第2章 襲撃と決闘

1、温泉の街

「はっ!女のドラゴンスレイヤーねぇ。最近、ドラゴン出てねぇからなぁタバス、やっぱシュラスか?」



 その男は、組んだ足をテーブルの上に載せ、つまらなさそうに話を聞きながら、隣に侍らす魔法使い風の女の胸を揉みしだいている。

 男のテーブル横の地面では、剣を手に持った男が、額から血を流しうつ伏せに倒れている。


「そうなんスヨ兄貴ぃ!シュラスの鉱山に出たアルビノドラゴンを退治したって噂で、セシリア王国で最近召喚された女勇者らしいッス」

 小柄な男が、横柄な男に報告する。


「へぇ~、女勇者ねえ〜。お前、どう思う?」

 そう言って、体を弄りながら女の口を口で塞ぐ。

「ンッ、ンンッンンッッッッ」

 塞がれた女の口は絶頂の声を発し、男の方に倒れ込んだ。

 タバスと呼ばれた男が、つばを飲んでその女を横目に見ながら、話を続ける。

「そこがダンジョンになったって噂もあって、まだ確認中らしいッスけど、その勇者の女と、そいつの娘が絡んでるみたいッスね。どうします?マルスの兄貴?」


 マルスと呼ばれる大男は、ぐったりとしたその女を小脇に担ぐと、連れ込み宿のある2階の階段に向かって歩き出した。

「はっ!人妻勇者と娘かぁ?いいねぇ〜。コイツの次は、ソイツらだな〜」



「やっと着いたっ〜!!」

「やっとついたー」

「キューキュー!」


 唯とフェリとハクが、勢いよく馬車から飛び出した。

 俺は、腰を押さえながら、運転手ならぬ御者さんに挨拶する。

「ここが温泉の街、ホットスプリングねぇ~」



 謁見から約1か月。準備やら、引継ぎやら、唯の新装備やらでずいぶん時間がかかった。


 この1か月、フェリとハクは冒険者として、木工ギルドの伐採護衛を中心に稼いでいた。

 アットマインの冒険者ギルドでの依頼は主に3つ。素材の採取、魔物の討伐、魔木伐採の護衛という、深淵の森に入っての依頼が多い。


 ハクが国王に認知されたことによって、袋に入ることはなくなった。なので、従魔としてフェリと一緒に依頼を受けさせている。


 種族は鳩だ。白くて元々目立つのに、ドラゴンだとさらに目立つ。見た目はミニミニドラゴンなのだが、鳩だからしょうがない。セシルバンクルも納得してたしね。

 ギルドでは、男女問わずに、鳩でも大人気だ。ドラゴンのフォルムなのに、手に乗る大きさ。言葉も理解し、それなりに強い。

 一応ハクには、全力は出さないように言ってある。

『鳩出現のマジック』で魔力が抑えられているんじゃないかと思っているのだが、こればっかりは、鳩の気持ちがわからん。


 俺が一緒にギルドについて行ったときは、お姉さん冒険者から撫でられたり、胸に挟まれたり、餌付けされたりもみくちゃになっていた。

 おいおい羨ましいな、ではなかった。あの声はハクの悲鳴だわ。


 フェリは助けに行かないのかと思ったら、フェリはフェリでおっさん冒険者から餌付けされてるわ。

 これかっ!最近、夕食の量が少ない原因は。


 後日フェリに、ハクを助けないのか聞いたところ、「あれは、ハクのとっくん。少しずつ、なれていくの大じ」とのことだった。お姉ちゃん、厳しすぎない?



 フェリは、勉強も頑張っている。足し算と引き算は二桁の暗算が出来るようになった。難しい言葉も覚え始めている。

 弟が出来たおかげで、お姉ちゃんスイッチが爆上がりだ。Bランクの銀色カードももうすぐかもしれない。


 その間、俺は何をしていたかというと、商業ギルドに登録して、シルバーアクセサリーの制作に精を出していた。

 そう。ひたすら練習して唯やねねにお墨付きをもらったスプーンマジックのリングである。

 もちろん、完全に再起動後で固定されたものである。これが売れる売れる。


 さらに、唯の伝手で紹介してもらったハワード商会の付与術師のサムワン君。彼に色々な効果を付与してもらっている。

 まだ見習いなのだが、何と言っても仕事が早い。逆に言うと専属の仕事が少ないということなんだけど、俺にとっては都合がいい。


 付けれる付与も、力+1、敏捷+1といった、付けれる付与数値も少ないのだが、付与できる種類が多いのだ。

 現在の売り上げトップ3は、魅力+1、料理+1、精力+1となっている。

 これくらいがちょうどよく、お客様のお財布にもお手頃なのだ。


 銀のスプーンを銀貨1枚で仕入れ、付与代として銀貨2枚、サムワン君への送料が経費でかかり、リング1つの売値が金貨1枚だ。

 決してボッタクリではない。サムワン君も、「僕も経験になりますし、やればやるだけ技術も上がりますからっ!」って言ってくれる。くぅっ!健気っ!1日20個のリングに付与をお願いしている。


 この+1で、命が助かることもある。ライバルを蹴落とすこともある。パートナーを満足させることもある。

 既製品の商品はほとんどが+3以上だが、価格は白金貨2枚とかしてるからね。


 俺?俺も頑張っているんだよ。ひ、暇なときに、パっと作っているのは確かだけど、効果ごとにデザインを変えているからね。

 ‥‥とりあえず、ストックは全種500以上あるので、今はね、プレッシャーをかけないように、少しづつハワード商会に送っている。


 直接会うときに言われる「ナナムさんのリング、商会でもホント評判なんですよっ!細かい細工のところ、相当大変ですよねっ!僕もこの商品の価値を下げないよう頑張りますからっ!」

って言われたときは、罪悪感で心が多少チクリとしたけどね。心中ニヤニヤしてないよ。 

 

 おかげで今回の旅費が稼げた。マジであの王様、俺たちの金出さないんだとさっ!!

 東きゅ、違った。大臣のハンズさんに、「使節団なら、費用は出ますよ‥‥ね?」と下手に出て聞いたところ、「往復の移動手段はこちらで用意しましょう」だとさ。


 はぁ?だよ。「表敬訪問『だけ』ならば、そこまで日数もかからないでしょう」だとさ。マジやられた。

 確かに、温泉はタミィの休養願いだし、美味しい飯は、アルスタールを紹介しただけ。

 唯とフェリなんて願望を述べただけじゃん!アホの娘達めっ!!



 タミィとねね、ネルミルさんは、こっちの宿で合流予定だ。



 ねねはあの後、どうなったかって?

 ああ、ツノの生えてたお姉さんのことね。

 



 ホラーな話は、苦手なんですが。

 

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