりにも唐突とうとつぎるI字あいじバランス、これがいったいなに意味いみするのか、おとこには皆目かいもく見当けんとうがつかない。しかし、そんなことはどうでもよい。おとこ視線しせんすでに、釘付くぎづけだった。

 ――しろ、ぷりぷりなふとももに。

 上下じょうげ開脚かいきゃくした少女しょうじょあしは、当然とうぜんスカートをめくれがらせ、ふとももが全貌ぜんぼうをさらけしていた。色白いろじろにくがたっぷりとみのった、筋肉質きんにくしつ一切いっさいかんじない、やわらかなふともも。贅肉ぜいにくたっぷりな少女しょうじょのふとももに、おとこ視線しせんまらない。まるみをびたももにく輪郭りんかく内股うちまたがったすじのライン、まえからえるぷりんとしたおしり……。

 そして、上下じょうげびたふとももの赤茶あかちゃチェックのスカートのかげなかにある、純白じゅんぱく三角さんかく――そこへ視線しせんいた瞬間しゅんかんだった。

 よこがわけるスクールローファーが、くるりと90まわり、かかとをこちらへとくろびからせた。まるで――みねからへ、かたなかえすかのように。

 12にんおとこに、少女しょうじょ審判しんぱんくだる。

 さばきの鉄槌てっつい黒革くろかわのスクールローファーがろされ――おとこ脳天のうてんへと、かかと直撃ちょくげきした。おとこ全身ぜんしん筋肉きんにく硬直こうちょくし、少女しょうじょまえひざまずいたまま、ビクン、ビクンと痙攣けいれんすること数秒すうびょう、やがてまえのめりにたおれていく。コンクリートのゆか顔面がんめんせまなかおとこ視界しかいくらになった。

 たおれたおとこ違和感いわかんおぼえた。かおにぶつかった感触かんしょくが、コンクリートのゆかなどではなく、むにっとやわらかく、ほんのりとあたたかかったのだ。においも酸味さんみ甘味あまみ苦味にがみ色々いろいろざった不思議ふしぎかおりにつつまれる。そしておとこいた。

 ――少女しょうじょわきに、ギロチンだいにはめられていることに。

 おとこにできることは、もうなにもない。身体からだどころか、くちすらもまともにうごかせず、ただわめくことしかできなかった。言葉ことばにならない言葉ことばわめいているうちに、おとこ顎下あごしたに、少女しょうじょ手首てくびまれる。こんブレザーしの少女しょうじょ乳房ちぶさが、おとこあたまをホールドする。――もう、そのときたのだ。身体からだうごかない。なにもできない。あとはもう、あるがままを享受きょうじゅしているしかなかった。

 少女しょうじょうでむギロチンのなかで、おとこはあるがままを――少女しょうじょにおいを享受きょうじゅする。こんブレザーにみたクリーニングざい少女しょうじょはだからにじみあせくろながつやかみからただようシャンプーのはなやぎ……。それらがざりった、年頃としごろ女子高生じょしこうせいにおいにつつまれるなかで――

 最後さいごに、少女しょうじょのやさしいこえいた。




 「――おやすみなさい」




 女子高生じょしこうせいひとりと、おとこ12にんとの戦闘せんとう決着けっちゃくした。

 おとこたち12にんは、女子高生じょしこうせいひとりを相手あいてに、全滅ぜんめつした。

 おとこ12にん全員ぜんいんが、少女しょうじょのギロチンによって、断罪だんざいされた。



 はい倉庫そうこ夕日ゆうひげる。

 12にん物言ものいわないおとこたちがころがるなかで、少女しょうじょだしなみをととのはじめた。

 まずは黒革くろかわのスクールバッグをけると――しろレースのハンカチをした。それをみずからのかおまわりにぽんぽんとあてがって、っすらとにじんだあせをふきっていく。つづけてぬのめん裏返うらがえすと、かえなどまったくついていないみずからのを、ゆび一本いっぽん一本いっぽんまでもきれいにぬぐった。そうして使つかえたハンカチは、12にん死体したいかおうえへと、ひらひらととしててられた。

 つぎにバッグからコンパクトミラーをし、前髪まえがみをなぞり、よこかみみみにかけ、胸元むなもとあかいリボンをなおす。あちこちに小首こくびかしげながら仕上しあげを確認かくにんすると、さわやかに微笑ほほえみ、コンパクトをぱたんとじた。

 最後さいごにスマートフォンをえにして、通話つうわする。しとやかな声色こわいろで「12にん、いつものおねがいします」とだけって通話つうわえると、ひとつかるびをして、やって方向ほうこうへとあるはじめた。



 ――女子高生じょしこうせいが、戦場せんじょうる。



 死屍しし累々るいるいはい倉庫そうこ、たったひとりだけの生存者せいぞんしゃである少女しょうじょが、悠々ゆうゆう日常にちじょうへとかえっていく。黒革くろかわのスクールバッグを片肘かたひじにかけて、物言ものいわないおとこたちのなかを、スマートフォンをいじりながらあるけていく。びきった大門だいもんから夕日ゆうひが、帰路きろにつく女子高生じょしこうせい燦々さんさんらしていた。

 少女しょうじょ出口でぐちへとあるきながら、今度こんど長電話ながでんわはじめた。

 その声色こわいろは――さきほどまでとはまったくちがうものだった。



「ママ、いまからかえるね。ママいていて。今日きょうは12にん、ご案内あんないしてあげたの。うん、今日きょうもどこも怪我けがしてないよ。うん、そっちも大丈夫だいじょうぶ。またいつものおかたずけさんをんでおいたから。しっかりおしおきもしたし、最後さいご反省はんせいしてたみたいだから、みんな天国てんごくけるとおもうわ。途中とちゅう、みんな一斉いっせいしそうになっちゃって、さすがにもうあきらめるしかないとおもったの。だからすこしだけ、つよめの言葉ことば刺激しげきしてあげたわ。そうしたらね、ふふっ、面白おもしろいくらいにみんなかおにしちゃって――え? 今夜こんやはハンバーグなの? やったー! わたし、ママの手作てづくりハンバーグ大好だいすき! 大丈夫だいじょうぶ大丈夫だいじょうぶすこがあったほうがおいしいよ。今日きょうはいっぱい運動うんどうしたから、たくさんべるね。ソースはなぁに? え~おたのしみ~? ママのいじわる~。いいもん、お夕飯ゆうはんのときにパパにいつけちゃうんだから。……あ、そうだ。今日きょう学校がっこうでとっても面白おもしろいことがあったの! ミカちゃんとユキナちゃんがね、おなおとこのことがきになっちゃって――」



 女子高生じょしこうせいうし姿すがたが、夕日ゆうひまっていく。

 晩秋ばんしゅうかぜなかなが黒髪くろかみをゆらゆらとなびかせて。

 赤茶あかちゃチェックのスカートをひらひらとおどらせて。

 びきった大門だいもんあいだを、足早あしばやとおけていく。

 ローファーのはや足音あしおとが、次第しだいとおのいていく。

 時折ときおりれてくるはなごえも、徐々じょじょにぼやけていく。

 夕日ゆうひ燦々さんさんらす、少女しょうじょうし姿すがた

 おとこ12にんほふり、断罪だんざいした、女子高生じょしこうせいうし姿すがた

 なが黒髪くろかみを、スカートを、おどらせながら。

 通話つうわちゅうの、しあわせなわらごえらしながら。

 少女しょうじょは、夕日ゆうひなかへとえていった。



 まちはずれのはい倉庫そうこよるせまる。

 喧騒けんそうり、はなりゆき。

 おとこ12にん死体したいころがるだけの戦場跡せんじょうあと

 そのなかで――しろ一輪花いちりんかだけがれていた。 

 一人ひとりおとこかおにかかった、しろレースのハンカチーフ。

 そのしろはなだけが、えた夜風よかぜれていた。

 物言ものいわないおとこたちを見下みおろしながら。

 いつまでも。ふりふりと。


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死刑執行人少女 ~女子高生ひとりに負け殺された12人の男たち~ E.C.ユーキ @E_C_Yuuki

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