第9話 身体で覚える派

「御婆様…ワタシ、なんか心配ですわ」

 魔女の孫クイが不安げな表情でスヤスヤ眠るココとトマを交互に見る。

「ケヒヒ…まぁ…ちと頭が足らぬようではあるが…それもあって、オマエが、こいつ等に付いていくのじゃケヒヒヒ」

 ケーキを食えないダレヤネンだけが2人の様子を伺っているわけだが…主がスヤスヤと睡眠中である、残念ながら聞くか、喋るか以外の選択肢がない。

 仕方ないので喋ることにした。

「おいババア、孫娘が俺達に付いてくるってのはどういうことだ?」

「おやダレヤネン、聞いていたのかいケヒヒヒ」

「盗み聞きとは良い趣味ではありませんね、ダレヤネン…生前から?」

 性格の歪んだババアと孫、身体さえあれば鉄拳制裁ナックルパンチをお見舞いしたいところだが、残念ながら手足が無いダレヤネン。

 できることは口を挟むことだけである。

「その性格の悪そうな孫が俺達に付いてるとはどういうことだと聞いているんだ」

「ケヒヒ、確かに孫の性格は悪いケヒヒヒ」

「まぁ御婆様?」

「しかし…孫のクイは性格の悪さが幸いして魔術には長けておる、役に立つぞケヒヒ」

 ココと同じく壊滅的に平たい胸を張って鼻をフンッと鳴らすクイ。

「…魔術だぁ~?」

「そうよ、頭の悪いパーティに知将が加わるのよ感謝し感激で涙なさい、そして私の事は大魔導士クイ様と呼ぶことを許しますわ‼」

 そのまま「オホホホホ」」と笑いそうなポーズで魔剣ダレヤネンを見下す自称大魔導士クイ・コムト・グモーデル(16歳)Sっ気の強い娘である。

「大魔導士~…ホントかよ?」

 この大陸で魔導を使える者など、滅多にお目にかかれるものではない。

 大概は占い師とか呪術師に毛の生えた程度なのだ。

「お見せしましょう、この大魔導士クイの暗黒魔法を‼」

 バシッと杖を構えるクイ。

(暗黒系かよ…でもなんか解る…)

 その容姿、言動からなんか暗黒系が似合いそうなクイ。

 おもむろに詠唱を始める。

「ハック・ナラーバ・フル・バ・ツク・オ・オイヒ・モア・ンシン・ハネ・ツ・キー‼」

 杖の先に付いた緑の石がボアッと光ると暗黒の塊がトマの頭部に向かって放たれる。

 ゴンッ‼

「んがっ?」

 まぁまぁの衝撃で爆睡中だったトマが目を覚ます。

「ここはどこだ?」

 トマの言う『ここ』が場所の確認なのか、もしくは『ココ』の事かは解らなかった。

「もう一回♪」

 クイが杖をクルッと回す。

 ゴンッ‼

「ふがっ‼」

 続け様に第2撃がトマの頭部を襲い、再び気を失ったからである。

「ダークマター‼ 謎の黒い塊が対象を物理的に攻撃する暗黒魔法よ‼」

 壊滅的に平たい胸を張って鼻をフンッと鳴らすクイ。

「ダークマター?」

「そう、ダークマター、謎の黒い塊よ‼」

「術者が知らねぇんじゃ…謎だわな~」

 半ば呆れるダレヤネン。

「ケヒヒ、クイの魔力は置いておいて、よく寝ている娘の事から話そうかねケヒヒヒ」

「ココの事?」

「そうじゃ、オマエが転生し損ねたことで産まれた、もう一人のオマエ…ソレがココじゃよケヒヒヒ」

「もう一人の俺?」

「ケヒヒ…復活の呪文を唱え損ねたことで産まれたイレギュラーじゃケヒヒヒ」

「イレギュラー…」

 ベッドでスヤスヤ寝ているココの寝顔を見るダレヤネン。

(コイツが…そんな大層なモンなんだろうか?)

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