第15話 布団からは出たくない。
「だから俺は言ったんだ…全員寝るとか在り得ないだろう…」
魔剣ダレヤネンがボヤく。
全員昼寝している間に『スライム』がボトボトと木から落ちてきたのである。
ココ、クイ、トマ、大きな木にもたれ掛かかって昼寝中である。
魔剣ダレヤネン、睡眠を阻害するという理由から、離れた場所に放置されていた。
「どうせアンタ、ココしか抜けないんだから盗まれやしないでしょ」
ソレがいけなかった。
もたれ掛かった木はスライムの寝床でもあった。
学者によると『スライム』とは生物の二酸化酸素に反応して襲ってくるらしい。
食ったら寝るココ。
急激なキャラ変で疲れているトマ。
金のためココと離れられないクイ。
二酸化炭素放出中である。
大小、様々なスライムがズルズルと3人に、にじり寄る。
「起きろー‼ バカ共‼ 志村後ろー‼」
魔剣ダレヤネンの声は届かない。
「クソッ、厄介なヤツの巣に近づいちまったもんだぜ‼」
戦士にとってスライムは厄介な相手である。
分裂も結合も自由な生き物、それがスライムだ。
つまり剣や斧は、まったく役に立たない。
「こんな時こそ魔剣でしょうがー‼ 起きろーココ‼」
自身を必死にアピールするも悲しいかな、一度寝たココはなかなか起きない。
寝すぎて育ったのであろう…縦にノビ伸びたわけである。
ココの細長い身体にクリアグリーンのスライムがズルンッと覆いかぶさる。
「ん…んん…」
あろうことかココ毛布に包まるようにスライムを自ら体に巻き付け寝返りをうつ。
「あーーーー‼ どんだけーーー‼」
魔剣ダレヤネン、信じられない光景に大声で叫ぶ。
どこの世界にスライムを自ら巻き付ける少女がいるだろう?
「ンんん…なんか温かい…」
ココの無駄にデケェ寝言。
「溶けるからーーー‼ 溶かそうとして熱、発してるの‼ オマエが今抱き込んだのスライムだからー‼ 気付いてー‼ 寝心地の良さに負けないでー‼」
剣にあるまじき大声で叫ぶダレヤネン。
「うっさいわよ、さっきから‼」
魔剣ダレヤネンの魂の叫びがクイに届いた。
さすがソウルイーター、魂を喰らう剣である。
魂に訴える術は心得ている。
「アンギャー‼」
寝起きとはいえ事態の把握には時間は掛らなかった。
隣にはスライムに包まってスヤスヤ眠るココがいるのである。
「スーラーイームー‼」
斬撃無効・打撃無効の厄介な生物、それがスライム。
「クイ殿…コレはいったい? ぬおっ‼ 私の足にも?」
寝起きでツッコめるほどにはキャラ変できてないトマは事態の把握に時間を要している。
なにょり自身の足に纏わりつくスライムを引っぺがすことが最優先事項なのである。
「ここまでグルグルと一体化というか…なんというか…どうしよう…燃やす以外の選択肢が思いつかない」
クイが大きく深呼吸して両手をココにバッと翳す。
「ジョ・シーハ・オ・トコガ・オモウ・ホドシ・ヨーツニ・キハ・ツ・カワ・ナイ‼」
両手からゴッオッ‼という燃焼音と共に、およそ人には向けてはいけないほどの魔力を含んだ漆黒の炎がココに放たれる。
「ん…ん? 暑い…ってほどの熱さじゃなーーーい‼」
目を覚ましたココ。
包まっていたはずの布団が発火しているのである、その仰天たるや想像に難しくない。
「火事だー‼」
「落ち着くのだココ‼ 火事じゃないぞー‼ 燃えているのはスライムだから‼」
「スライム? なんであろうと熱いー‼」
若干、焦げたココ、人生最悪の目覚めであった。
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