二人用のマフラー

砂上楼閣

第1話

一本一本に思い出を込めて、あなたへ贈るマフラーを編んだ。


あなたにマフラーを編むのはこれで2回目。


前以上に丁寧に、時間をかけて、想いをのせて、あなたへ贈るプレゼント。


初めて贈ったマフラーは一人用だったね。


『ありがとう』


そう言って暖かそうに、私の贈ったマフラーを首に巻くあなたを見て、とても嬉しかった。


けれど、二人で巻くには短くて、贈ってから少しだけ寂しい思いをした。


幸せだったけれど、ほんの少しだけ抱いたもの淋しさ。


満たされてるはずなのに、もっともっと欲しくなって。


そうしたらぐるりと一周、わたしとあなたの首に巻かれたマフラー。


長さは全然足りないし、並んで歩けないけど。


すぐそばで感じるあなたの吐息と熱。


ほんの一瞬だったけれど、一生忘れない。


照れてもう同じことはしてくれなかったけれど。


だから今回は二人用。


これでずっと一緒、なんて。


次の年は結局間に合わなくて、ごめんなさい。


頑張ってみたけど、長さばかりはどうにもならなくて。




今年はちゃんと間に合った。


長さも手触りも、香りにだって気を付けたからきっと気に入ってくれるはず。


毎月毎月少しずつ長くなるマフラー。


あなたとお別れしてからの月日が目に見えるようで、辛かった。


見えていたはずの幸せはなんだったのかと、なんども泣いた。


辛さと悲しさ、虚しさを紛らわせるように編み込んで、編み込んで。


もう一度…


あなたと一緒に巻くのをずっと楽しみにしてた。


もうあなたの首に巻いてあげることはできないけど…


もう一度あなたに贈ります。


わたしの命とも言えるこのマフラー。


毎日毎日、少しずつ伸びる様子をもどかしく思ってた。


編み物は根気強く、だけど何度も心が挫けそうになった。


その度に『頑張り屋』って褒めてもらえた時のことを思い出して。


あなたに誉められた私の長い髪も、もっとずっと綺麗になるように手入れをして。




涼しくなった首元にそっと手をやる。


吐いた息は白くて、そっとわたしの手の甲を撫でるけれど。


あの時の熱い吐息とは比べ物にならないほど冷たくて。


完成したマフラーを一度胸に抱く。


わたしとあなたを編み込んだ、真っ黒なマフラー。


あなたが別れた同じ場所。


ちょっと背伸び、あなたの首にかけるように。


同じようにマフラーを巻いて。


今度はわたしの首にもマフラーを巻いて。


うん、長さは大丈夫。


今度こそいい長さ。


これでまた一緒。


また2人一緒。


もう寒くない、寂しくない。


とんっと一歩前へ。


あなたとの距離はなくなった。


ぎゅっと思い切り。


苦しいくらいに愛してる。


今度こそ一緒、一生一緒。


さようなら、またね。

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