あんずちゃん 🙋‍♀️🐕

上月くるを

第1話 冬枯れの河原に独りぼっちでいたの 🪶




 ふうわり、やわらかなものが鼻先をかすめてゆく。 

 白い十字もようのある首を伸ばして空を見上げた。



 ――かあさん、これ、なあに? ヾ(@⌒ー⌒@)ノ



 ひとり旅に出てから繰り返して来たことばを呟く。

 ふわふわしたものは、地表に吸いこまれて消える。


 小首をかしげた犬は、暗い空をもう一度見上げた。

 黒い短毛におおわれた背にふわふわが舞い降りる。




      *




 初雪はいつしか大粒になった。

 あたり一面を白く染めてゆく。

 

 つい先日までかすかな香りを放ちながら立ち枯れていた赤や白や黄色の残菊たち。

 折れた茎のてっぺんに銀色の穂先を開き、冷たくなる秋風に身をゆだねていた芒。


 どこか遠い川上のほうから運ばれて来た丸い石や、棒きれや枝、塵などの漂流物。

 ひらべったく干からびて石や砂利に貼りついている、魚や虫や鳥やらのなきがら。




      *



 

 暮れきれないまま夜がやって来た。

 天と地のあはいに瀬音ばかり高い。


 犬は、足の先が冷たくてならなかった。

 それに、昨日からなにも食べていない。


 大きな石のかげにわずかな窪みがある。

 するすると潜りこんだ犬は丸くなった。


 しんしんと夜が更けてゆくと、大粒の雪は、いっそうはげしく降りしきり始めた。

 石からはみ出た犬の背にも……こんなところに生き物がいるとはだれも知るまい。


 

 ――あんずや。(*´ω`*)



 懐かしい声がする。

 かあさんの声だ !!


 自分の腹に埋めていた顔をあげた犬は、期待に満ちて、あたりを見まわしてみる。

 だが、そこにはだれもいない、ただしんしんと灰色の景色が広がっているばかり。


 クスンと小さく鳴いた犬は、さっきよりもっと深く腹に顔を埋めて目をつむった。

 もうなにも見たくないよ、だれか遠いところへわたしを連れて行って……。(*_*;




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