第39話 主人公だぞ……?


「は…………?」


 アルトが、死んだ。だと……?

 いや待て待て待て待て。

 主人公だぞ……? 主人公死んだ……?

 え……? マジ……?


 せっかく俺が鍛えて、魔王を倒せるようにしたつもりだったのに。

 魔王強くね……?

 え、マジ……?

 頭が真っ白になった。

 アルトが、死んだ……。

 そんなことが、本当にあり得るのか。

 

 アルト、いいやつだったよな……。

 俺のために必死で魔王を倒そうと、頑張ってくれていた。

 さすがは主人公。憎めない、とってもいいヤツだった。

 そんなアルトが死んで、俺も悲しい。

 だが、いつまでも悲しんではいられないのだ。


 じゃあ俺の計画は?

 アルトに魔王を倒させて、クレアを押し付ける計画は……?

 くそ……どうすればいいんだ。

 おお勇者よ死んでしまうとは情けない。


「エルド様、次の御指示をください」

「あ、ああ……」


 俺はひどく動揺していた。

 アルトが死んだということは、じゃあ誰が魔王を倒すんだ……?

 そう、俺しかいない。


 アルトのことはレベル8400まで育て上げた。

 それでもアルトは魔王に敗れた。

 もしかして、光の力に覚醒していなかったからなのか?

 

 じゃあ、魔王を倒せるのなんて、俺くらいしかいないんじゃないか?

 くそ……結局そうなるのか。

 アルトに全部を押し付けるつもりだったのに、結局俺が動かなきゃいけないのか。

 運命は、俺を放してはくれないようだ。


「よし……俺が出る」


 俺は、覚悟を決めた。

 俺がアルトの仇を討つ。

 もう他に、それしか方法はないだろう。



 ◆



 ドミンゴと合流し、俺は魔王城の中へ潜入する。

 闇魔法でドミンゴのもとまではすぐに転移できた。


「おい、本当にアルトは死んだのか……?」

「ええ……。俺はなんとか逃げれたんですが、アルトは即死でした……」

「っく……そうか……」


 ドミンゴの案内で、俺は魔王の部屋の前へ。


「いくぞ……!」


 魔王の部屋に押し入ると、そこには血まみれで倒れているアルトの姿があった。


「アルト……!」


 駆け寄ろうとすると、魔王が奥から姿を現した。

 禍々しいオーラを放ち、魔王はこちらに近づいてくる。


「おや……? 倒したと思ったら、また人間か。おや、貴様は水晶にも映っていた回復術師の男。ちょうどいい、貴様を倒せばすべて片付くと思っていたところだ。まさかそちらからのこのこと現れるとは」

「ふん、それはこっちのセリフだ。お互い、大将同士の決着といこうじゃないか」


 俺は魔王と対峙する。

 たしか、ゲームでの魔王のレベルは8000ほどだったはずだ。

 レベル9999の俺なら、楽勝だろう。


「愚かな人間め……! 死ねえええええ!」


 魔王の攻撃を、俺は片手で受け止める。


「なに……!?」

「面倒はごめんだ。一瞬で終わらせる。

 

 黄〇よりも昏きもの――血の流れより〇きもの――(以下略――」


 あ、これは怒られるやつだ。

 間違えた。

 もう一度――!

 

「覚醒神技――闇魔法グリモア参ノ章――霧雨」


 ――ズバババババ……!!!!


 その瞬間、魔王の身体が無数に切り刻まれる。


「があああああああああああああああああ……!!!!」


 決着は一瞬で着いた。

 魔王といえども、しょせんはゲームの表ボスだ。

 俺のレベル9999といえば、ゲームの裏ボスをも倒せる


「ふぅ……」


 魔王を瞬殺した俺は、その場で一息つく。

 だが、問題はここからだ。

 なんとか俺が倒したことじゃないってことにできないかな……。


「すごいですエルド様! さすがです! 魔王をも瞬殺とは……」


 と、ドミンゴがなかば驚きながら、俺をほめたたえる。

 俺はドミンゴのほうを向き、すこし考えた。


 こいつが倒したことにできねえかな……。

 いや、まあでもドミンゴは俺の奴隷だからな。

 どっちみち、俺の手柄になってしまう。


 やはり、アルトがいてくれればな……。


 そのときだった。


「う、うぅ…………」


 血まみれで倒れているアルトの死体から、わずかにうめき声があがる。

 ま、まさか……!

 俺はアルトに近づいていって、脈を確認する。


「まだ息がある……。わずかにだが、死にかけているが生きているぞ!」


 これは希望が見えてきたな。

 アルトが生き返れば、すべてが解決する。


「エルド様……!」

「ああ、俺が回復させる……!」


 俺はすぐさま、アルトに回復魔法を使った。

 しかし、俺のエクストラヒールを使っても、すぐには治療できない。

 アルトの状態は、それほど悪かった。

 欠損や血などの外傷はなんとかなるが、なかなかアルトは目を覚まさない。

 それでも俺は、必死にヒールをかけ続けた。


 こちらにも、かなり負担がかかる。

 やはりこのレベルの傷をいやすには、かなり負担が大きいようだ。

 だが、俺は決してあきらめない。

 なんとしても、アルトを蘇生させる。

 なんとしてもアルトを英雄にするんだ……!


「うおおおおおおおおおお!!!! よみがああああえええええれえええええええ!!!!」


 正義のその奥で夢が息づいているんだあああああ!!!!

 呼び覚ませ、鮮やかに!!!!


 すると――。


「うぅ……ここは……? あれ? エルド様……?」

「アルト……!!!!」


 俺は思わず、アルトにハグをしていた。

 おっしゃあああああああああああ!!!!

 アルトよみがえったああああああ!!!!

 首の皮一枚つながった気分だった。

 これで、アルトに押し付けられるうううううう!!!!


 やっぱこいつさすがは主人公だわ。

 主人公がそう簡単にくたばるわけねーもんな!

 よしよし!

 あとは魔王はアルトが倒してたことにすれば、万事解決だ!



 ◆



【sideアルト】


「アルト……!!!!」

「あれ……? エルド様……?」


 深い眠りに落ちていたような気がする。

 俺は、重たい体を持ち上げて、なんとか起き上がる。

 目の前には、よろこんで俺をハグするエルド様がいた。

 あれ、なんでエルド様そんなによろこんでるの……?

 ていうか、ここはどこ……?


「そうだ……俺は魔王を倒さないと……」


 記憶が混濁している。

 だが、どういうことだ……?

 エルド様の後ろには、魔王の死体があった。

 っは……! まさか……! そうか、きっとエルド様が倒したに違いない!

 さすがはエルド様だ。

 そうだよな、エルド様なら、そのくらい可能だもんな……!

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