SS デュラハンの首
奴隷市場を歩いていて、俺は2度見して振り返った。
「は……!??!?! ん……!?!?!? なんじゃあれ……」
店先に、一人? の少女? が座っていたのだが――。
なんと彼女には、首から先がなかった。
頭がないのだ。
首無し……どういうことだ……!?
ていうか、これ生きてるの?
振り返って、立ち止まってみる。
少女は鎖につながれていながらも、手を動かしたりしていた。
どうやら生きているらしい。
俺は店主に話しかける。
「こ、こいつは……どうなっているんだ……?」
「へっへっへ、目の付け所がいいな。うちはめずらしい奴隷を専門にあつかっているんだがな。こいつは世にもめずらしいデュラハンだ!」
「デュラハン……!?」
名前だけならきいたことがある。
だが、この世界にデュラハンが存在していたなんて。
「どういうことだ……? 首がないが、生きているのか?」
「ええまあ、ですがこいつは首がないもんで、眼も見えませんし口もきけません」
「だろうな……」
「そこまでならまあ、普通の欠損奴隷と同じなんですが、このとおり見た目が不気味なんで誰も買わねえんでさぁ。珍しいから売れると思って仕入れたんですがね」
「そうか……そりゃあ、そうだろうな」
俺は、もしかしてと考える。
デュラハンは、はじめからデュラハンだったのだろうか。
「なあ、こいつは初めからこうだったのか?」
「……? それは。どういうことでしょう?」
「この少女は、はじめから首がなかったのかときいているんだ」
生まれたときから首がなかったなんて、そんな生物が存在するだろうか。
だとしたら、そいつの親はどんなだ?
そいつの親も首がないのだろうか?
そんな種族が存在するとしたら、もっと公になっているに違いない。
「さあどうでしょうね。少なくとも、奴隷となったときにはすでにこの感じでしたが……こいつの生まれまでは知りませんねえ。なんせ、口もきけぬもんですから」
「そうか、とりあえずこいつをくれ俺が買おう」
「お! まいどお買い上げありがとうございます! おめがたかいね」
俺はそのデュラハンの少女を買って帰った。
家に帰って、デュラハンをとりあえず椅子に座らせる。
「おい、腹は空いてないか?」
たずねるも、どうやら耳もないからきこえないらしい。
とりあえず、俺は自分の疑問を試してみることにする。
デュラハンが、もしなにかの拍子に普通の人間からデュラハンになったのだとしたら……。
これはいっしゅの、呪いか病気のようなものではないか。
だとしたら当然、治療する方法もあるってことだ。
「えい! エクストラヒール!」
俺はデュラハンの首に回復魔法をかけた。
すると、
「うわあああああああああ!!?!??!?!」
デュラハンの首から、少女の顔がにょきにょきと生えてきたのだ。
あまりにも奇妙なその光景に、俺は驚いて素っ頓狂な声を上げる。
そこには、普通の女の子となんらかわりない、かわいらしい少女が座っていた。
デュラハンの首は、治療により元通りになったようだ。
「お、おい……その……大丈夫か……?」
俺が尋ねると、少女はあたりをきょろきょろと見まわした。
そして、自分の顔を不思議そうにぺたぺたと触る。
「か、かかかかか顔が……ある……!??!?!?」
そして、うれし涙を流す。
「うわああああああああん!!!! お顔がもとにもどったよおおおおおおおお!!!!」
ひとしきり泣き止んだあと、俺は元デュラハン少女から事情を聞き出す。
「それで、いったいなにがあってあんなことになっていたんだ……?」
「それが……実はかくかくしかじかで……」
「なるほどな……」
少女の話によると、彼女は冤罪で首をはねられるめにあったのだという。
だが、彼女は処刑台で首を跳ねられたのにもかかわらず、死ななかった。
死ねなかった。
なんの因果か呪いかはしらないが、彼女に死ぬことを神はゆるさなかったのだ。
それから、彼女は必死に逃げたのだという。
逃げているとちゅうで、奴隷商につかまり、今にいたる。
「ご主人様……ほんとうにありがとうございました。もういっしょうあのままかと思っていました……!」
「まあ、首が生えてきてほんとうによかったよ。あのままだと、俺も困るところだったしな」
デュラハン奴隷なんか、どう使っていいのかもわからない。
そういう性癖のやつになら、需要があるのかもしれないが、さすがに二ッチすぎるだろう。
ということで、デュラハン少女のアリーナは、俺のもとでいったん預かることになった。
そして数日後には売れていった。
アリーナは顔はよかったからな。
あんな美人が首もないまま生きるのは、もったいない気がする。
とにかく、一件落着でよかった。
それから手紙が何通か届いたが、元気でやっているそうだ。
あれから、首にも異常はなく、困ったこともないという。
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