「マスクが邪魔でバディ娘を選べない」とゴネたら候補者全員と異世界転移した俺(短編)

夕奈木 静月

第1話 誰が誰だか……

「さあ、選びなさい。あなたに一番ふさわしいバディを!!」


 いきなりそんなこと言われても……。ああ、俺やっぱ石段から転げ落ちたんだな……。なんか雲の上にいるし。痛みなくこの世からおさらば出来そうなのはいいが、突然そんなに重要な選択を迫られてもなあ……。 


 俺は古徳佐登留ことくさとる。高校3年生だ。無理な初詣は良くない。具体的には、無理な石段の四段飛ばしは絶対にやめた方がいい。いくら早く家に帰ってゲームの続きをしたくても、だ。俺みたいになるよ。


 理屈っぽくて石橋叩きすぎて壊すような俺がなんであんな馬鹿なことをしたのか……。謎だ。


 まさかさっき俳句を詠むようにふざけてお祈りした「今年こそ~異世界行って~マスク取る~」が現実になってしまうなんて……。


 それはさておき、目の前ではパンツスーツに身を包んだ、多分神のような存在なのだろう緑髪の女性が「早くしろ」と無言のプレッシャーを掛けてきている……。


 はいはい、了解、分かった。選ぶんだな、異世界を一緒に旅する子を。よくあるパターンだよ。アニメ見まくってるから知ってる。それにしてもどうしてこの神はスーツ姿なんだろうか。


 そんな俺の目の前には、アイドル風のツーピース衣装を身につけた女の子が三人並んでいる。こっちもおよそ俺のイメージする異世界らしからぬ格好をしているが、この子たちをバディって言うんだな? パーティメンバーとかではないのか? まあなんでもいいや。


 でもなあ、その候補者たちの顔がねえ……。いやあんまり可愛くないとか、そういうわけではなくて……。みんな美しく、愛らしいんだよ? 煌びやかな目に、艶を持ってなびく髪。そして纏う服は妙に露出が多い……。見目麗しいとはこの事なんだけども、問題が……。


 ……みんなマスクしてて素顔が分からんのだよ……!!


 鼻と口元が見えないと誰が誰だかさっぱりわからん。そして美人であればあるほど目元は結構みんな似てる。もはや目の色でしか個人を判別できないまである。


「あの……神様」


「なんだ? いや、私は神ではないの……、い、いや何でもない。ああ、自己紹介がまだだったな。私は新音にいねという。君を地球から未知の世界へと導く存在だ。さあ、早く誰にするのか選んでくれ」


 それにしても、この神ポジションの女性もマスクしてるんだもんな……。まあ俺の住んでるこの世界の状況を考えるとその気持ちもわかるけどさ……、顔見せてよ? 雲の上なんだし、いーじゃん? 多分すごい美人なんでしょーし。眼福させてよ、眼福! 俺死んじゃったんだしさ~。


 俺は深呼吸して異世界へ旅立つ興奮でおかしくなったテンションを落とし、尋ねる。


「俺は古徳佐登留、といいます。あの、お願いなんですが、マスク取ってもらっていいですか? せめてバディ候補の子たちだけでも。俺も取りますから」


「ダメに決まっているだろう? あなたは自分の住む世界の現状を知らないのかっ!? 第一あなただってマスクをしているではないかっ!」


「いや、たしかにそうですけど……。でもそれでもねえ、やっぱりこれから行く世界もどんな感じか分からないし、不安は大きいわけですよ。そこにきてパートナーの顔もはっきり分からず決めさせられるっていうのはちょっと……。それに彼女たちにだって俺を受け入れるのかそうしないのか決める権利があると思うんです」


 俺は強引な新音に少しあきれながら伝えた。


「ブツブツ理屈っぽい人だな! 時間がないのに……」


 新音は何やら焦っているようだ。

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