RPG世界へTS転生した俺が悪役令嬢で、乙女ゲー主人公が世界を浸食してくる
蘭駆ひろまさ
第1話
何体ものサイクロプスの群れが、巨大な剣を振り上げて迫ってくる。
そんな魔物の群れに立ち向かうのは、俺を含めてもわずか5人の10代の若者だ。
男2人女3人の、今王都で一番話題の冒険者パーティー。正直、あの程度の魔物に負ける気はしない。
「じゃあいつも通り、私が神聖魔法で支援します」
俺の喉から発せられたのは、前世での野太い声ではない、鈴の鳴るような涼やかな声。そして、視界の端で揺れる銀色の髪。
そう、日本で男だった俺は、16年前にこの世界で女として転生した。
この世界は前世でハマった『白銀の乙女』というRPGの世界だ。主要キャラクターとの恋愛要素もあり、しかも主人公が女性だが男性とも女性とも恋愛関係になる事が可能という事で話題となり、男女ともに高い人気があった。もちろん漫画やアニメにもなったし、続編に加えてDLCという形だが各人気キャラクターが主人公の外伝も作成された。その世界に俺は転生したんだ。
オフィーリア・フォン・アルストロメリア、それが今世での俺の名前。
『白銀の乙女』の主人公でもある、長い銀髪が特徴の超絶美少女。侯爵家令嬢で、剣にも魔法にも高い適性を持つハイスペックなキャラクターだ。前世で男だった俺が女に生まれた事に最初は戸惑ったが、女に生まれて16年経つとまぁそれなりに順応してくる。家が厳しかったこともあり、自分の事を『私』と呼んで女性らしく振舞う事にももう慣れた。
「いきます! 『闘神の加護』!」
手の中の剣を振りかぶり唱えると、仲間たちの身体が光に包まれる。
仲間たちの攻撃力と防御力を同時に強化する、高位の神聖魔法。
「オッシャア! ありがとな、オフィーリア! これであんな雑魚に負ける気がしねェよ!」
でかい斧を振り上げ、気勢を上げるのはガルデス・ガランサス。
18歳でパーティー内最年長の、引き締まった筋肉をもつ美丈夫だ。平民ながら同年代では他を圧倒するパワーと、コツコツと積み上げた努力で侯爵家令嬢でもある俺のパーティーメンバーに選ばれた男。
「ありがとう、オフィーリア。君の魔法は、いつみても美しいよ」
優し気な声で、貴公子然とした笑みを浮かべるのはアレイスター・ハイドランジア・フォーサイス。通称アレス。
ミドルネームにハイドランジア王家の名前を持つ、正真正銘の王子様だ。若干17歳にして王子としての洗練された優雅な所作に加え、剣にも魔法にも適性を持つ、まさに貴公子。
「……ありがと。ボクも魔法、がんばる」
言葉少なにコクコクと頷く小柄な少女が、クロエ・クレマチス。
俺より年下の15歳ながら、突出した魔法の才能を持つ少女だ。もとは孤児だけど魔女と呼ばれる放浪の魔法使いにその才能を見出され、英才教育を受けたことにより開花したその腕前は宮廷魔導士並み。
そして
「いつもありがとね、フィア。わたしも頑張るね」
俺の隣で微笑む、さらさらとした金髪の少女。
その笑顔を見ると、思わず頬が緩むのを感じる。
ああ、フランはいつも可愛いなぁ。
俺をフィアと呼び、ふんすと可愛く拳を握りしめたのがフランシーヌ・フォン・ファリナセア。
子爵家令嬢で、俺――オフィーリアの幼馴染であり一番の親友。他の3人と比べると飛びぬけた才能というのは持ち合わせていない、比較的普通の少女だ。だけど、魔王と戦うために最前線で戦うオフィーリアを支えるために、人一倍努力して頑張る努力家の女の子。
「ううん、フランが側にいてくれるからよ。フランがいてくれないと、私は頑張れないわ」
隣に立つフランの手をそっと取り、組んだ手の指を絡めあう。
「えへへ、そう言ってくれるのはフィアだけよ。大好きだよ、フィア」
えへへとはにかんで笑い、手を握り返してくれるフラン。
かわいすぎる!
そう、俺とフランは女同士だけど恋人として付き合っている。ゲーム的に言えば、フランルート。
女性キャラクターの攻略も出来るゲームの世界だからか、この世界は同性同士の恋愛に対する抵抗は全く無い。
みんながサイクロプスへと走る。
ガルデスの斧が、アレスの剣が、クロエの魔法が、フランの弓が、サイクロプスを次々と倒してゆく。
魔物の群れが全滅するのに、そう時間はかからなかった。
「ハハッ、こんなもんか。張り合いねェな」
「王国でも問題になっていたサイクロプスがこんなに簡単に……。さすがオフィーリアのパーティーだよ」
「……余裕」
「みんな、おつかれさまです。お水いりますか?」
声を掛け合うメンバーを視界に収めながら
「ステータスオープン」
と俺が言うと、目の前に半透明のウインドウが現れる。
これは、ゲームでよくあるメニューウインドウのようなものだ。この世界で俺ひとり……かどうかは分からないが他の人でステータスオープンが出来る人に会った事はない。自分やパーティーメンバーのステータスを見たりスキルの整理などが出来るうえ、アイテムボックス機能やマッピング機能まである破格ともいえる性能を持つスキルだ。
まぁ目の前に実際にウインドウが出現するのは、正直自分でも違和感半端ないが。
空中に浮かぶウインドウをまるでスマホを使うようにタップすると、表示される情報が切り替わりステータスや経験値、次のレベルまでの必要経験値などが表示される。
「さて、どのくらい経験値獲得できてるかしらね……」
獲得した経験値を確認していると、フランが声をかけてくる。
「フィアのそのステータスオープン、ほんとに便利だよね」
唇に指をあてて、うらやましそうなフラン。
「ほんとだよなァ。オフィーリアと組んでからは成長速度が半端ねェからな」
「確かにね。スキルや魔法の取得も格段に楽になった。自分でも信じられないくらい強くなったよ」
「……分かる」
同意してくれるみんな。
この世界では、普通の人は自分がいま現在どれくらいのレベルなのか、スキルは何を保有していてどれくらいの熟練度なのか、次のレベルアップやスキル獲得までどれくらい経験が必要なのか、一切分からない。
だけどこのステータスウインドウがあれば、それらすべてを数字で把握できる。
それは、とてつもないアドバンテージとなる。
俺はこの力をフルに活用して、自分やパーティーメンバーの戦力強化を行っていた。
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