第44話:理解と驚き

 魔王クリス洗脳問題への対策が決定したので、オレはテレポートでザイアムの町に飛び、ちょうどレベル上げから帰ってきたフォミナを捕まえた。ありがたいことに、エリアは仕事があるとかでついてこようとしなかった。


「こちらがクリスさん。帝国の魔族で、幹部で、魔王だ」

「いきなりすぎます。ちゃんと説明してください」


 流血の宮殿、謁見の間でテーブルを出してお茶を飲んでいたクリスを、フォミナに紹介すると、かなり怒った様子でそう言われた。


 素直にザイアムの町で見かけたこと、オレの名前を知っていて目を付けていたこと、どうも誰かに洗脳されているらしいこと、などを説明する。


「……色々と思うところはありますが、状況は理解できました。クラム様でも解除できないんですね?」

「そのとおり。それでちと困っている。マイスが良い案を思いついてな、フォミナの力を借りれば何とかなるかもしれん」

「私の力? どんなことをやるんですか?」


 席に座り、執事のセバスの入れたお茶を口に含みながら問いかけるフォミナ。

 それにオレはすぐに答える。


「クリスを一度殺して、フォミナに蘇生してもらおうと思う」

「……なに考えてるんですか、マイス君。滅茶苦茶ですよ。そりゃ、蘇生魔法は使えるようになりましたけど、やっていいことと悪いことがあります」

「そうだそうだ。その通り。フォミナと言ったわね。もっと言っていいのよ」


 結構な勢いで眉を立てて注意されるオレ。それに全力で乗っかるクリス。了承したけど納得してなかったって事だな。

 だが、オレにも言い分はある。


「こいつは戦争しかけて大量に死者を出してる国の幹部だ。少しくらい命を賭けてもらってもいいんじゃないか? それにほら、どうせ生き返るならプラマイはゼロだし? 洗脳が解ければ戦争の原因とか、色々情報がわかって人死にが減るかもしれないんだぞ」


 その説明に、フォミナは腕組みをして少し考えてから答える。


「……ありかもしれませんね」

「おい! この娘もちょっとおかしいわよ! クラム公! どうなっているんですか!」

「妾に文句を言われても困る」


 オレの方を睨んできたが、それも困る。元々フォミナはちょっとこういう所があるのだ。


「じゃあ、話がまとまったんで。やっちゃいましょうか」

「うむ。そうだな」

「……楽なやつでお願いするぞ」


 クリスが諦めた様子でいうと、フォミナが怪訝な顔をした。


「やるのはマイス君なんですか? そういう魔法、持ってましたっけ?」

「猛毒か切断だな。多分、切断の方が楽だと思う」


 オレの手持ちに即死魔法はない。確実に殺るならその二択になる。


「ちょっと待て! 一瞬で終わる的なことを言ってただろう! なんとかならんのか!」


 またも抗議を始めるクリス。もう少し魔王としての威厳を見せて頂きたい。


「やれやれ……ここで変死体や惨殺死体を作られても困る。妾がやるとしよう。クリス、こちらを見よ」

「はい……」

「<死を思え>」

「うっ…………」


 クラム様の一言で、魔王クリスは即死した。

 こわっ、ゲームにはなかった技だぞこれ。問答無用なんじゃないか?

 いや、それよりも蘇生だ。せっかくクラム様が手伝ってくれたんだし、すぐやってもらわないと。


「フォミナ、頼む」

「はい。フル・リザレクション!」


 フォミナが立ち上がって呪文を唱えると、クリスの体が淡く輝き、顔に血色が戻ってきた。

「かはっ。……あ、あれが……死。あたしはどれくらい死んでた?」

「二〇秒くらいじゃないかな。すぐにフォミナがやってくれたよ」

「か、かたじけない。ありがとう……フォミナよ」

「いえ。決まってたことなので」


 立ち上がって礼をされて、戸惑うフォミナ。なんか、ちょっと雰囲気変わったか?


「クラム公も、そちらのマイスにも迷惑をかけた。ようやく頭がすっきりしたわ。長いことかかっていた靄が晴れた気分」

「とすると、洗脳が解けたってことでいいのか?」

「ええ。今思うとなんでああなっていたのかわからないわ。皇帝の命令で商業連合に戦争を吹っかけ、あまつさえ各国で破壊工作するなんて。全てが性急すぎて、常なら止めるところよ」


 席に座り、セバスの用意した新しいお茶を手にしながら、クリスは大きく溜息をついた。


「うまくいったようでなにより。では聞くとしよう。クリスよ。お前を洗脳したのは誰だ? 曲がりなりにも魔王。そう簡単にそんな醜態は晒さぬはずであろう」

「…………」


 クリスは無言だ。置いたカップの中の液体をじっと見つめている。自分に起きたことを考え、まとめているのが伝わってくる仕草だ。

 数分ほどで、彼女は顔を上げて口を開いた。


「恐らく、半年ほど前に皇帝と共に帝都の地下の遺跡に入った時です。その際に、皇帝の様子がおかしくなり、あたしも何らかの魔法をかけられたと推測されます」

「ほう……」

「…………」

 

 興味深そうに唸ったクラム様とは別に、オレは驚きに震えていた。


 おかしい。それは起きないはずのイベントだ。なにかが決定的に、オレの知っているゲーム知識と違っている。


「どうしたんですか、マイス君。顔色が悪いですよ」


 さすがに表情に出ていたようで、フォミナが心配顔で言ってきた。


「もしかして、帝都の地下遺跡を皇帝が起動したのか? あれは男には起動できないはずなのに……」


 呻くようなオレの呟きに、怪訝な顔をして反応を返したのは魔王クリスだ。


「男? なにを言っているんだ。現在の皇帝は女性だぞ?」


 その言葉に、オレは根本的な勘違いをしていたことに気づいた。

 

 既に「茜色の空、暁の翼」のラスボスは誕生していたんだ。

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