第40話 逃げるんだよおおおおおお!!!!【サイド回】
【sideアルト】
そうか、きっとエルド様が魔王を倒したに違いない。
エルド様の顔をみると、エルド様はひどく疲れた顔をしていた。
きっとすさまじい戦いだったのだろう。
俺はそう思い、エルド様に労いの言葉をかけようとした。
その時――。
「いやぁ、アルトお前ほんとすごいなあああ!!!!」
「え……?」
エルド様は俺の肩をつかんで、食い気味にそう言ってきた。
「一人で魔王を倒してしまうだなんてなぁ! さすがは俺の見込んだ通りの男だ! な、なあドミンゴ!」
エルド様は後ろのドミンゴにもそう同意を求める。
ドミンゴは困惑しながらも、懸命にうなずいて同意した。
「そ、そうですねエルド様! さすがエルド様のご慧眼です。アルト、よくやったな!」
などと、エルド様もドミンゴも、俺のことをほめたたえる。
どういうことだ……?
「お、俺が……魔王を……?」
「そ、そうだぞぉー! お前すごかったんだから、記憶を失って暴れまくってたんだから! 魔王を倒したあとは疲れて倒れちゃってたんだから! そこを俺がかけつけて、回復魔法をかけたってわけさ」
「そ、そうだったんですか……?」
なんだかそう言われても、まったく記憶にない。
ぜんぜんピンとこないなぁ……。
俺が、本当に魔王を……?
だけど全然記憶にない。
だけどまあ、エルド様が言うのだから、そうなのだろう。
うん、エルド様は絶対だ。嘘なんかつくはずないもんな!
「エルド様! これもエルド様のおかげです! ありがとうございます!」
「いやぁ、全部アルトの才能だね! よくやったよ! うん!」
エルド様に褒められて、俺は素直にうれしかった。
これまで、魔王を倒すために必死になってがんばってきたんだ。
一番認めてほしかった人に、こうまで言われると、俺も感無量だ。
「あれ、でもエルド様、かなりお疲れのようですが……なにかあったのですか?」
「あ、ああ……それは、お前を治療したからだよ。お前は魔王との戦いでかなり消耗して、死ぬギリギリだったんだから」
「そうだったんですか……。エルド様、俺を助けてくれてありがとうございます」
「なに、魔王を倒した勇者さまだ、死なせるわけにはいかないだろ」
俺はエルド様に心から感謝した。この人には、これからも一生尽くそう。
◆
【sideエルド】
ということで、なんとかアルトは騙せたな。
だが、問題は王様とクレアだ。
あの二人をなんとかしないと……。
俺は魔王を倒したことを報告するために、アルトとドミンゴを連れて王城へ。
「ということで、王様! 見事、魔王を討ち取りました!」
「おお! エルドよ、ご苦労だったな。すばらしい! さすがは我が娘の婚約者だ……!」
う……。胃が痛い。
ゲロ吐きそうだ。
なんとかここから話を婚約破棄の方向にもっていかないと。
「い、いえ……。それがですね、魔王を倒したのは私ではありません……」
「なんと……! そうなのか? では、誰が?」
「それはこちらの、アルト・フランシフォンであります!」
俺は王様に、アルトを紹介する。
「王様、お初にお目にかかります。アルト・フランシフォンです」
「おお、君が……。それは素晴らしい功績であったな。あとで褒美をとらせよう。もちろん、エルドくんにも」
だが、俺はそれを否定する。
「待ってください王様、俺は褒美を受け取る立場にございません」
「なに……?」
「実は、俺はアルトに魔王討伐を押し付け、砦で引きこもっていました。俺はとんだ腰抜けです。なので褒美もいりません! それに、クレアさんにも俺のような男ではなく、アルトのほうがふさわしいと思います!」
俺は早口でまくしたてた。
それを、アルトが否定する。
おい、いらんこと言うな!
「待ってください、エルド様は砦でみんなを治療していたじゃないですか! 本当の功労者はエルド様ですよ! 俺を瀕死の状態から救ってくれました!」
おいマジでコイツ……いらんこと言うなし。
「それは、本当か? なぜそうまで謙遜して褒美を拒む?」
と、王様が尋ねてくる。
「いえ、それもアルトの作り話です。俺に情けをかけて、こういってくれているんです。アルトは出来た男ですから。そうです、アルトこそ勇者にふさわしい、ぜひクレアさんとの婚約の話もアルトに……」
「むぅ……とにかく、おぬしはよほど褒美がいらんようじゃな? まあいい。そうまで頑なに言うなら、褒美はすべてアルトにやろう」
アルトは、びっくりしながら、俺に問いかける。
「エルド様……。いいんですか……?」
うん、これでいいからあっち向け。
これ以上ここにいると、墓穴を掘りかねん。
とりあえず王様にアルトを押し付けて、俺は逃げるとするか。
「じゃあ、俺はこれで……! 俺のような役立たずは消えますね!」
「あ、エルド様……!?」
にっげるんだよおおおおおおおおおおおおおおお~~~~!!!!
俺は全速力でその場から逃げた。
もう知らん。あとは勝手にしてくれ。
◆
【side王】
「なんじゃったのだ……あやつは……」
「さぁ……」
エルドが走って逃げてしまい、私とアルトが取り残される。
せっかくエルドには褒美をやろうと考えておったのだがな……。
それに、クレアのことも。
だがしかし、あそこまで拒むとは。
仕方のない男だ。
まあ、彼にも彼なりの事情というものがあるのだろう。
救国の英雄、そこは汲んでやるかの。
「それでクレア、お前はいいのか? それで」
私は後ろで隠れていたクレアに問いかける。
クレアはエルドに、思いを寄せていたはずだ。
「わ、私は……構いません……。エルド様のお相手は、私では務まらないでしょう……。エルド様がお付きのエルフの少女を見る目、あんな姿を見せらては、入る隙もありません」
やはり、エルドはあのエルフ少女とできておるのだろう。
それは一目見て明らかじゃった。
「そうか。それに、お前もまだ覚悟ができとらんみたいだしな……」
「御父様……!? 気づいて……」
エルドがまだクレアに手を出しておらんことは、気づいていた。
エルドにどうしても魔王討伐させるため、クレアと婚約だのと言ったが、やはりクレアにはまだ早かったかのう……。
「当たり前だ。これでも父だからな。魔王討伐のためとはいえ、お前には申し訳ないことをしたな……」
「いえ……エルド様が、誠実な方でよかったです」
「うむ、あんな男は珍しいのう」
エルドは本当に出来た男だ。あれほどの男、ぜひ本当にクレアの配偶者にと思っておったが……。
まあ、あそこまで拒まれたら仕方がない。彼の意思を尊重しよう。
それに、魔王討伐は成ったのだから、政略結婚みたいなこともさせる必要はないしな。
クレアには、またいい男が見つかるじゃろう。
だが私も、もう長くはない。
クレアはまだ知らないが、実は重い病に侵されている。
それもあって、私が死ぬ前に、なんとか魔王を倒せればと思っておったのだ。
だからこそ、エルドには無理やりにでも魔王討伐に協力させたのだった。
エルドとアルトのおかげで、それはなんとか間に合った。
そうじゃの、アルトにも褒美をとらせなければの。
私は、目の前の男にこう提案した。
「アルトよ、魔王討伐ご苦労じゃった。
して、アルトよ。王座になど、興味はないか――?」
――つづく。
===================
【あとがき】
これにて第二部終了です。次回からは第3部がはじまります。
今後はまた奴隷中心の1部のような感じになると思います!
ここでみなさんに大事なお願いがあります。
もしここまで読んで、
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