第17話 皇帝
イカロン・マックバーン皇帝には、若い時にできた友人がいた。友人のロイド・グロッサー男爵は、貿易会社を経営している隣国の貴族だった。盗賊に襲われ怪我をした彼を助けた時から、ロイドとは友人になった。
そんな、ロイドとは、何年も会っていない。厄介な女と自分の子供をロイドへ押し付けた後は、疎遠になってしまった。自分を騙した女は気に入らないが、腹の子供に罪はない。ロイドへは定期的に子供の養育費と称してかなりの金額を送ってきた。その度に、ロイドはイカロンへ手紙を送ってくる。無事に子供が産まれた。名前は、イカロンが決めた通りイリーナと名付けた。イリーナは輝く銀髪の可愛い娘に成長した。イリーナの為に装飾品やドレスを用意し、教育を施している。イリーナは幸せに暮らしている。等等子供の事が毎回手紙に書かれていた。
いつしか、イカロンはロイドからの手紙を待ち望むようになっていた。皇妃は銀髪の子供を産まなかった。あの一件の後、皇妃は何度もイカロンを責めてきた。「貴方は私を愛していない。」「私よりあの伯爵令嬢が好きなのではないか?」「どうして裏切ったのか。」ヒステリックに叫ぶ皇妃にイカロンはうんざりし、距離を取るようになった。皇妃との仲は冷めきっている。優秀な皇太子、皇女、会った事がないが銀髪の庶子の娘までいる。イカロンは現状に満足していた。
だが、皇妃は違ったらしい。かなりの金額の公費を使い込み、生家へ帰り遊んでいるらしい。皇妃に指摘した時、やっとイカロンは気が付いた。目の前の妻が変わり果ててしまっている事に。
詳しく調べると、皇妃が着服した金は、ジェフリー公爵へ渡り、私兵を雇う為に使っている事が分かった。たくさんの武器も集め、ジェフリー公爵が反乱を起こそうとしている。ジェフリー公爵とは、政策で何度か対立してきた。正当な皇族は自分だと、ジェフリー公爵が影であり得ない事を主張しているらしい。
(ジェフリー公爵は、愚かな奴だ。気付かれているとも知らずに、こちらの手の者を大金を投じて集めている。
だが、愚か者なのは、私も一緒だ。)
舞踏会で、初めて会ったイリーナは、美しく立派に成長していた。堂々と振る舞い、リム商会を立ち上げ、博士号も取得したらしい。
自慢の娘だ。皇族の証である見事な銀髪を引き継いだ我が娘。
イカロンは、亡き友ロイドに感謝した。
約束通りロイドは、娘を育て上げてくれた。
今更、父だと名乗りを上げるつもりはない。だが、娘の為に出来る事をしてやりたい。
イカロンは、商会当てに沢山の贈り物を送り、取引を優遇した。
だが、娘は皇帝であるイカロンへ贈り物を返送してくる。
イリーナとの関係を詰める事ができず、もどかしく思っている時に、遂にジェフリー公爵が行動を開始した。
私兵を皇城へ送り込み、自身が新しい皇帝だと名乗りを上げ、皇城へ押し入ってきた。だが、集めた私兵の半数以上が皇帝の手の者だ。ジェフリー公爵は初めから勝てる見込みは無かった。
すぐに、ジェフリー公爵と皇妃を捕え、皇城の一室へ閉じ込めた。
戦いの後始末をして、皇妃とジェフリー公爵を押し込めている応接室へ向かうと、そこには娘のイリーナがいた。
「銀髪の庶子なんか存在してはならない。そうでしょう。貴方。」と叫ぶ皇妃の声が聞こえる。
娘であるイリーナが、振り向きイカロンを見た。娘は何かに怯え、心配そうな表情をしている。
イカロンは、娘に向かって言った。
「私が君の父親だ。私は、君が産まれてきてくれて感謝している。確かに、今まで会う事も無かったし、なにもしてやれなかった。だが、君の事はずっと気にかけていた。親友のロイドに、君と君が皇女の証である金貨を託した。私は、君に生きて欲しかった。イリーナ。我が愛しい娘よ。」
イカロンの言葉を聞き、目の前の娘は、安心したように穏やかに微笑んだ。
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