第21話 あだ名は覚えているが本名は忘れる
ココとクイがヌラッチョ伯爵の紳士に恐れおののき、翻弄されている傍らで、魔剣ダレヤネンは、狼男ダックスに深々と突き刺さり、生気を吸収中であった。
その狼男ダックス、ミラクル満月パワーで回復中である。
回復と吸収のどっちが勝つか? 戦況を大きく変える静かで地味な攻防が続いている。
「アフンッ…ハウンッ…オッフ」
時折、ダックスの大きく避けた口から洩れる聞きたくもない吐息の頻度が高くなっているのは魔剣ダレヤネンが頑張っている証でもある。
生気の吸収に快感を覚えつつあるダックス、性癖ワールドで新たな扉を開いてしまっていた。
そして…。
「ぐがっぁぁぁぁ」
首筋に噛みついてきた『誰かさん』のおかげで悶絶していた。
ぼやけるトマの目に映る女性のシルエット。
黒いマントにハイレグビキニ、色は蛍光ピンクである。
黒いマントにビキニパンツの『ヌラッチョ伯爵』の関係者であるなとは思ったが一応聞いてみたトマ。
そう偏見はよくない。
「貴様…誰だ?」
足元で藻掻いているトマを楽しそうに眺める女性が薄笑みを浮かべトマの質問に答える。
「私の名か? 私は『コスレテア・カイ・ニューリン』…アッチで、はしゃいでいる『マック・ロイ・ニューリン』の姉だ」
「……姉?というか…アツチではしゃいでいるのは『ヌラッチョ伯爵』ではないのか?」
「……『ヌラッチョ伯爵』? 誰?」
間の抜けた会話が途切れ数秒の静寂の中、アッチからココとクイの悲鳴が聞こえる。
「オマエの言う『ヌラッチョ』とは、あの、そそり立つ紳士を振り回している変態を指しているんだよな?」
「無論だ」
「アレは私の弟だ…恥ずかしながら変態だ」
やっぱり色濃く関係者であったことに納得したトマ。
「彼はヌラッチョ…じゃないん…だ…ンガッ‼」
トマが急に白目を剥いて動かなかくなる。
「ん!?…肝心なことを伝える前に死んでしまったか…まぁいいか」
トマに、NOWどういう状態なのか、これからどうなるのか、説明するつもりだったのだが、残念なことに余計な、おしゃべりで、その時間を失ってしまった。
「ドンマイ…ワタシ、数分後に、また来るわ…弱い騎士さん」
やたらとナイスバディな肢体、身体中で満月の光を浴びるように両手を広げ『マック』を弟、そして変態と呼ぶ変態『コスレテア』は姿を消した。
………
「ふんぎゃぁぁぁー‼」
クイを置き去りにして大絶叫しながら魔剣ダレヤネンの回収に全速力で走る。
「ちょっとー‼ 置いてくんじゃないわよ‼」
体力の塊であるココの全速力に付いていける訳もないクイ、ココを呼び止めるも無駄である。
ココはクイの声など耳に入っていない。
もう魔剣で紳士を叩き斬ることしか考えていない。
「おっふっふふふぅーーーー‼」
クイの真後ろで『ヌラッチョ』改め『マック』の紳士がグリングリン暴れまわる。
振り返ることはできないクイ、だが自らの視界を霞める陰だけで生理的に無理な存在なのである。
………
「なんだ、このデカい門、立派な城だな」
トマ、現世と冥界の境目に立っていた。
「は~い、そこの騎士さ~ん、整理券もって並んでね~」
「いや観光地かい‼……えっ観光中だったっけ?」
トマの鈍いツッコミが静かな冥府で響く。
まぁ状況が理解できないので言われた通り並ぶことにしたトマ。
「あ~…騎士さん…アンタは送り返しだわ~面倒なんだよね~アンデッドはさぁ~、アッチのバスに乗って待っててくれる」
邪険に扱われるトマ。
「コレに乗ればいいのか? 観光バス?…バス…バス…バ…ス…ス…」
ムクッ…
大霊界の門を潜らずにUターンした『トマ』が起き上がる。
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