第46話 奴隷志願者たち


 俺の元から冒険者として派遣している連中は、ドミンゴたちのときと比べて、かなり多くなっていた。

 ドミンゴに奴隷たちを鍛えさせ、数も増やし、かなり大規模な運営になっていた。

 奴隷の管理も、一部ドミンゴやオットーに任せて、組織化してあるのだ。

 俺たちは、冒険者ギルドの中で、クランと呼ばれるものを作っていた。


 クラン【エルドの剣】

 それは、うちで働く奴隷たちが所属する大規模な組織だった。

 クランというのは、パーティのさらに上のくくりみたいなもので、複数のパーティをとりまとめたものだ。

 クランの中では装備品やアイテムの受け渡しなどが盛んにおこなわれ、情報共有などもする。

 冒険者ギルドのなかで、うちのクランは2番目に大きなクランとなっていた。


 すると、うちの評判もそこそこになってくる。

 いろんなあることないことが噂されるようになった。

 クラン【エルドの剣】は、かなり報酬が美味しいらしいと。

 しかも、弱いやつでも、ある程度まで鍛えてくれるカリキュラムが充実しているだとか。

 武器などの貸し出しも充実していて、奴隷でも稼げるだとかなんだとか。

 ただし、そのメンバーは全員シュマーケン家の奴隷だという。

 そういうふうに、話題になっていた。


 そのせいだろうか――。


 うちの屋敷に、何人かの冒険者たちがやってきて、こんなことを言い出した。


「エルド様! 俺たちを、この家の奴隷にしてください!!!!」

「は、はぁ……???」


 普通に冒険者として働いているのに、こいつらはなにを言っているんだ?

 自ら奴隷になりたいなんてやつ、俺はきいたことがないぞ。


 だが、冒険者たちは頭をさげて、俺に懇願してくる。


「お願いします! 俺たちと奴隷契約を……!!!!」

「はぁ……?」


 とりあえず、話をきいてみることにする。

 そいつらの話では、どうやら彼らは低ランクの冒険者らしい。

 彼らの話では、ここに集まったものは、みな才能のない、万年底辺の冒険者なのだそうだ。

 だから、ろくに金ももうからずに、レベルもあがらない。

 みんなそんな生活に、うんざりしていた。

 冒険者以外の職につけるようなあてもない。

 だから彼らは、ここに来たのだという。


「お願いします! 俺たち、このままだとろくに稼げないんです。それなら、エルド様の奴隷になって、エルドの剣で稼いだほうが、いいんじゃないかって!」

「本気で言ってるのか……?」

「はい! エルド様の奴隷は、かなり待遇がいいって評判です。冒険者ギルドで噂になっていて、ききました!」

「うーん、まあ俺は別に構わないけど……」


 まあ、向こうから労働力になりたいと言ってきているんだ。

 別に、拒む理由もないだろう。


「言っておくが、普通に俺はお前らを奴隷扱いするぞ? それでもいいのか?」

「いいんです! あんなクソみたいな生活なら、奴隷のほうがましです!」

「よし、なら契約しよう」


 俺は、集まった底辺冒険者たち全員と奴隷契約を交わした。

 これで、勝手に人員が増えたことになる。

 もしかして、うちのクラン、かなり割がいいのか?

 まあ、よくよく考えてみると、他のクランよりも手厚くサポートはしているよな。

 雑魚でも、回復オーブでの修行で、そこそこのレベルにはなるし。

 大けがをしても、俺が回復してやれる。


 武器や防具は俺の金でいいものを用意したのを、貸出ている。

 生活費は全部こっちもちだし、後は稼ぎの2割がそのまま小遣いだ。

 2割といっても、上位の冒険者の収入なら、それなりの額になる。

 そう考えると、たしかに底辺冒険者をフリーでやるよりはいい暮らしができるのだろうか。

 よし、じゃあついでに、人員募集の張り紙でもしてみるか。


 俺は、条件を書いた張り紙を、屋敷の前に貼ってみることにした。


「冒険者大募集……! と、これでよし……っと」


 すると、かなりの応募者があった。

 奴隷になるというのに、みんなそれでいいのか……?

 募集者の多くは、浮浪者や職のないものたちだった。

 俺は彼らを、一気に雇い入れた。

 おかげで、俺のクランは一番の大規模クランになった。

 これで、さらに儲かりそうだ。





【side街の人たちの声】



 エルドの貼った人員募集の張り紙に、人だかりができていた。

 そこには、低収入のものや、浮浪者、ホームレスもまじっていた。

 中には、ブラックな環境で働く職人や、普通の省庁で働くようなものもいた。

 彼らは、口々にその張り紙への印象を口にする。


「なんだこの高収入は……!」

「この好待遇、いまどきないぞ……?」

「なんだこの条件、最高の職場じゃないか……!」

「今の仕事より全然よさそうだぞ……!?」

「俺、マジで転職しようかな……」


 などと、エルドは気づいていないが、これはかなり魅力的な条件なのだ。

 そのくらい、困窮しているものは多かった。

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