なにがあってもすきでいて
胡麻桜 薫
壱の章
第0話 ・・・のおねがい
──美味しそう。
わたしは強くそう思った。『欲しい』と思った。
咲いている花を
欲しい。
壊したい。
ぎゅっとしがみついて、体の中の深いところまで爪を突き立てたい。
引き裂いて、その感覚をずっと覚えておきたい。
そうすればきっと、わたしは『幸せ』な気持ちになれるだろう。
ああ、この感情を、愛おしさと呼ぶことはできないのかしら。
呼べないのなら、とても残念。
目の前の貴方はこんなに美しく、間違いなくわたしのことを好いているのに。
同じように貴方を『好き』になれないのだとしたら、それはすごく悲しいことだ。
夜中に覗き込む穴の底みたいに暗い瞳が、取り憑かれたようにわたしを見つめている。
なんだかゾクゾクして、わたしは上唇を舐めた。
「一緒にいてくれ」
貴方は低い声でそう言った。
「嫌よ。だって、そんなのつまらなそうだもの」
そう言い捨てると、貴方はつらそうに肩を震わせた。
貴方の目元は少しだけ赤くなっている。
それを見ると、わたしの中で渦巻く感情が一層強いものになった。
わたしは貴方に近づいて、胸元に手を当てながら
できる限り、優しい声で。
「でも、お願い。何があっても、わたしのことを好きでいてね」
それから、わたしは──。
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