呪われた橋
猫又大統領
読み切り
大きな山が僕の住む村を睨むように見下ろしている。山頂は分厚い黒い雲で一度もこの目で見たことはない。物知りの村長が化け物の棲み処になっていると教えてくれた。
村長は僕の親代わりに育ててくれたとても優しい人だ。その優しさが、僕が次の番人になることを反対していることは残念だったが、嬉しくもあった。
でも、これが僕の役割だ。その理由は大昔に僕の先祖が家族で山頂から降り、家族を村に住まわせる代わりに村を怪物から守るという約束があっそうだ。
今も僕の唯一の肉親であるお婆さんが番人をしている。山の麓で暮しながら戦っている。
もちろん、それだけではない。この運命を後押ししてくれているのはこの村の人々の優しさ。
今日は数か月に一度、お婆さんの所へ生活必需品などを届ける日ことを知った村人達は自分の大事な食料を僕の荷車にたくさん積み込んだ。
「必ず帰ってくるんだよ。私たちはここで祈ってるからね。それくらいしか出来なくて。ごめんなさい」
「ありがとうございます。戻ってきますよ。戻ってきたらまた宴会をしましょう」
僕はそういうと予定より重くなった荷車を押して麓へと向かった。
山の麓へ行くには唯一の少し長めのかずら橋を通らなければいけない。この橋は何度か先祖の手によって落ちている。自分の命と引きかえに村への侵入を阻止するために。
僕は橋の前で荷車を止め、橋を何度も往復して荷物を向こう側へと運んだ。
「ご苦労」
そこには、何十年も容姿の変わらないお婆さんがいた。見た目は二十代だが、実際は高齢だ。
「すまないが、今日はすぐに帰りな」
「ええ……うん」
「私が生きていたら、また橋を架けておくれ。さあ、気を付けて帰るんだよ。心配ないさ、また会うつもりだよ」
「そんな……」
「この橋。奴らは呪われた橋と呼んでるそうだ。その呪いをあんたが受け継ぐんだ」
「わかってるよ。でもまだ早いよ」
「村の人には内緒だよ。あんたは一番、力がある。怪物ならそれは一目でわかることだ」
お婆さんはそう言いながら満足そうに笑みを浮かべ振り返り、ありったけの武器を入れた木箱から、左手に銀色の大きいリボルバー、右手には柄に血が染み込んでいる小型の斧を握り山頂へと歩き出した。僕はその後ろ姿を目に焼き付けた。
僕は橋を渡ると、熱を帯びた涙をそのままに、大きな斧に身体を持っていかれながら力を込めて橋を落とした。
呪われた橋 猫又大統領 @arigatou
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