SS 耳の聴こえない音楽家
※なろう版限定で追加していたエピソードです
大好評につき、こちらでも公開します
◇
今回俺が奴隷市場で見つけたのは、耳の聴こえない少女だった。
名前はイルナというらしい。
イルナは耳が生まれつき聴こえない。
そのせいで、言葉もろくに発することができない。
読み書きはできるみたいだ。
奴隷商人のオッサンとは、ボードに文字を書いて会話していた。
イルナを家に連れて帰り、さっそく治療の準備をする。
すると、イルナがなにやら指でリズムを刻んでいるのを確認した。
やることがなくて暇なのだろう。
イルナは奴隷商で繋がれているときも、そうやって指を壁にトントンして音を立てていた。
イルナには、その音が当然聴こえない。
だが俺にはどうも音が大きくて気に障る。
こっちは治療の準備をしているんだ。
勘弁してくれ。
「なあイルナ。ちょっとの間でいいからその指をトントンするのをやめてくれ」
俺はジェスチャーでイルナにそう制止する。
イルナは「あう……」と声に出して残念そうに、しぶしぶしたがった。
すると今度は、無意識なのかイルナが鼻歌を歌っている。
とはいえ、本人にも自分の声は聞こえていないわけで。
おそらく無意識に声を出しているのだろう。
イルナ自身に声は聞こえないわけだから、音程ははっきりいって無茶苦茶だ。
正直いって、クソ音痴だ。
だけど、不思議とさっきと違って、まったく不快感はない。
「綺麗な声だな……」
イルナの声はとても独特な声をしていた。
透き通っていて、それでいて芯がしっかりしている。
これは歌を歌えば、いい歌手になれるぞ……。
ただし、音程がわからないせいで無茶苦茶なのが残念だ。
だが、それも俺が治療すれば音がわかるようになる。
「イルナ、歌を歌うのが好きなのか?」
「あう……」
イルナにジェスチャーできいてみる。
どうやら声を出すのは好きらしい。
自分に音がきこえなくても、大きな声を出すのは気持ちがいいみたいだ。
身体が歌いたがっているようすだ。
音はきこえなくても、身体がそれを求めているんだな。
俺はなんとしてもイルナの耳をよくしてやりたいと思った。
「えい……! EXTRAヒール……!」
俺はイルナの耳に回復魔法をかけた。
すると、
「あうああああああああああ!!!!?」
イルナは自分で声がきこえるのに驚いていた。
そしてとても喜んでいた。
まだ言葉は発音できないだろうが、それもこのイルナの賢さがあればすぐに覚えるだろう。
そしてイルナは、喜びをそのまま、歌にしてくれた。
イルナは完璧な音程で、綺麗な旋律を奏でる。
「おお……すげえ……いいぞ……!」
俺は拍手で応えた。
どうやらイルナには、天性の歌の才能があるようだ。
歌詞はラララだが、それでもなにか伝わってくるものがある。
イルナはよろこびと感謝を俺に表明してきた。
俺に抱き着いて、頬をすりすりしてくる。
「はは……よかった。イルナが歌えるようになって」
イルナは声が自分できこえることに喜びを感じていた。
しばらくのあいだ、イルナはずっと歌を歌っていた。
そんなイルナは、とある伯爵の家に買われることになった。
商館でイルナにBGMとして歌を歌わせていたところ、それをたいそう気に入った客がいたのだ。
言葉なんかも、ちゃんとした待遇で教育してくれるそうだ。
イルナはお手伝い係兼歌い手として、買われていった。
今日も伯爵家で、歌を歌って楽しく暮らしているといいな。
あとからイルナから手紙が届いた。
どうやらイルナは毎日歌を歌ったり、ピアノを弾いたりして、伯爵家に音楽を届ける仕事をしているそうだ。
毎日が充実しているらしく、本当によかった。
◇
【あとがき】
新作をはじめました
よろしければ読みにきてください
俺だけ【UR確定ガチャ】で世界最強♪貧乏で無料ガチャしか引けなかったけど、貯めたお金で引いた初めての有料ガチャで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます