創世の大賢者、600年後の世界へ転生して再び伝説になる。

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第1話 創世の大賢者とその弟子

「なあ、エルドライン」


 俺――べリアス・アインドールは、資料の整理をしていた弟子のエルドラインを呼び寄せた。

 創世の大賢者。それが俺に付けられた異名だ。

 未曽有の大災害に襲われ住む場所を失った人間族を導き、モンスターのはびこる土地を開拓して新たな国家を作り上げた男。

 この功績によって、いつからか人々は俺のことを創世の大賢者と呼ぶようになった。

 そんな俺の唯一の弟子であり、そして誰よりも信頼する人間がエルドラインだ。


「べリアス様、どうされましたか?」

「俺はそろそろ転生しようと思う」

「今、何と……?」

「転生だ。50年前の大災害から考えて、人間族はずいぶんと平和に暮らせるようになった。各々が生活基盤を築き、統治の仕組みもしっかりしている。もう民の心配は要るまい。何より、俺がいなくなってもお前がいる」


 人間に限らず、全ての生物には寿命というものがある。

 俺とて、見た目には20代のまま時が止まったように見えるが、実際のところ70を超えている。

 そう長くはない。

 ただ俺は人間族の行く末をもっと見てみたかった。

 この先10年、20年の話ではなく、はるか数百年後の人間族の姿を。

 これには特に殊勝な理由があるわけじゃない。

 ただ単なる己の知的好奇心。それだけだ。

 俺が英雄でもなく、勇者でもなく、賢者と呼ばれるのは、この知識への渇望が由縁となっている。


「転生のための準備、《転生の繭》はすでに完成した。俺は600年後の世界に向かうよ。俺がいなくなった後のお前が、そしてこの先の人間族がどんな世界を創るのか楽しみにな」

「分かりました」


 エルドラインはそう言って、少し笑いながら頷いた。

 俺がこうと決めたらもう止められないことを、彼は十分に理解しているのだ。


「べリアス様が任せて良かったと言ってくださる世界に向けて、私はこれからも精進していきます」

「ああ。信じている」


 俺は座っていた椅子を立ち、家の2階へと階段を上り始める。

 ついて来ようとするエルドラインだったが、俺は彼を制止した。


「見送りはいらない。民にはお前から伝えてくれ。今となっては、民は俺と同じくらいお前のことも信頼している。安心して、時には民を支え、時には民を導け」

「はい、べリアス様。お任せください」

「ああ、任せた」


 これが創世の大賢者べリアスと、その弟子エルドラインの間で交わされた最後の会話だった。

 そしてこの10年後に作られた歴史書には、こんな一文が記されている。


 ――創世の大賢者エルドライン・グレクルは、世界を滅ぼそうとした極悪人べリアス・アインドールを討ち滅ぼして人間族に平和をもたらした。










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