第10話 舞踏会

イリーナは、舞踏会へオージンと共に訪れていた。

長い銀髪を結い上げ、黒曜石のネックレスとイヤリングをつけている。ドレスは紺色のドレスに数々の宝石を縫い上げていた。どの宝石もリム商会の自慢の一品だった。


オージンは、イリーナの手を取りエスコートして、会場へ入って行った。


舞踏会場は、沢山の人達がいた。オージン・マクラビアン公爵令息が、銀髪の娘をパートナーとして連れてきた事を驚いているのか、扇で口元を隠し話し合う貴婦人たちが、所々にいる。


イリーナは、緊張で体が強張るのを感じた。


舞踏会の最奥には、皇帝と皇妃が皇族席の中心に座り、その両側に皇太子とイマージュ皇女が座っている。イリーナは、イマージュ皇女と眼が合った気がした。


オージンが、イリーナに言う。

「まずは、陛下の所へ行こう。大丈夫だから。」


「ええ、でも、反対されないかしら。」


オージンは言う。

「マクラビアン公爵家と皇女様の婚約を進めているのは皇妃様だ。陛下は、勢力バランスが崩れると反対されている。」


オージンと共に、皇族席へ進んで行った。


皇帝は、所々煌めく白髪の壮年の男性で、紺色の瞳で私を見てきた。

その瞳は力強く、心の内面まで見透かされているような気がする。私は、目線を下へ逸らし、オージンと共に頭を下げて礼をした。


皇帝は言った。

「そなたが、オージン・マクラビアンのパートナーか。名前は何と申す。」


皇帝から話しかけられるとは思っておらず、私は困惑しながら答えた。

「イリーナと申します。陛下。」


頭を下げ、磨き上げられた床を見ながら答えた。数秒経つが、陛下の返答がなく沈黙が続く。


グロッサー男爵家から追放された私は、グロッサーを名乗る事ができない。やはり、ただの平民が来る場所では無かったのかもしれない。私は、恐る恐る顔をわずかに上げて、皇帝を見た。


皇帝は、左手を顔に当てて、目元を隠している。わずかだが震えているようだ。


私は訝しく思いながら、皇帝の言葉を待った。


「そうか。イリーナか。マクラビアンが其方を選ぶとは、喜ばしい事だ。祝福しよう。」


私は驚き、皇帝へ違うと伝えようとする。


その前に、オージンが言った。


「陛下。イリーナ嬢の事は、まだ口説いている最中です。見守っていただければ助かります。」


皇帝は、その言葉に驚いた表情をして、穏やかに笑った。


「ああ、そうか。隣国でオージンを振ったという娘はそなたか。ククク。オージン・マクラビアンは勉学に秀でているが、調子に乗っている所がある。其方たちは、いいパートナーとなるだろう。」


オージンは言った。


「ありがとうございます。陛下。」



私は、オージンと共に再度礼をしてその場から離れようとする。斜めから突き刺すような視線を感じて、私はそちらを見た。そこには、私を睨みつける皇妃がいた。イマージュ皇女は、皇妃の隣で、心配そうに私を見ている。


(どうして?皇妃様が私を睨んでいるの?)


皇帝への挨拶は、他の貴族達が順番を待っている。留まるわけには行かず、オージンと共に、私はその場から離れた。











私とオージンは、皇帝への挨拶の後、沢山の貴族達に囲まれた。


陛下に認められて事で、私も受け入れられたみたいだった。


沢山の宝石を身に着ける貴婦人が話しかけてきた。彼女が身についているのはどれも一級品の宝石たちだ。ローズマリー侯爵夫人は、かなりの美人で帝国貴族の華と呼ばれている。一部からは皇妃よりも影響力があると言われる女性だった。


「素晴らしい衣装ですわ。それにこんなに見事な黒曜石は見た事がありません。わずかにグラデーションがかかっているようですし、どちらで手に入れられたのですか。」


私は、答える。

「私は、リム商会を営んでおります。これらの宝石は、懇意にしている取引先から融通して貰い手に入れましたの。」


「まあ、リム商会と言えば皇女様がなにやら言っておりましたけど、その黒曜石を見るとかなりいい品を扱っているみたいですわね。今後我が屋敷に、持ってきて頂けないかしら。」


「ええ、もちろんですわ。ローズマリー様。」




オージンは、私に沢山の帝国貴族を紹介してくれた。おおむね好印象で、何人かとは商談の約束を取り付ける事ができた。


オージンは、私に寄り添い、顔を耳元に近づけて囁く。


「疲れただろう。イリーナ。」


確かに疲れた。でも、それ以上に成果を上げる事ができたと実感している。リム商会はもう大丈夫だろう。メロナを含め優秀な部下たちが上手くやってくれるはずだ。これも全てオージンのおかげだった。


私は、オージンへ凭れかかりながら言った。

「大丈夫よ。オージン。ありがとう。貴方のお陰で、なんとかなりそうだわ。」


少しずつだが、目標に近づいてきている。グロッサー男爵家を取り返す目標に、、、


だけど、その目標の後は、どうなるのだろう?


私に何が残るのだろうか、、、









その時、私の名を呼ぶ大きな声がした。



「イリーナ!!!」

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