犯人っぽい人を探してます

ちびまるフォイ

紛らわしいことが仕事です

さて。年末年始の休みに入ったわけだが。


「……暇だ」


大学があるときはあんなにもぶつくさ文句を言っていたのに

なかったらなかったで退屈がのしかかってくる。


「南国に別荘を持っている友達とかから誘われないかなぁ」


友達をネットで探し始めたヒマの亡者は、

そこで目に止まった求人情報にノリで履歴書を送った。


数日後、面接まで選考が進む。


「では面接をはじめます。

 あなたはどうして応募したんですか?」


「いやぁ……そうですね、豪華なホテルに一度泊まってみたいという思いで」


「うちの仕事の内容はご存知で?」

「詳しくはあまり」


「うちは"犯人っぽい人"の人材派遣サービスです」


「犯人……っぽい人?」


「ミステリーでも見ませんか。

 明らかに怪しそうなのに実は犯人じゃなかった人」


「ああ!! ああ! います!

 序盤だけ疑われるだけで犯人じゃない人!」


「そういうミスリード役を募ってるんです。

 あなたはミステリーにも知識がありそうなので安心です」


「え! それじゃ……」


「はい。あなたを正式に採用し、絶海の孤島へ派遣いたします」


かくして犯人っぽい人として正式採用されると、

豪華クルーズに乗って絶海の孤島にあるいわくつきのホテルへと向かった。


クルーズには案の定、高校生探偵も一緒に乗っていた。


俺はといえば、意味深な包帯を顔に巻いたり

露出狂しか買わないんじゃないかと思えるトレンチコートを着込む。


クルーズ船の時点であやしさを出すために、

食堂にはあえて顔を出さず、用もなく船の裏とかを行ったり来たり。


「はぁ……疲れた……。でもこれで犯人っぽさは十分だろう」


超一流の5つ星ホテルへとたどり着き、

自分の部屋のベッドに横たわると疲れがどっと押し寄せた。


「ある程度、犯人っぽい行動したらあとはバカンスかと思ったけど……。そうもいかないもんだなぁ」


タダで豪華ホテルに宿泊できるのはよかったが、

いつどこで宿泊客に鉢合わせするかわからない。


犯人っぽさOFFの状態のときに出会ったら大変だ。


まるで人当たりのよい芸能人のように、

部屋を一歩出ればよそ行きの自分を取りつくろって過ごす。

心休まる瞬間なんてなかった。


そのとき。



「きゃああああ!!」



どこからか悲鳴が聞こえる。


でも犯人っぽさを出すためにすぐには向かえない。

あえてちょっと時間をおいてから現場に向かう。


現場の劇場では上から落ちてきた垂れ幕に押しつぶされた死体が転がっていた。

いや普通の方法で殺せよ。怖いよ。


高校生探偵は神妙そうな顔で検死している真っ最中だった、


「死んでる……」


なんで誰も止めないのよ。

いうて高校生だぞ。一般人じゃん。


思わず素が出そうになったが、自分はこの劇のキャストであることを思い出す。


「フフ……」


なんの意味もないけど、意味深な含み笑いをしてその場を去った。

背中越しに自分を怪しんでいる視線を感じられる。


(しめしめ。これで犯人っぽさ給与にはボーナスも上乗せされるかも)


これが天職なんじゃないかと思えるほど、

その後も自分の大立ち回りは続く。

もう誰もが自分を犯人だと思いこんでしまうほど。


そしてついに、高校生探偵から宿泊者全員を食堂に集めるお触れが出される。

ここから推理パートに入るのだろう。


「みんなに集まってもらったのは他でもない。

 このホテルの殺人鬼は……この中にいる!!」


「そんなバカな!?」

「本当なの!?」

「一体誰が!!」


絶海の孤島なんだから、この中にいるに決まってるじゃん。

などと冷ややかなツッコミを心で思っているが、探偵の実演を交えた推理は続く。


「……と、こうすることで密室ができるのさ」

「そして犯人は~~こうして、あーーして……」

「そう思うだろ? でも犯人はあえてこうすることで……」


まるでテレビショッピングのような手際で次々に犯人のトリックを再現していく。

仮にこのトリックが本当は犯行に使われていなかったとしても、

これを思いついた時点ですごいなと褒めて表彰したくなる。


ひとしきりトリックの解説が終わると、

高校生探偵の幼なじみが合いの手をくりだす。


「でも、ここにいる人はみんなアリバイがあるわ!!」


「いや……そうじゃない。実はアリバイがない人が一人だけいる」


高校生探偵はコツコツと歩き、指さした。


「殺人鬼は……あんただ!!」




その指先は自分に向いていた。

しばし何も理解できなかった。


「ん?」


「あんただ!! あんたが犯人だ! ほら吐け! 自白しろ!」


「いや……違います」


「うそをつけ! あんただけあの時間アリバイがなかったんだ!!」


自分が犯人っぽい人としてここへ参加しているのであって、

自分はけして犯人じゃないことを懇切丁寧に説明したい。


でも説明してしまえば、自分の仕事は失敗に終わってしまう。


「本当にちがうんです!」


「じゃあ証明しろ!」


「それもできないけど!」

「じゃあ犯人だ!」

「なんで!」


俺のトリックを看破できなければ、お前は罪を認めろという圧を感じる。

トリックの知識もないうえ、途中からあんまり聞いていなかった。


けれどこのままでは自分が犯人にされてしまう。

刑務所に入れば、この犯人っぽい仕事の給料はおろか普段の生活も危ぶまれる。


「ああーーもう! わかりましたよ! 全部話します!!」


「ついに自白か!」


高校生探偵はうれしそうな顔をする。


「いいですか、俺はですね犯人っぽいことをするためにここへ来たんです。

 本当の犯人なんかじゃありません!」


「え……?」


「ほらこれ名刺。ね? 俺は犯人でもなんでもないんです。

 ただそれっぽい行動をするだけの人なんです!」


「じゃあ……じゃあ、なんであの時間、誰もいない監視塔へ行ったんだ!」


「怪しさを出すためにそうしたんです!

 機械の操作もできないんだから、なにかできるわけないでしょう!?」


「じゃあ、船でどうしてみんなの前に現れなかったんだ!」


「あんまりひと目に触れないほうがミステリアスでしょうが!」


「それじゃ、部屋を血の色にライトアップしたのも……」

「演出ですよ。怪しいかなと思って」


「深夜二時に廊下に立っていたのも……」

「不気味さに思ってもらえるかなって」


どんどん高校生探偵は涙目になっていく。

涙声で訴えかかった。


「まぎらわしいことするなよぉーー!!

 推理まちがったじゃないかぁーーー!」


「逆ギレしないでくださいよ!

 だいたいね、あんな手の込んだトリック誰がするんですか!」


「するもん!!! 犯人ならするもん!!」


「絶海の孤島に小道具を持ち込んでトリックをするわけないでしょ。

 普通の人ならあの時間、こうすれば安全に殺せるでしょう!」


「するもん……アリバイ作りのためにトリック使うもん……」


「だから、アリバイもこうしてああすれば偽装できるでしょ。

 だいたいね。トリックやら仕掛けやら準備してるときに

 誰かと鉢合わせしたら終わりなんだよ。リスクありすぎるでしょ!」


「じゃあ! あのときの説明はどうするの!」

「そりゃ普通にこうすればいいでしょ」


「あの殺人の説明は!?」

「ああすれば解決できるでしょうよ」


押し問答を続けていると、みるみる顔が青ざめていく人が1人だけいた。

そのことに気づいたのはあらかたの推理が終わった頃だった。



「あれ? こいつ犯人じゃね?」



かくして、絶海の孤島で起きた殺人は幕をおろした。



人材派遣会社に戻るとしっかり給料も支払われたので驚いた。


「あの、いいんですか……?」


「なにがかな?」


「給料もらってもいいのかなって。

 俺、最後の最後で全部バラしちゃいましたし」


「ああそのことか。まあそれはうちの会社のルールには反する」


「げっ……やっぱり……」


「ただ、君をご指名で次の派遣先の営業も入ったんだ。

 イレギュラーであるが、次の指名が入るくらい人気な君は

 これからも"犯人っぽい人"として頑張ってもらわなくちゃね」


「ありがとうございます!! よかったです!!」


普通にクビになると思っていたのでホッとした。


「それで、指名というのは……?」


「彼のご指名だ。入って来たまえ」


部屋にはいつぞやの高校生探偵が入ってきた。



「相棒のあんたが犯人っぽいことをして、真犯人を安心させる。

 そして、その油断をつき僕が推理する!

 

 これでどんな難事件も解決さ★」


こうして新しいコンビ探偵が誕生した。

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