星刃忍

夏川冬道

星刃忍

 河越市。ありふれた地方都市の住宅街の一角でこの物語は始まる。

「ハルト! 朝だよ! 起きて!」

 鷹月春斗は幼馴染の海坂凪の声で起こされた。

「凪、また勝手にオレの部屋に入り込んだのか」

 春斗は寝惚け眼をこすりながら凪を見た。凪は日常的に鷹月家に侵入しているらしい。

「春斗、朝食の時間よ! 凪ちゃんも来てるんだから早く起きなさい!」

 春斗の母、香澄が部屋に降りてくることを促してきた。春斗はすごすごと部屋を降りていった。


◆◆◆◆◆


――鷹月家のリビング。

「凪ちゃん、春斗を起こしに来てくれてありがとうね」

「香澄さん、いいんですよ。あたしが好きでやっているんですから」

 香澄と凪はにこやかに談笑した。

「毎度毎度起こされる身にもなってくれよ」

 春斗は心の中で文句を言いながら朝食のパンを食べた。そこにインターホンが鳴り響いた。

「こんにちはーっ、朝食をたかりに来ました!」

「弓彦、また朝食をたかりにきたのか……懲りないな」

 春斗は土門弓彦に呆れた顔で見た。春斗、凪、弓彦は同じ道場で修行した幼馴染なのだ。

「冗談だよ、春斗……一緒に登校したくてさ」

「じゃあ、好きにしろよ」

 ジト目で見つめる春斗をよそに凪はパンを弓彦に渡した。幼馴染3人の朝の風景はこんなふうに繰り広げるのだった。


◆◆◆◆◆


 河越北高校。三人が通う学校だ。今は昼休みで午後の授業に向けて英気を養う時間なのだが普段とは様子が違った。

「校庭を見ろよ……逆戸工業の奴らが単車でグラウンドを走り回っているぞ」

 グラウンドを占拠した学ランヤンキー軍団が集合していた。ノボリには「殺すために生まれた」といつ文字が威圧的フォントで書かれていた。

「鷹月春斗出てこいや!殺してやるぞ!」

 怒り狂ったヤンキーが春斗を呼び出した!

「おい、春斗がヤンキーに呼ばれているぞ」

「逆戸工業のヤンキーどもがお礼参りに来やがった!」

 春斗は逆戸工業のヤンキー軍団に頭を抱えた。突然の事態に遠巻きに見つめている河越北高の生徒たちだったが意を決してヤンキー軍団に歩み出る生徒が現れた。 「アレは……佐伯葵生徒会長! 命知らずの逆戸工の番長グループに立ち向かうなんて無謀だよ!」

 不安がる河越北高の生徒たち!

「ちょっと! グラウンド占拠をやめなさい!」

「あ? うるさいんだよ!」

 ヤンキー軍団の突き刺さるような視線が葵を襲う。

「剛田先輩をナメるな!」

「剛田先輩はバックに極道大将軍がいるんだぞ!」

「お前なんか指一本でダウンできるんだぞ!」

「やめろ……お前たち。俺たちは鷹月春斗と話をつけに来ただけだ。それが終われば俺たちは帰る、簡単な話だ」

 身長195cm強の大男、剛田は凶悪な表情で凄んだ!

「そんなことを信じられると思っているの!?」

 当然、葵は信じない!

「俺の言うことを信じられないなら暴力に訴えるぜ……それでもいいのか?」

 その言葉に思わず後退りする葵!剛田はニヤリと笑った!

「おい、佐伯生徒会長は関係ないだろ」

 そこに鷹月春斗がグラウンドに現れた! 後ろには凪と弓彦もいる!

「ようやくおでましか……とんだ重役出勤じゃねぇか」

「御託はもういい……さっさとグラウンドから去れ、迷惑だろ」

 春斗は毅然と学ランヤンキーにグラウンドからの退去を命じた。

「ざけんな! 俺の後輩をかわいがってくれた落とし前どうつけてくれる!」

「そうだそうだ!」

「慰謝料として50兆円耳揃えてカンパしろ!」

 学ランヤンキーが四方八方から囃し立てる!

 一触即発の空気になったときパトカーがどこからともなく突入してきた!

「誰かが警察に連絡してきたんだ!」

 弓彦はパトカーを見てこう推測した!

「どうやら喧嘩どころじゃなくなったようだな」

「てめぇ、覚えていろよ!」

 捨て台詞を吐いて剛田以下、逆戸工業のヤンキーはパトカーに連行されていった!

「ふぅ……危機一髪だったね。逆戸工のヤンキーがかわいがられたと聞いたけど何があったの?」

「何があったも何も、剛田の後輩にシルバーアクセ屋の婆さんに因縁つけられたからそいつから助けてやっただけだ」

「そうなの!」

 春斗の言葉を聞いた葵は春斗に向き直った。

「鷹月くん、あなたは見ず知らずのシルバーアクセ屋を助けるほどに正義感が強い男なのですね」

「大したことはしてない」

 春斗は謙遜した。

 河越北高に漂った張り詰めた空気は消えたが春斗は胸騒ぎが消えなかった。


◆◆◆◆◆


 拘置所の中で剛田は苛立っていた!

「クソっ、あいつらナメやがって!」

 剛田の中にあるマグマのような怒りが沸き上がった! しかし、怒鳴り散らしてもすでに深夜を回り、拘置所は不気味なくらいに静かだった!

「畜生! 鷹月春斗め! 絶対に許さないからな!」

「グフフ……素晴らしい怒りだ。これはいい邪忍の素体になるぞ」

 拘置所の暗がりに何者かの声が聞こえた!

「誰かいるのか!?」

 突然聞こえてきた声に剛田はキョロキョロと周囲を見回した!

「邪忍ソウル、ダウンロード!」

 謎の声が響き渡り、邪悪なオーラが剛田に入り込んでいく!

「ウワーッ! 俺の身体の中に何者かが入り込んでいく!」

 剛田は邪悪なオーラが身体に入り込む感覚に悶え苦しむが、突然静かになるとゆらりと立ち上がった!

「グフフ……実に邪忍ソウルがこの身体によく馴染む」

 もはや剛田は剛田ではなかった!195cmあった剛田の肉体はそれ以上に大きくなっていた。

「待ってろ、鷹月春斗……地獄に落としてやる」

 どこからともなく雷鳴が響き渡った!


◆◆◆◆◆


「……邪忍の気配を感じる」

 深夜の鷹月家。春斗はそう呟くとスマホで幼馴染に連絡した。すぐに弓彦と凪が鷹月家にやってきた。

「邪忍の気配を感じたのは本当なの?」

 弓彦は春斗に尋ねた。

「あぁ、確かに邪忍の気配だった。徐々に近づいてくる」

「ヤバいわね」

 凪も真剣な表情で春斗を見た。 

「邪忍がカチコミにやってくるぞ……準備しよう」

 その数十秒後、轟音が鳴り響いた!

 三人は外に飛び出した!

「殺してやるぞ! 殺してやるぞ!鷹月春斗!」

 かつて剛田だった邪忍が、トゲ付き金棒片手に襲撃したのである!

「来やがったか、邪忍!」

「ほう……邪忍のことを知っているとは只者ではないな!」

 邪忍は恐ろしい笑顔で春斗を睨みつけた!

 春斗たちは無言でアイコンタクトすると印を組んだ!

「星刃忍……変幻」

 次の瞬間、煙に包まれ、煙が晴れると忍者戦士の姿になっていた!

「貴様ら、星刃忍だったか!」

「……赤星刃」

「……青星刃」

「……黄星刃」

「……我ら星刃忍、邪忍の悪しき陰謀を成敗いたす!」

「まぁいい、星刃忍を蹴散らして邪忍剛力丸の名を轟かせてやる!」

 邪忍剛力丸はトゲ付き金棒を構えて星刃忍を襲いかかった!

 赤星刃はトゲ付き金棒をいなした!

「この邪忍……力だけだ!」

 星刃忍は邪忍は力押ししかできない雑魚と気づいた!

「星刃忍法、バブルスプレー!」

 青星刃は邪忍剛力丸に泡をかけた!邪忍剛力丸は回避できない!

 青星刃は邪忍剛力丸に泡を付着したことを確認すると指を鳴らした! すると泡は次々と爆ぜていった!

「グワーッ!」

 邪忍剛力丸に大ダメージ!

「星刃忍法、グラビティスタンプ!」

 黄星刃は邪忍剛力丸に向けてハンマーで攻撃した!

「グワーッ!」

 重力属性のダメージが邪忍剛力丸を襲った!

「星刃忍法、トルネード斬り!」

 赤星刃は斬撃で竜巻を作り出し、邪忍剛力丸を竜巻に巻き込んた!

「アババーッ!」

 邪忍剛力丸は悲鳴を上げる!大ダメージだ!

「これで終わりだ! 星刃忍法……影分身斬り!」

 星刃忍は6人に分身し、邪忍剛力丸を斬りつける!

「無念!」

 邪忍剛力丸はついに大ダメージに耐えきれず倒れ、剛田の姿に戻った!

「邪忍が再び活性化してきている……河越に戦乱がやってくるな」

 赤星刃は深夜の月を見つめた。星刃忍の姿を鷹月香澄が見守っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星刃忍 夏川冬道 @orangesodafloat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ