特異体質の最強兵器《マッシングウエポン》

葉名月 乃夜

第1話

 漆黒の夜。ビルの多い街の中、建物の上を飛び交う小さな影があった。


 その影は、闇に混じった紺色のマントをはためかせながら、ピョンピョンと屋根から屋根へ飛び移っていく。


 やがて、街の中で一番高い建物の屋上にきたところで足を止めた。屋上の床のぎりぎりの角に片足をかけて、街を見下ろす。


 彼女の目に映っている景色は二つ。夜なのにも関わらず、昼間のような明かりさを灯している街中。それとは対照的に、明かりがひとつもない街のはずれ。


「今日も平和だなぁ」


 その影は、夜風に、一つでくくった黒髪を靡かせながら呟いた。


 その影の正体は、人間の少女であった。15歳の、大人びた雰囲気を醸し出している少女、結庵ゆいあ


 彼女は軍服のような格好に、お尻まですっぽりと隠れるほどのマントをかぶっているため、夜の街に蔓延る闇と完全に同化している。しかし、彼女にとってはそっちの方が都合が良かった。

 

 何せ、今は任務ミッション中なのだから。と、結庵の右耳に付いている小型の機械から声が聞こえてきた。


『こちら、本部。結庵ゆいあ聞こえる?』


 結庵ゆいあは鈍い銀色を放つインカムに指を押し当て、応答する。


「こちら結庵ゆいあ大丈夫、聞こえてるよ、真莉紗まりさ


『了解。早速だけど殲滅任務リプテインミッションよ』


 任務ミッション、という単語が出てきた瞬間、結庵ゆいあを取り巻く雰囲気が変わった。静かな場所に凛と咲く花とは一転、張り詰めたような、酷く緊張感のある空気が彼女を取り巻く。


「何処?」


結庵ゆいあがいる場所から、丁度10時の方向に1キロほど。遠くはないわ。今から地図マップを送るから』


 そう言った2秒後、結庵ゆいあの腕時計が音を立てる。左腕の袖をたくし上げて、手首についている切手ほどの大きさの液晶を顔の前に持ってくる。


 画面を見ると、『本部 〈殲滅任務リプテインミッション地図マップ』という文字が浮かび上がった。彼女はそれをタップする。画面は立体映像のように浮き上がり、目の前に地図マップが現れる。


 自分の位置を示す白いアイコンと、標的ターゲットの赤い印を見比べる。


 本当に、すごい近い。結庵ゆいあは二重の瞳をキリッと吊り上げた。


「行くか」


 そう呟くと、床の淵にかけていた足を離して、彼女はビルの下に落ちた。

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