第16話 色のある世界


 今回買った奴隷は、生まれつき目が見えないのだという。

 今までは、元々あった腕を生やしたりしていた。

 だが、今回はもともとないものを、できるようにせねばならない。

 俺の回復魔法で、それができるのだろうか……?


「どうだ……?」


 俺はそう言い、奴隷――ルミナの眼帯を外す。

 ルミナは恐る恐る目を開くと、感嘆の声を上げた。


「わぁあ……! すごいですご主人様! 色が……色がみえます……!」

「そうか……! それはよかった……!」


 俺がなぜルミナを購入したのか、それは今日の午前中にさかのぼる――。



 ◆



 いつものように奴隷市場をブラブラ散策していたところ、奇妙な絵をみつけた。

 店頭に、いくつかの奇妙な絵が並べられていたのだ。


「これは……?」


 俺は店主にきいてみた。


「これは奴隷の一人が、なにやら描いてるんです。それで、せっかくだからこうして店の前に並べて、客寄せにでもなればなと……。まあ、けったいな絵ですからね。誰も買い手はつかないでしょうが……」


 それらの絵は、いっぷう変わっていた。

 風景画でもない、人物画でもない。

 もっとこう、抽象的なものが描かれていた。

 まるで夢の中の風景を描いたような、そんなもやもやした絵だ。

 どこか霧がかかっていて、なにが描かれているのかはっきりしない。

 俺はなぜかその絵に、強烈に惹きつけられた。


「これを描いた奴隷は?」

「こいつです。このルミナという奴隷です。実は……こいつは目が見えなくて。それなのに絵を描くんです。不思議なもんでしょう?」

「ああ……」

「まあ、一芸にはなるかもですが、目が見えないんじゃ、絵はねぇ……」


 店主はそう言うが、俺には立派な絵を描いているように見えた。

 目が見えないのにアレが描けるのは大したものだ。


「この奴隷をもらおうか」

「はいよ! まあ、一応欠損奴隷ではありますが……絵を描けることも考慮して……500Gでいかがでしょう?」


 500Gか……欠損奴隷につける値段としては、異常なまでに高額だ。

 これは、この親父、奴隷の特技があるからといって、ふっかけたな。

 だが……。


「構わん。買おう」

「へい、まいどあり……!」


 俺はルミナに利用価値を見出した。

 この目を俺が治せば……あるいは――。



 ◆



 そして話は今に戻る。

 俺はルミナの目を治療してやった。

 ルミナははっきりとこの世界が見えるようになったらしく、感動してあちこちを歩いていた。


「すごいですご主人様、すべてに色があります……! これが色なのですね……!」

「はは、大げさだな。そりゃあ、色はなんにでもついているよ」

「これが……ご主人様の顔……素敵です」


 ルミナは見るものすべてに感動し、なんにでもうっとりした目線を向けた。


「今ならなにかインスピレーションが湧きそうです……! 絵を描いてもいいですか? ご主人様」

「もちろんだ。画材をもってこよう」


 俺はルミナに絵を描かせることにした。

 奴隷にも、それぞれ特技がある。その特技を活かすのが、奴隷にとっても主人にとっても一番いい。

 ルミナは黙々と画板に向かい続けた。

 そして数時間後に完成した絵をみて、俺は驚いた。


「これは……ほんとうにルミナが描いたのか……!?」

「目に見るものが、新しいものばかりで……衝動のままに描きました!」

「これは……ちょっとすごいな……」


 ルミナの描いた絵は、今までにみたことのないようなものだった。

 目が見えるようになる前から、ルミナの絵には才能があると思っていたが……。

 色を知ったルミナの描く絵は、さらに一線を画すものだった。


「よし、ルミナ……! これを売ってもいいか?」

「もちろんいいですけど……売れますかね……?」

「俺にいい考えがある……」


 俺はルミナの絵を、商館に飾ることにした。

 すると、セモンド伯爵がやってきて、それを気に入って買っていった。


「いいぞ……これはいい商売になる……!」


 商館にくるのは、金を持て余した貴族ばかりだ。

 そして貴族は新しいもの好きだ。

 こんな前衛的な芸術作品が置いてあれば、すぐに買っていく。

 これからもルミナに絵を描かせ続けよう。


「それでご主人様、私は奴隷として、なにをすればいいでしょうか……?」


 ルミナは潤んだ目で俺にそう問いかける。

 服をはだけさせ、奉仕の準備をしているようだ。

 ルミナは奴隷としてそれなりに覚悟を決めているようだった。

 しかし、俺はルミナにそんなことをさせる気はない。

 

「待てルミナ。お前には奴隷のような普通の仕事はさせない」

「え……? それでは……」

「ルミナの仕事は、絵を描くことだ。ずっと絵を描いててくれていい。もちろん、思い浮かばないときは自由に過ごしていてくれ」

「そんな……! それではまるで奴隷ではなく絵描きではないですか! ずっと絵を描いていていいなんて、夢見たいです……! ありがとうございます……!」

「その分、ルミナには稼がせてもらってるからな。絵についた値段の2割はルミナに小遣いとして渡そう。これでなんでも好きにすごしてくれ。もちろん画材を買ってもいい」

「ありがとうございます……! こんな待遇、夢のようです……!」


 こうして、俺には新たな収入ができた。

 ちなみに、セモンド伯爵に売った最初の絵は27800Gで売れた。

 ルミナを買った値段を考えたら、ものすごい儲けだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る